第19話〜シルバーウルフその壱〜

 ブルーファルコンを倒してから10日後。俺とカレンは連日ダンジョンへと潜り、ゴブリンやスライムを沢山倒し、更にはブルーファルコンを数羽倒していた。

 そして俺たちは今日、シルバーウルフに挑もうとしていた。


「なぁアガツ、シルバーウルフの攻略法とか教えてくれないか?」

「ん? なんだお前ら、もうシルバーウルフに挑むつもりか?」

「ああ、カレンと話し合った。それに受付の人にはもうシルバーウルフを倒せるだろうって言われた」

「ほーん。なら良いんじゃねーか」

「ああ、だから攻略法とか……」

「ねーよ、そんなの」

「え?」


 無い? 本当に? 1層のボスだぞ? その攻略法が無いだと?


「ああ、ねぇよ。頑張って倒すんだよ」

「なぁに寝ぼけたこと言ってんのよ」


 俺たちの会話にエリーゼさんが入ってきた。


「エリーゼ、お前来てたのか」

「今さっき来たところよ。それよりシルバーウルフの攻略法が無いなんて嘘つくんじゃないわよ」

「え!?」

「え? エリーゼさん、あるんですか? シルバーウルフの攻略法」

「あるわよ、カレンちゃん。なんたって1層のボスだからね。挑戦者も1番多い。蓄積されたデータから攻略法はあるわよ」

「良かった。本当に無いなら戦いの中から探すしか無いのかと思ってました」

「それは無いわよ。7層以降のボスでも無いし」


 俺たちは一安心した。しかしアガツはなんだか不機嫌な顔をしていた。

 その後俺たちはエリーゼさんから、シルバーウルフの情報をもらった。

 曰く、まずボス部屋を探すこと。このボス部屋探しが1番難航するらしい。

 最西のダンジョンというのはどういう仕組みか、入る度に構想が少し変化するらしい。そんな仕組みの中からボス部屋を探し出しても、戦闘終了待ちとなることも多く、かなり時間がかかることもあるとのこと。


「ま、別に焦んなくても1日2日でダンジョンの構造は変わんないから大丈夫よ。今日無理でも明日挑戦したら良いし、時間的に無理そうなら雑魚倒して端金稼ぎでもしたら良いのよ」


