第6話〜意地を貼り通せ〜

「私を倒してからなりなさい」


 カレンは本気の目で言った。


「私の方が強いもの。私くらい倒せなくて何が冒険者よ」


 カレンは自信たっぷりに、俺を煽るように言う。


「カレンを倒せば良いんだな? 」


 それに対して俺は、真剣な目でカレンに言う。


「ええ、私に勝てたなら、冒険者にでも何にでもなればいいわ。ただし勝てたらよ」

「わかった。それで、いつにする? 」

「そうね。3日後で良いんじゃない?お互い準備があると思うからね」

「わかった。3日後にここで良いか? 」

「ええ、良いわよ」

「決まりだな」

「ならもう帰りましょう。私お腹空いちゃった」


 ようやくカレンの煽り口調が無くなり、俺たちはアガツの家へ帰ることにする。

 それにしても、俺はカレンを倒すことができるのか?

 あの10年に1人と言われる魔術師のカレンを。

 できるとすれば、後2日でどうにか、作戦を考えないといけない。

 それはカレンにも言えることだが…


 *


「「ただいま〜」」


 俺たちは、アガツの家に着いた。

 周りはレンガ造りの家が多くなっているというのに、家は木製。

 いつもエリーゼさんは古臭いと言っているが、俺は結構気に入っていたりする。


「おかえり2人とも〜。遅かったじゃない」

「飯はできてるぞ。と言っても、殆ど終わっていたから、味を整える程度だったがな」


 そう言ってスープと、パンが出てくる。


「ありがとうございます、アガツさん」

「いんや、それ作ったのあたし〜」

「え、エリーゼさんが、作ったんですか……」


 エリーゼさんはお世辞にも料理ができない。

 その話を聞いた俺とカレンは、絶望の表情を取る。


「バカ言え! こんなに美味そうなのお前に作れるか」

「バカとは何よバカとは! 私だって練習すればこのくらい……」

「なら練習しろ練習を」

「嫌よ。料理は時間の無駄よ。それに料理屋のご飯の方が美味しいもの」

「ならお前の分はいらないな」

「んーん、カレンちゃんのご飯は別! だって美味しいもの! 」

「なら俺の料理はいらないんだな」


 と言ってアガツはエリーゼさんのスープを下げようとする。


「ごめんってアガツ! あ、いや、え? マジで流しに捨てる気?

 もったいないじゃないのよ!

 あ、ほんとに許してください、アガツさん。

 ちゃんと食べるので、私にもください」

「素直にそう言えば良いんだ、素直に」


 こんなエリーゼさん久しぶりに見たな。

 ご飯のことになるとエリーゼさんはトコトン弱い。

 俺とカレンは2人の掛け合いを見ながらクスクスと笑っていた。


「じゃあ、いただきます」

「「「いただきます」」」


 アガツが初めに良い、3人は後から言う。

 肉と野菜のごった煮スープだが、素材が素材だけに美味い。

 何しろ農家から買っている野菜である。

 ウィークの人が作っている野菜であるが、その人が作ると、何故か他の野菜よりも美味しいのである。

 もう魔術というより、魔法と言った方がいいくらい。

 自分達の食べる分より、多くできてしまうからと、タダ同然で買わせてもらっている。

 しかし、その野菜を買っているのは俺たちと、他に数人程。

 美味しいのに、ウィークが作っているというだけで、皆買わないのである。

 みんな損をしているな、と少しほくそ笑んでいるのは内緒である。


「それで、お前たち、話し合いしてきたんだろ?」


 ここでアガツから、話題が作られる。


「はい」


 それにカレンが答える。


「それで、結局どうなった? 」


 何故かエリーゼさんはアガツの方を見ながらニヤニヤ顔である。

 そんなエリーゼさんをほっといてカレンが言う。


「はい、結論から言うと、3日後、森の前で決闘することになりました」


 ズッコーン! ! !


 アガツはイスと一緒に後ろへ倒れ込み、それを見たエリーゼさんは、笑いが堪えきれなくなったのか、大爆笑である。


「決闘って、ど、どうしてそんな結論になった! ?

