第7話
プカプカと紫煙を吐きながら街道を歩く。
街道を歩いていると何度か二度見されることもあったが無事に街へと着いた。
門のところで案の定声を掛けられる。
「待て、その人はどうした?」
「ああ、西の森のところの廃墟で倒れていた。さすがにそのままにしておくのは不味いかと思ってここまで担いできたんだがどうしたらいい?」
「まずはお前のタグを確認する。」
「はいよ。」
空いた手で胸元からタグを出しチェックしてもらう。
「うむ、犯罪などではないようだ。疑ってすまないがこれも仕事なんでな。」
「かまわんよ。それで他に手続きはあるのか。」
「その人のタグは分かるか?」
「いや、女の子だからさすがにローブの中はチェックしていない。」
「そうか。なら、目が覚めてからでいいんだがタグを見せに来てくれるか?」
「分かった。問題ない。」
「助かるよ。俺の名前はアディス、大体西門かそこの詰め所にいるから声を掛けてくれ。」
「分かった。俺はハントだ。」
「通ってよし!」
アディスは仕事用の大きな声を出して門を通してくれた。
とりあえずは宿屋か。
部屋が空いていればいいが。
宿に戻りカウンターの女性に声を掛ける。
「すまない。この子が倒れていてな。少し休ませてやりたいんだが部屋は空いてるか?」
「あらおかえり。部屋は今いっぱいなんだよ。知り合いかい?」
「いや、全然知らない。倒れているところに通りかかってな。」
「そうかい、あんたも傭兵なのに珍しいね。それじゃあひとまずあんたの部屋に寝かしといてくれるかい?そのあとは起きてから考えればいいさね!」
「すまない。追加の料金も後でいいか?」
「構わないよ!後で決まってから教えておくれ!」
「ありがとう。弁当も美味かった。」
礼を言って鍵を受け取り部屋に戻る。
部屋に入るととりあえずクリーンを自分と女の子に掛けてからベッドへ寝かせる。
バックパックを下ろし、中から素材の入った皮袋取り出してから一階へと降りる。
「すまないがギルドへ報告へ行ってくる。もし起きたら声を掛けておいてくれるとありがたい。」
「それぐらいお安い御用さ。夕飯は別料金だけどね!」
笑う女性に気持ちよく見送られて宿を出る。
皮袋を肩に担いでギルドへと向かう。
ギルドへ着くとブルクスのいるカウンターへと並ぶ。
昨日よりも早く戻って来たためすぐに俺の番が来た。
「ハントさんお疲れ様です。報告ですか?」
「ああ、ウルフの皮と薬草と毒草を頼む。あと情報なんだが。」
「かしこまりました。おい、これを査定してきてくれ。」
ブルクスが裏に声を掛けると別な職員が来て皮袋を持っていく。
「それで情報とは?」
「まずは西の森だ。地図はあるか?」
「こちらを。」
カウンターに地図が広げられる。
「大体このあたりにゴブリンの巣ができる兆候がある。俺が見た限り20体前後、草を敷いた寝床のようなものがあった。ウルフの骨もまとめて置いてあったから放っておけば巣になるだろう。」
「分かりました。ギルドの調査員を向かわせます。」
ブルクスは手元に何かメモ書きをすると裏にいる職員にそれを渡す。
「これで職員が確認に行きますので明日の朝には報酬を出せると思います。」
「分かった。次は廃墟だな。」
「ああ。昨日の煙の。」
「そうだ。一応気になって見て来たんだが、三人組の男が何かを探していた。そのうち二人には鳥が羽を広げたようなタトゥーが入っていたんだが何か分かるか?」
「鳥のタトゥーですか…。黒く塗りつぶしてありましたか?」
「ああ。一人はスキンヘッドの後ろ側、一人は腕だな。もう一人は分からなかった。」
「そうですか…。恐らくその3人はバンデットレイヴンですね。」
「何か探しているようだったが心当たりはあるか?」
「いえ、そのような情報は今のところギルドでもありません。しかし、バンデットレイヴンが廃墟の辺りまで来ているとなるとだいぶ南下してきていますね…。」
「そうか。まずいのか?」
「ええ。あれらは見境が無いですから。村を襲って略奪の限りを繰り返す。傭兵団を襲う。商人の馬車を囲んで品物を脅し取るなど好き勝手やっています。北部の治安はその影響でだいぶ悪いです。なので少し前に北部の都市エンブスで何度か討伐隊も組まれたんですが生憎と成功していない有様です。南下してきているとなると、この辺りで被害が出る前に対策をとる必要がありそうです。」
