才媛たる一輪の華が、凛と咲ける安らぎの地は東南の風吹く場所。

たったの十年後。とても身近な未来のお話。
主人公『巽』は長距離のトラッカー。中年ゆえか、何だか疲れた様子。明るい性格のようで、どこか諦めのような陰があって。でも美人に弱い、典型的なオッサン。

いつもの仕事も突発の仕事も、運送業にはままある。けれども拾ったのは、出会ったことのない危険なタイプの美人『サイカ』。
彼女に脅され、予定外の長距離運送を務めることに。

巽はいい人です。命も含めた自分の都合を考慮しながらも、相手の事情を汲んで優先してしまう。押し切られてしまうタイプなのかも。

サイカは熱く、一途な人。自分が納得したことは、徹底的に貫こうとする。目的は決して利己的でなく、守りたいものの為。

強力かつ手段を選ばない妨害が、二人を襲う。しがないトラッカーが敵うはずもない、強大な相手。
いつしか巽は、サイカとその望みを守りたいと思う。
だが知れば知るほど、解決方法が存在しないことを思い知る。
サイカの望みは、失われてしまうのか……?
◇◇◇
巽とサイカは全く違うタイプです。でも根本で同じ部分がある。それは誰かを犠牲にするくらいなら、自分を殺してしまうこと。
それは美徳であるけれど、救いの手を跳ね除ける行為。実際その為に、何度も頓挫してしまいます。

でももう一つ、共通することが。
大切な誰かの為なら、何だってやれる。サイカのそれはとても狭く、巽はとても広い。
打ち勝つとすれば、きっとこの想いでしょう。サイカさえも、やられてしまうくらいだから。

やきもきします。
それはもう、やきもきします。
大型車と黒塗りセダンのカーチェイス。ハッタリあり、銃撃もありの逃走劇。追い詰められた巽の生還する様は、傷だらけのヒーローと呼ぶに相応しい。
ハリウッドばりのアクションと駆け引きの末に、望みは果たせるや否や。

一つ言えるとすれば。巽運送のトラックは、荷主の希望を叶える日本一のトラックです、ということ。
どこにでも居るオッサンがヒーローになる様は、とても胸を温かくさせられました。

※注:現実には後退もできるので、ご安心を。

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