大魔術師の幼馴染と、弱者の俺〜魔術が使えない俺は、刀術でダンジョンへ挑む〜
桃桜
はじまり
第1話〜全てが終わり、全てが始まった日〜
この世界は魔術が使えることが普通であり、使えないことは普通では無い。
使えない者はウィーク、つまり弱者と呼ばれ、蔑まれ、酷い扱いを受けることが普通である。
何故魔術が使えない者が生まれるかは、現在分かっておらず、魔術が使えない者同士の子供は魔術が使えない、とは限らない。
この俺シキもそうだ。
魔術が使えない。
ウィークの1人。
俺が生まれたのはアラタ村と言う。
ダンジョンの外れにある小さな村だ。
ダンジョンとは、この世界に7つある迷宮らしい。
実際に行ったことが無いからわからないが。
しかしそのダンジョンの奥深くには、金銀財宝が眠っているらしく、それを求めて人々はダンジョン探索をする。
ダンジョンには色々なアイテムや、魔物や魔獣といった類のものが現れる。
それらを集め、倒し、報酬を受け取る、冒険者という者達が居る。
冒険者の中にはウィークが多い。
とは言え、他の職業と比べたらというだけで、実際は魔術師が99%の割合である。
ウィークは普通の職には余程の事が無いと有りつけず、良くて冒険者、悪くて奴隷。だからウィークの皆は冒険者になりたがる。
だからこの俺、シキも親に1度冒険者になりたいと言ったことがある。
しかし両親のどちらとも首を縦には振らず、お前にはそんなことできるわけが無いと、やっても無いのに言われる始末。
村の外に出て、冒険者になりたい! と言えば、周りの子供達に袋叩きにされた。
それでも、幼馴染のカレンだけは、いつも助けてくれた。
カレンは色白で綺麗な栗色の髪に、茶色の瞳。
幼いながらも、確実に美人になるだろう、大きな眼に、長いまつ毛と、スラッと通った鼻筋。
皆一様に可愛いと言い、更に魔術は村の子供の中では1番と来たもんだ。
俺との待遇の違いが露骨過ぎた。
男の子達は気を引こうと必死だったが、いつも俺と遊んでいた。
ある日俺は尋ねた。
「どうして僕と遊んでくれるの? 」
僕なんかという意を込めて言ったことを覚えている。
黒髪黒目、パッとしない顔つき、少し黄色っぽい肌。
みんなと違うウィーク。
それに対しての返事は純粋だった。
「私が遊びたいからよ」
楽しかった。
ウィークとして生きるのは辛いけど、カレンと一緒に生きていきたいと思った。
どうすれば隣で生きていけるか、今はまだわからないけど。
そんな時だった。
夜、王国軍が進軍してきた。
王国はダンジョン街に物資や有能な魔術師が集まることを良く思っていない。
だからダンジョン街へと進軍し、乗っ取ろうと考えたらしい。
では何故このダンジョンとは遠い村を襲ったのか?
それはここを拠点とするためだった。
実際、ダンジョン街の精鋭達との戦争になり、ダンジョン街の軍は勝ち、王国軍は敗戦となった。
しかし俺の居た村は守られなかった。
家が燃えた。
人が燃えた。
家畜が、野菜が、果物が燃えた。
俺はそれを、ただただ見ていることしかできなかった。
カレンが殺されそうになっていた。
それでも俺の足は動かなかった。
ウィークの俺じゃ、行っても殺される。
何もできない。
無理だ。
このような思考になる俺をこの時程、呪ったことは無い。
とにかく俺はその場所を1歩も動けずにいた。
そんな時だった。
赤い短髪で、浅黒い肌、目は細く、赤いマントを着ている男が、横に居た。
俺が師匠、アガツと出会った時だった。
師匠の両の手には剣があった。
普通魔術師は術の成功率と、威力を上げるため、杖を持っている。
強力な魔術を使用する際は、安定しないことも多く、制御するため、杖を振るう。
王国軍の魔術師となれば、それはもう皆杖を持っている。
ダンジョン攻略者の中には、魔術剣士、魔術槍士、魔術弓士、魔術盾士など居るが、王国軍は誰も彼も杖。
しかし、アガツは剣を持っていた。
何故ここに剣士が居る?