「分かった。それで、そいつらが北の方へ馬で走り去った後に廃墟を調べていたら地下室を見つけてな。女の子を一人保護した。誰かに匿われたような形跡があったんだが何か分かるか?」
「そちらは特に情報は入っていませんね。地下室も聞いたことがありませんね。あの廃墟になった村に住んでいた関係者なのかもしれません。ですが、貴重な情報をありがとうございます。こちらの情報は今査定させて頂きますね。」
そう言ってブルクスは裏へと引っ込んでいった。
バンデットレイヴンか。
何事も無ければいいがな。
「お待たせしました。まずはウルフの皮が3体と薬草が4束、毒草が2束で合計5000ドルグ。廃墟の情報で5000ドルグの合計10000ドルグになります。また、バンデットレイヴンの目撃情報をもとに傭兵ギルドと荒鷲団の共同で調査依頼を出す可能性があるので明日の朝ギルドへ来て頂けますか?」
「ずいぶん情報が高いな。」
「ええ、こちらとしてもこの辺りに被害が出る前に対策を取れそうという点を評価しています。保護した女の子から何か聞けたらまた教えて下さい。そちらも買い取らせて頂きますので。」
「分かった。明日の依頼はどんなものになりそうか教えてもらえるか?」
「はい。荒鷲団の斥候部隊とギルド職員、ハントさんで廃墟周辺の痕跡を調べてもらう事になると思います。特段戦闘などは無いと思いますが、念のため用意はしっかりしてきてください。」
「分かった。じゃあまた明日。」
タグにドルグを入れてもらい傭兵ギルドを出る。
そして宿へ戻ると、一階の食堂の隅のテーブルでカウンターの女性と金髪の女の子が会話をしているのが目に入る。
「起きたのか?」
「おかえり。あんたがギルドへ行ってからすぐ起きたよ。事情は説明しといたからあとはあんたが話しな。」
「分かった。ありがとう。何か飲み物と摘みを頼めるか?」
「はいよ!果実水とビールでいいかい?あともう少しで夕飯だから軽めのやつを出すよ!」
「ああ。頼む。」
「別料金だから気にしないで大丈夫だよ!」
あっはっはと笑いながら女性はカウンターの奥へと戻っていった。
「ふむ。」
同じテーブル向かい合うように座り薬草煙草に火を付ける。
「ふぅ~。」
と大きく煙を吐き出す。
「すまない、煙かったか?」
「いえ、大丈夫です。」
目の前の少女は暗い顔をして俯いている。
「俺の名前はハントというんだが、君の名前は?」
「あっ…すいません…。私はクーチといいます。助けて頂いてありがとうございました。」
少女は表情は暗いままぺこりと頭を下げる。
「いや、良いんだ。たまたま見つけられただけだからな。」
「ビールと果実水おまち!あとナッツを炒ったものだよ。1300ドルグだね。」
「ああ、これで頼む。」
ドンドンとテーブルに置かれたものを見ながらタグで支払いを済ませる。
「お金…わたし…。」
「いいんだ、気にするな。それよりも飲んで食べたほうがいい。しばらくちゃんと食べられて無いんだろう?」
「あっ…はい…。」
少女はペコリと頭を下げるとコクコクと果実水を飲む。
俺もビールをゴクゴクと飲んでナッツを口に入れる。
口に入れたところで気が付いたが昼の弁当を食べていなかったな。
明日に回すか。
俺がナッツに手を付けてもクーチは俯いたままだった。
「遠慮するな。ちゃんと金はあるから安心しろ。」
冗談っぽく煙草をプカプカとさせながら言う。
が、クーチは暗い表情のままだった。
なんとなく保護者の気分だな。
生憎独身で子供もいなかったが。
親戚の子供が落ち込んでいる時はこんな感じだったかもしれないな。
クリーンのお陰で汚れの取れたサラサラとした金髪。
少し大きめの目は綺麗な青色で肌は白い。
何かあったからあそこにいたんだろうとは思う。
「それで、クーチはなぜあんなところに?」
俺の問いにクーチは食べる手を止める。
「あそこへは匿ってもらったんです…。」
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