第6話


窓から差し込む光で目を覚ます。

軽く伸びをしてシャワーへと向かう。


シャワーへと向かいサッパリしてから一階の食堂へと降りる。

アイス珈琲を飲み、パンとサラダとスープを食べながら今日の行動を考える。


まずは西の森に行って討伐と採取だな。

昼を食べたら早めに切り上げて廃墟の方へと行ってみるか。

何かあれば儲けものだしな。


宿は5日で取ってあるし、昨日の稼ぎの感じならあと4日のうちに収支は余裕でプラスになるだろう。

そのあとで、次の目的地を決めればいいか。


ご馳走様とカウンターの奥にいる女性に伝え、弁当を頼んでおく。


二階へと上がり、薬草煙草を吸いながら腰にベルトを巻き直しバックパックの中に手を突っ込む。


頭の中に収納されている荷物が浮かぶ。

傷薬と毒消し薬はある。

皮袋も買ってある。

野営道具や調理道具も問題無し。


特に必要なものは無い事を確認してバックパックを背負う。


部屋に鍵を掛けて一階に降りて弁当を受け取りバックパックに仕舞う。


「さて、行きますかね。」


ぼそっと呟いて宿を出る。


街道へ出て薬草煙草に火を付け紫煙を吐き出しながら歩く。

気配察知を使いながら昨日森へと入った辺りへと向かう。


森に入る前にもう一本の薬草煙草に火を付けて水筒から冷たい水を飲む。

どちらも神様からもらったもので中身が勝手に補充されるからありがたい。


気分を落ち着かせてから魔弓を持ち森へと入る。


昨日同様、ステルスゲーである。


気配察知と隠密行動を発動させながら歩く。

時折、薬草と毒草を採取してバックパックに放り込みながら歩く。


すると気配察知にゴブリンが引っかかったので、ゴブリンの後ろへ回り込むように移動する。

少し移動すると5体のゴブリンを発見する。

どうやらウルフの死骸を運んでいるようだ。


巣がどうこうのとギルド職員のブルクスが言っていた事を思い出しそのまま尾行することにする。


しばらくついて行くと前方が少しだけ開けている様に見える。

どうやらゴブリンはそこへ向かっているようだ。

気配察知にもその場所に複数の気配が感じ取れる。


ゴブリンから距離を取りながら茂みに身を隠しつつ開けた場所を視認できる場所へと向かう。

茂みから覗くとそこは広場のようになっているようだ。

近くの木に静かに登り改めて観察する。


おおよそ20m四方ほどだろうか、森の中にぽっかりと空いたようにできている空間にはゴブリンが20体ほど集まっていた。

草を敷き詰めた寝床のようなものがあったり、ウルフの骨らしきものも落ちている。

中には木の棒や、ボロボロのナイフを持っているゴブリンもいる。


神様に入れてもらった常識によると、ゴブリンの巣というのはゴブリンの数が100体前後になると脅威とみなされ即討伐隊が組まれるレベル、20対前後は巣ができ始めている兆候らしい。