 それとエリーゼ、てめぇは笑いすぎだ」


 イスを持ち上げ、座りながら、慌てて喋る。

 そしてカレンが事の経緯を話す。


「てめぇらの言い分はわかった。それにてめぇらの決めたことなら、文句は言わねぇ」

「ほぅ。あのアガツが認めるなんてね」

「ああ、ただし2人でやるのはダメだ。

 やるなら俺たちも行く。

 俺は審判として。

 そしてエリーゼはシキに防御魔術を使う為に。

 万一があるといけねぇからな」

「ヒュー。弟子どうしの対決だね。どっちが上手く育てられたか、1度やってみたかったのよね。それもアガツの前で」

「育てたとかそういう風に言うな。

 てかなんだその言い方。エリーゼは何度かこの2人の対決を見たような口ぶりじゃねーか」

「いつも見てるわよ。1回もシキが勝ったこと無いけどね」


 そうなのだ。

 俺は1度もカレンに勝ったことがない。

 でも個性が発現した俺なら、作戦さえ立てればあるいは……


「今までとこれからのシキは全く違うけどね……」


 エリーゼさんがボソッと何か言った気がしたが聞き取れなかった。


「後のルールはこれから考えるとして、2人とも」


 アガツが俺とカレンの方を見ながら言ってくる。


「お前たちは互いに自分の意地を言い、どちらも譲らなかった。

 ならこれは貼り通さなくてはいけない意地だ。

 わかっていると思うが、後3日で心変わりして、相手に譲るとすれば、その程度の意地であり、その程度の人間であり……」


 そこで一旦区切り、再度力強い目で俺たちを見つめた。


「その程度の意地も貼り通せない人間に、これからの未来は無いと思え。

 良いか? 意地を貼り通せ」


 アガツは俺の師匠であり、俺たち2人の恩人であり、俺たちの親代わりでもある人だ。

 そのような人に言われたのだ。

 だから俺たちは「はい」と大きな声で返事した。

 だが……


「さすがアガツ〜かっこいいよアガツ〜」


 茶化す人が1人いた。


「お前は、この雰囲気で茶化すな! ! 」

「顔真っ赤〜。あはは」


 エリーゼさんにからかわれた照れもあり、エリーゼさんに笑われたのもあり、アガツは林檎みたいに顔を真っ赤にさせていた。

 だから俺とカレンもアガツのことを見て笑っていた。

 でも、俺はずっと頭からさっきの言葉が離れなかった。

『意地を貼り通せ』

 俺はこれからこの言葉を忘れないだろう。


 *


「シキちょっとこい」


 食事が終わった後、俺はアガツの工房に呼ばれた。


「アガツ、なんだって急にこんな所に呼び出したんだ? 」

「シキ、お前にこれを渡そうと思ってな。

 これからはこれで修行しろ」


 そう言って渡されたのは木剣であった。

 しかしいつも使っている木剣とは違う。

 細く、薄く、軽く、刃の部分は片方しかなく、沿っていた。


「これは? 」

「それは木刀というものでな、東の国で多様されている刀という剣を模した、木剣だ」

「木刀…」

「ああ、今日の瞬発力を見るに、軽い刀の方が良いかと思ったんだ。

 付け焼き刃にはなるが、後2日でどうにかしてみろ」

「う、うん。わかった」


 かと言って、後2日で、新しい剣、もとい刀を使いこなせるのか?

 わからない。


「そうだな。それを使って、もしカリンに勝てたのなら、シキの為に刀を打ってやる」

「ほ、ほんとか! 」


 ついに、俺も鉄の剣、いや刀が使えるんだ!

 やる気が出てきた!

 テンション上がる!


「俺は絶対勝つ! そして俺の武器を打ってもらう! 」

「おう、頑張れ」


 やるぞー!

 カレンを倒して、冒険者になって、刀を手に入れるぞー!


 *


 3日後。

 俺は木刀を持って、森の前に来ていた。

 すると少し遅れて、杖を手に持ち、白のローブを纏った戦闘用の格好をしたカレンと、杖を手に持ち、青のローブを纏ったエリーゼさんが一緒に来た。


「今日は負けねぇ。勝って冒険者になる」

「今日も勝つのは私。そしてシキを冒険者にさせない」

「2人とも、今はそんなに気を張らなくていいでしょ? アガツだってまだ来てないのに」


 するとカレン達の後ろから、アガツがやってきた。

 あの時の赤い外套をなびかせて。


「おーし、じゃあ2人とも始めていいか?」

「私はいつでも大丈夫」

「俺もOKだ」

「ならエリーゼ、シキに防御魔術を」

「ええ。ウォーターディフェンス! 」


 俺の体に水がまとわりつく。

 しかし、水に濡れることや、動きにくいということは無く、単純に俺を守ってくれているといった形だ。


「シキ、良いか? 」

「はい。ありがとうございますエリーゼさん」

「良いのよ、これくらい」

「ならはじめようか」


 俺は木刀を、カレンは杖を構える。


「では、はじめ! 」


 アガツの合図で、俺とカレンの、意地と意地のぶつかり合いが始まった。


 ______


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 3話で説明した魔術の属性ですが、

 火、水、風、光、闇

 を

 赤、青、緑、白、黒

 にします。

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