第38話
翌朝、まだ日が昇り始めた時間帯に女将さんの弁当を受け取って宿を出て4人で西門へと向かう。
西門に着くと既に沢山の傭兵達が集まっていた。
西門の出口に居たブルクスに話しかける。
「おはようブルクス。」
「おはようございますハントさん。早速で悪いんですがハントさんとマルさんはあちらのタイホールが居るグループに行って下さい。そろそろ出発するはずです。キクリさんはあそこの団長が居る本隊へと。クーチさんはここに残って下さい。」
「分かった。」
「キクリ、気を付けてね。」
マルがキクリに声を掛けている。
「…大丈夫。マルも。」
そう言って2人は抱き合った。
「ブルクス、クーチを頼むぞ。」
「分かりました。私達は後方支援部隊なのでみなさんより遅れて出発します。廃墟に陣を構える事になると思いますので、怪我をしたら来て下さい。」
「ハントさん、必ず帰って来て下さいね。」
「ああ。」
クーチに軽めのハグをして離れる。
「それじゃあ、全員、生きて戻ってくるぞ。」
「「はい!」」
「…ん。」
全員が強く頷いたのを確認してから、マルと2人でタイホールの部隊へと向かう。
「魔術が使える方はこちらの方へ!弓が使える方はこちらです!」
タイホールが大きな声を出して傭兵を集めている。
「ああ!ハントさん!!!こっちに!」
タイホールに呼ばれる。
「マル、それじゃあ、後で、だな。無事に帰ろう。」
「はい。ハントさんも気を付けて。」
マルと軽く拳同士をぶつけてタイホールの方へと向かう。
「タイホール、どうした?」
「すいません!ハントさんは我々の斥候部隊と一旦合流してもらいたいんです。」
「構わんが、どの辺りにいる?」
「今から案内します。おーい!誰かここ変わってくれ!」
タイホールが荒鷲団の団員に呼び掛けるとすぐに代わりの人間が来た。
「それじゃあ、行きますか。」
「ああ。」
煙草に火を付けて煙を吐き出しながらタイホールについて行く。
グロースの西門を出て、そのまま街道を西へ向かう。
「少し走りますよ?」
「ああ。問題ない。」
タイホールが走り出した。
とりあえず身体強化を使わずについて行くが少しだけしんどい。身体強化を使って、無駄な体力を使わないようについて行く事にする。
そのまま走り続け、西の森にぶつかったら森に沿って北上する。廃墟が見えてきた。
そのまま廃墟を通り過ぎて北へと向かう。すると、西の森ほどではないが背の高い草とまばらに木が生えた場所があった。
「あそこです。」
その場所にタイホールと一緒に向かい、俺の腰ぐらいの高さのある草の中へと入る。ピュイとタイホールが口笛を鳴らすと、前方の草むらがガサガサと揺れて人が現われた。
「異常はないか?」
「はい。今のところ異常ありません。」
「分かった。引き続き頼む。」
タイホールが指示を出すとサッと茂みへと消えていく。
「それで、俺が呼ばれたのはなんでだ?」
「それはですね…。」
タイホールによると斥候部隊は、バンデットレイヴンの斥候らしき傭兵を発見次第、捕縛もしくは殺害を目的にしているらしい。そのため、少しでも腕の立つ人間を集めようとクマズンに提案したところ俺を連れて行けと言われたらしい。これは、後でクマズンに追加報酬を請求する必要があるな。
とりあえず、煙が目立たないように気を付けながら煙草に火を付けて煙を吐き出す。
煙を掻き消すようにパタパタと手を振る。ポーチから水筒を出して水を飲む。
「ふぅ。」
一息ついたので、気配察知を発動して意識を切り替える。
茂みの中に4人の気配がある。タイホールとその仲間だろう。
街道の方は現在は人はおらず小動物の気配も感じない。
少しだけ察知できる範囲を広げるように意識をする。なんとなく広がった気配察知の中で、北西側をウロウロとするような気配を感じた。