そんな時、俺に話しかけてきた。
「なぁ、坊主。あの娘助けたいのか? 」
「た、助けたい」
「なら、自分でやれ。剣は貸してやる」
そう言って、1つの剣を俺の目の前に投げた。
どういうことだ?とこの時は思った。
たった6歳の子供に剣を振るえと、この男は言ったのだ。
でもできるはずが無い。
「で、できない。ぼ、僕ウィークなんだ……」
「できないじゃない。やるんだ。そして殺るんだ。ウィークがなんだ。坊主が魔術師を殺さないと、あの娘死ぬぞ?」
恐怖した。
それでも俺の足は動かない。
「お前は、人を守るための武器を持っているのにも関わらず、見殺しにするのか? それこそ人殺しだ。あの娘を“死ぬ気で守れ”」
その時俺は、剣を手に持ち、足を動かし、魔術師に向かっていった。
アガツの一言、“守れ”。
この一言で、俺の足、腕、全身は動いた。
俺は魔術師を殺そうとした。
しかし、杖で弾かれる。
その後魔術の詠唱が始まった。
死ぬ。確信した。
ウィークが、守りたい者のために立ち上がったところで何もできなかった。
現実を見せつけられた。
その時、後ろからアガツが走ってきた。
そして、
「よくやった。合格だ」
そう言って、頭を撫でられ、剣を手に持ち、魔術師に向かっていった。
急に来られた魔術師は、慌てて詠唱を辞めてしまう。
杖を使って自身を守ろうと、防御の姿勢を取った。
しかし、アガツの方が1枚上手だったらしい。
魔術師の手首を切り、痛みで魔術師は杖を落としてしまう。
その後、足蹴りで突き飛ばし、そのまま魔術師の元へ。
魔術師の首に剣を当て、ひと撫で。
魔術師は首から血飛沫を上げ、死んだ。
アガツのおかげで俺は死なず、カレンも助かった。
アガツが守ってくれた。
しかしアガツは今でもこう言う。
「守ったのは俺じゃない。お前だ。お前が魔術師に向かっていったから、俺は動いた。それだけだ」
不器用だなと、弟子の俺は思う。
2人とも助けられたが、俺たち以外の村人は、死んだか、捕虜となり、村には帰れそうに無かった。
俺はあんな村どうでも良かったが、カレンは少し悔しそうだった。
何もできなかった自分に腹が立つ。
無力な自分に腹が立つ。
それは俺も同じだ。
カレンを自分の手で守れなかった。
次は、そしてこれからは、俺が必ず守ってみせる。
そう誓った。
行く宛ての無い俺はどうしようと、思っていたが、アガツが、俺の家に来いと言ってくれた。
アガツはダンジョン街に、1人で家に住んでいた。
1人ひとつベッドを用意してくれたが、眠れ無かった。
その時カレンがベッドに潜り込んできた。
「ごめんね、今日。シキを守れなかった」
カレンは泣いていた。
だから俺は……
「俺こそカレンを守れなかった。でも次は、これからは、カレンは俺が守る。この命に替えても」
安心させるように言った。
カレンは泣きながら、それでもはっきりとした口調で……
「なら私はシキを守るよ。今までもそうだったようにね。シキは私が守るから、安心して」
俺も泣いた。
その後2人手を繋いで寝たのを覚えてる。
次の日からも、ご飯も出してくれて、少しずつ食事の時に話をすることも増えて、食事らしくなった。
何故助けてくれたのか、理由を聞いた事がある。
アガツはこう言った。
「俺もウィークだ。だが、ウィークを免罪符として、何もできないと言うやつは大嫌いだ。だから少し試験をした。
初めはウィークを免罪符にしていたが、あの嬢ちゃんを守るために立ち向かうこと。あれは簡単にできることじゃねぇし、俺にもできねぇ。
だから助けた。それだけだ」
本当に素直じゃない。
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