目の前のは巣になるのか。

多分、ここで全てを倒すこともできるが。

こういった情報料の相場も気になるな。


できるだけ目立たない方を選ぶとなると情報を持ち帰ったほうがいいか。


情報を持ち帰ることに決めて木から静かに降りてその場から離れる。

頭の中で街の方角にあたりを付けてから歩き始める。


途中、ウルフを3体仕留め、薬草と毒草を採取した以外には特段何もなく森から出ることができる。

森に入った場所から多少北にずれていたが巣の方向と大体の場所は把握した。


薬草煙草に火を付けてふぅと煙を吐き出し、水を飲む。


なんとなく今日はもう森はいいかと思いバックパックに放り込んだ荷物の整理をする。

ウルフの毛皮3体分を皮袋に仕舞い、薬草4束と毒草2束も皮袋に仕舞ってバックパックに入れておく。


吸い終わった煙草も燃やし尽くし、バックパックを背負い直すと北の廃墟の方へと歩き出す。


時折、街道の方を進む商人らしき馬車や傭兵団のような集団を見ながら歩いていると、ふとソロの傭兵のほうが珍しいんじゃないかという気持ちになってくる。


神様からもらった常識にもそんなことは入っていなかったから気にしていなかったがどうなんだろうか。

あとでブルクスにでも聞いてみるか。

などと考えながらぷかぷかと煙を吐き出し歩く。


ちょっと小腹が空いたころに廃墟が目に入ってきた。

少しだけ目立たないように森側に避けて鷹の目を発動する。


グッと廃墟がズームされる。


朽ち果てそうな木造の建物の残骸や、蔦が絡まった壁だったものが見える。

かろうじて小ぶりな教会のような建物が残っているが、それ以外は屋根がなかったり壁が無かったりと人が住んでいるような様子はない。

一か所だけ黒く焦げたような残骸がある。

昨日の大きな音の何かのせいだろうか。


気配察知と隠密行動を使いながら少しづつ近づいていく。

すると視界にちらりと動く影が入った。


足を止めて影の見えた教会のような建物の辺りを凝視する。

すると、教会の中から3人ほどの人が出てきた。


1人は背中に戦斧を背負い、スキンヘッドで筋骨隆々とした男。

もう1人は手に凶悪そうな大きなメイスを持った、1人目に似た男。

もう1人は弓を背中に背負った金髪らしき男。


ただ、全員汚いというか見た目が傭兵ギルドで見た傭兵よりも野蛮な感じがする。

何かを探すような感じで3人で話している。


あ。1人目の男の後頭部に黒い羽を広げた鳥のようなタトゥーが入っている。

弓を背負ったやつの腕にも同じような鳥のタトゥーが入っている。もう1人は分からない。


おそらく同じ傭兵団に所属しているのだろう。

揉めたくも無いが、何もないと言っていた廃墟で何を探しているのかも気になるところだ。


もう少しこっそりと近づいてみよう。


少しづつ廃墟に近づく。

しかし、なかなか身を隠せそうな場所が無いな。


3人組は教会のような建物から離れて北の方へ向かって行った。

森のある西側から回り込むように進む。


どうやら3人組は馬でここまで来ていたようだ。

3人組は馬に乗るとそのまま北のほうへと行ってしまった。

結局何も分からなかったな。

ふぅと息を吐き、気配察知と隠密行動を切ろうと思った時に微かに気配察知に引っ掛かるものがあった。


一旦スキルはそのままに気配察知に集中する。


周辺から感じられるのはその弱弱しい気配だけだ。

何があってもいいように短剣を手に取り慎重にその気配のほうへ進んでいく。


教会のような建物を通り過ぎ、木造の壁しかない建物だったものの中から気配がする。

慎重にのぞき込むが土にまみれ草がうっすらと生えた床しかない。


周辺に他の気配が無い事を確認してからスキルを切る。

薬草煙草に火を付けふぅ~と息を吐きながら、ブーツの踵で床を叩く。

ゴッゴッという鈍い感触を足に感じながら調べていく。

すると一か所だけ足への感触が軽い箇所があった。

床の上に積もった土を手で払うときに少し違和感を感じる。


なんとなくここだけ最近土をかぶせたような…。


手で払うと簡単に土がどけられ、正方形の形がに床が現れる。

腰の短剣を抜いて床と土の境目に差し込むと僅かに床が動いた。

てこの原理で床を持ち上げると地下への入り口が現れた。


煙草を人吸いして気を落ち着ける。

再度、気配察知を発動するとどうやらこの下に気配がある。


「ふぅ~。行くか。」


薬草煙草を燃やし尽くしてから、指先に着火で火を灯しながら階段を下りる。


中は少しヒンヤリとしていた。

階段はそれほど深くなくすぐに地面に着く。

指に灯した火で気配を感じるほうを照らすと黒い塊があった。


「おい、返事はできるか?」


声を掛けてみたが返事はない。


腰の短剣に手を掛けながら少しづつ近寄るにつれて少しづつ黒い塊があらわになる。

どうやらローブを被って人が倒れているようだ。


しゃがみ込み、おいと声を掛けながら肩をゆすってみるが返事はない。

ここだと暗くて怪我をしているかどうかも分かりにくい。


「すまんが動かすぞ。」


バックパックも背負っているため、左肩に担ぐように持ち上げる。

多分女性だろうと思う感触があった。


「すまんが我慢してくれ。」


返事は無いがとりあえず声を掛けながら元来た階段を上がる。


暗いところから明るいところへ出たおかげでかなり眩しく感じたが地上に出る。

気配察知には他の気配はない。


とりあえず、抱えていた人物を地面に下ろしてゆっくりと横たえる。

するとローブからサラリとした金髪が流れ出た。

少しローブをずらす。

汚ており頬はこけているものの、美人だと分かる顔立ちの女性だった。


日本だったらモデルでもやってそうだな。

目視できる範囲では怪我は無さそうだな。

と言っても全身を覆う黒いローブのお陰で何も分からないが。

手首を握って脈を確かめる。若干弱いが脈はある。


とりあえずバックパックを下ろして枕代わりにしてやり、薬草煙草に火を付ける。


「ふぅ~。」


水筒の水を飲み引き続き気配察知を行う。

あ、と思い、バックパックからクリーンを掛けて綺麗になっているシャツを取り出して水筒の水で濡らす。

軽く絞って顔を拭いてやることにする。


「…んっ」


起きそうな兆候が見られたので、肩をゆする。


「おい。大丈夫か?返事はできるか?」


声を掛けるとぼんやりと目を開ける。

綺麗なブルーの瞳と目が合う。


「…んぅ、逃げ…逃げなくちゃ…。」

「どうした?逃げる?何からだ?」


再度声を掛けるがまたぐったりと目を閉じてしまった。


さっきの3人組が探していたのはこの子か。

この子に理由があるのか、単純に女だからか分らんな。

ただ、さっき地下の入り口に土が掛けてカモフラージュされてたって事は誰かがこの子を匿ったんだろう。


という事はだ。

個人的にはこのまま放っておくのも気分のいいものではないし、街で匿ったほうが安全は安全か。


「すまんが少しだけ我慢してくれるか。」


恐らく聞こえてはいないだろうが声を掛けてからバックパックに濡らしたシャツを仕舞い、背負い直すと肩に担ぐ。疲れたら身体強化すればいいか。


空いた方の手で薬草煙草を取り出して火を付け「ふぅ~。」と大きく紫煙を吐いて街へと向かう事にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る