「タイホール、北西側に気配が1だ。だいぶ遠いが辺りをウロウロしている気配がある。」
「分かりました。おい!」
タイホールが茂みの中に声を掛けるとガサガサという2つの音が北西へと移動していった。
「他は今のところ感じられないな。」
「今、確認に行ったので少し待ちましょう。」
プカプカと煙草の煙を吐き出しながらタイホールと待機していると、ウロウロしている気配にタイホールの仲間の気配が近付いていた。気配が一つ消失する。死んだかあるいは気絶かという事だろう。
「どうやら正解だったようだ。」
暫くするとガサガサという音が聞こえてきた。
「隊長、バンデットレイヴンの偵察ですね。斥候というにはかなりお粗末でしたが。
そう言って、タイホールの仲間が気絶した縄で縛った男を草むらに放り投げる。
「分かった。周辺警戒に戻ってくれ。」
タイホールが指示をだすと仲間たちは茂みへと戻っていく。
「さて、どうするんだ?」
「話を聞いてみましょう。」
タイホールはにっこり笑うと、手からウォーターで水を出して気絶している男に掛け始めた。
「ぶはっ!」
男はすぐに目を覚ました。
「さて、バンデットレイヴンさん、あとどれぐらいでこの辺を通りますか?」
太陽を見上げるとだいぶ日が高くなっており、もう少しで昼だろうなと思う。
「誰が!教えるか!!縄をほどきやがれ!!」
バタバタと男が暴れだす。
するとタイホールが、唐突にバシッと男の頬を叩いた。
「静かにして下さい。」
「うる「バシッ」」
男が何か喋ろうとする度に、バシッという音が草むらに響く。
暫くすると男は無言になった。
「ようやく静かになりましたね。で、どれぐらいですか?」
「…。」
「ハントさん、煙草に火を付けてお借りしても?」
「ああ。いいぞ。」
何をやるかは想像がつく。
煙草に火を付けて大きくひと吸いして煙を「ふぅ~。」と吐く。
「ほら。」
「ありがとうございます。さて、どれぐらいですか?」
タイホールは煙草の火を男の顔に近づけていく。
「…。」
男は無言でジッとタイホールの目を見つめているが、徐々に顔に近づく煙草の火を見て震えだした。
「震えると手元がくるって目に入るかもしれませんね。」
「…分かった。日が暮れる前には廃墟の辺りに着くだろう…。」
「そうですか、ありがとうございました。」
タイホールはそう言うと、男の首に短剣を刺して殺した。
「ハントさんは引き続き周辺調査をお願いします。私の部下はハントさんの指示には従うように伝えてあるので。私はコレを持って、廃墟の方へ行って報告してきます。」
「ああ。分かった。」
男の死体を担いでタイホールが素早く南へと走って行くのを見送って、新しい煙草に火をつける。
「ふぅ~。」
タイホールも傭兵なんだなと改めて感じる。
気配察知に集中してしばらくするとタイホールが戻って来た。
「交代でお昼にしましょう。現在、廃墟に後方支援部隊、その北側に本隊と遊撃部隊、森沿いに遠距離攻撃部隊が配置に着いています。できれば、私達で敵を誘い込んでまとめて叩きたいですね。というのがクマズン団長からの伝言です。」
笑ながらタイホールが話しかけてくる。
「簡単に言ってくれるな。」
「ハントさんの事を買ってるんですよ。私達は先に食べましょう。」
「ああ。」
バックパックから弁当を出して食べ始める。
「タイホールも弓を使えるのか?」
「一応は。ただ、短剣の方が得意ですし、一緒に居る仲間もどちらかと言えば情報収集に長けているのでここの役目が終わったら遊撃部隊に合流予定です。」
「そうか。それならこうしよう。」
思い付きではあるが、何もしないよりはいいだろうと考えて、敵を誘い込む方法を話し合う。
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