 流石元『9層者』の冒険者。時間の使い方も教えてくれる。てかそういうことは初めにレクチャーしてくれよ。

 シルバーウルフというのは体毛が銀色に輝いている為シルバーウルフと言うらしい。

 そしてボスのシルバーウルフは主に噛み付くことによる攻撃と、爪による攻撃を多用するらしい。


「つまり、それらの攻撃を上手く捌きつつ、攻撃する、ってことでいいですか?」

「シキくんかっしこーい。その通りよ」

「まぁ私は遠距離からの攻撃と防御があるから、そこまで脅威じゃないとしても、近接のシキには脅威よね?」

「まあな。でもそれは今に始まったことじゃないから大丈夫だよ。近接戦闘の恐怖はいつものこと」

「それなら良いわ。ま、私も遠距離戦闘は恐いから、お互い様ってとこかな」


 遠距離戦闘も恐いんだな。まぁ基本遠距離は安全だけど、不意をつかれたりしたら恐いだろうな。


「ま、あとはすばしっこいってくらいね。ま、頑張って来た前後輩諸君!」

「はい、ありがとうございます」


 そう俺たちはエリーゼさんにお礼を言った。


「ねぇ、アガツからも何か無いのー?」


 エリーゼさんがさっきから難しい顔をしているアガツに話しかける。

 するとアガツは俺の方を見る。


「シキ、これだけは言っておく」

「は、はい!」


 この時のアガツは家族の父親的な雰囲気ではなく、師匠としての雰囲気だった。

 それを察し、俺はかしこまる。


「刀に限らず、剣というのは込める力の方向によっては折れやすいんだ」

「はい」

「刀の場合、普通の剣よりも薄い。つまり縦の力には強いが、横の力には弱い」

「はい」

「まぁだからなんだ。正しい方向に力を込めろ。じゃないと折れる」

「はい、分かりました。ありがとうございます」


 これは今まで何度も聞いたアドバイス。

 それをこの時に言うということは何か意味があると感じた。

 それは直ぐに分かることとなった。


 *


 俺たちは必要なものを、カバンに入れ、ダンジョンへ入った。


「さぁて、とりあえずボス部屋探しつつ雑魚狩りするか」

「そうだね。じゃあいつも通り……」


 そう言いつつカレンはゴブリンに向かってファイヤーアローを放つ。

 血も涙もない攻撃に呆れを通り越して感動すら覚える。


「いやー、毎度の事ながらすごいな」

「そう?」

「うん。それに威力も上がったんじゃないか?」

「あ、分かる? 威力は使ってれば適当な所までは上がるんだけど、そこからは努力しないと上がらないのよね」

「そういうもんなんだな」

「そうなの。それに最近は精度も気にして撃ってるから、命中率も上がったと思う」


 確かにカレンの魔術の命中率と威力、共に上がっているように感じる。

 俺も魔術が使えたらこういうことで悩んだりするのかな。カレンとの違いを見せつけられて絶望するだけのような気もする。


「とか言うシキも、最近は剣術が上がったんじゃないの?」

「まあな。そりゃあれだけ刀を振ってたら上がるよ」


 だけどまだまだだよ。まだ俺は個性の力で、力任せに刀を振っているだけのような気がする。

 刀と剣の違いはあれど、アガツの剣術は洗練されたものがある。まだ俺はそこにはたどり着けていない。一生たどり着けないかもしれない。


「努力してるのはお互い様だし、これからも頑張りましょ。とりあえず今日はシルバーウルフの部屋を見つけられればいいわね」

「そうだな」


 いつも通りクールに言うカレン。

 そうだ。今日はボス部屋を探して、あわよくばシルバーウルフを倒す。

 そして2層に進む。冒険者としての道を進む。


「じゃ、今日の俺の初の獲物はそこに居るブラックバットだな」


 そう言って俺はブラックバットに斬りかかった。


 *


 途中休憩も挟みつつ、3時間程歩いただろうか。

 未だボス部屋は見つけられず、ダンジョン内をさまよっていた。

 流石にこれだけ見つからないと、肉体的にも精神的にも疲れや焦りが出てくる。

 少しだけ広い広場へと足を踏み入れる。


「ねぇ、ここさっき通ったんじゃない?」

「そうかもな」

「とりあえず休憩しましょう」

「ああ。で、今日の弁当は何?」

「今日はね、サンドイッチ」


 渥美の持っているカバンの中からバスケットが出てきた。

 その中からサンドイッチが出てくる。

 パンは厚く切られて具材が挟まっている。具材は肉と野菜がたくさん挟まれていた。

 それをひとくち。


「美味い! 肉と野菜、それにソースが濃くて疲れた身体に丁度良いよ!」

「えへへ、ありがと」


 カレンも嬉しそうに微笑みつつ、ひとくち頬張る。

 俺はその間にふたくちみくちとガツガツ食べる。

 カレンが半分食べ終わる前に俺は1つ全部平らげてしまった。


「美味しかったよ、カレン。いつもありがとう」

「ど、どういたしまして……」


 なんだぁ? カレンのやつ俺に褒められて照れてやがる。可愛いヤツめ。

 とりあえずカレンが食べ終わるまで一服していた俺は手を頭の後ろにして、寝転がった。

 別に何も無い、ただの土の天井。

 俺はぼんやりと考えていた。

 カレン程強ければ他のパーティからも誘われるのでは? もしかしたら俺の元を離れてしまうのでは無いか? 俺はその時どうすれば良いんだろう。冒険者を続けられるのか? 他のパーティに入って何とか続けるのか? カレンがどんどん強くなって、どんどん下の階層に進むのに、俺はずっと同じ場所に居て、どんどん置いていかれて。いつしか誰も俺の傍には居なくなるのかもしれない。

 はぁ、嫌だな。カレンが俺の傍を離れるのは。俺はカレンをつなぎ止められる力が欲しいだけなのかもな。冒険者などやらずとも、カレンと一緒に暮らして生きたいだけなのかもな。

 はぁ、俺ってエゴイストだな。


「シキ、食べ終わったわよ」


 そんなことを考えていると、カレンは食べ終わったらしい。


「ん? もういいのか? 少しくらいゆっくりしても良いんだぞ?」

「もう充分よ。さ、行きましょ」

「ああ、分かったよ」


 俺は上体を起こして起き上がった。

 その時少しバランスを崩して近くにある壁に手をつこうとした。

 しかし手はつけず、そのまま壁の向こう側に入ってしまった。


「いててて。はぁ? 何ここ、あれって隠し扉みたいなやつ?」


 あれ? カレンは?


「よっと。ってシキ、ここどこ?」


 あ、カレンも着いてきてくれた。良かった。


「いや、俺が知るわけ無い」

「そりゃ……そう、よ、ね……」

「カレン? どうしたいきなり……」


 カレンが俺の後ろの方を見ながら、いきなり言葉が途切れ途切れになった為、俺も後ろを振り向いた。

 そこには銀色の身体をした狼が立っていた。

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大魔術師の幼馴染と、弱者の俺〜魔術が使えない俺は、刀術でダンジョンへ挑む〜 桃桜 @Yonaka

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