第41話
二日酔いの状態で目が覚める。
昨日の打ち上げでは随分と飲み過ぎてしまったようで、頭は痛いしまだ酒臭い気がする。
グッと身体を伸ばしてから起き上がるとクーチはもう起きているようで部屋には居なかった。
シャワールームに行ってサッパリとしてから一階へと降りる。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「昨日飲み過ぎたみたいですね。」
クスクスと笑うクーチに苦笑を返してアイス珈琲と朝食を頼んでテーブルに座る。
「マルとキクリは?」
「覚えてないんですか?」
「ん?」
煙草に火を付けて煙を吐き出しながら、昨日の記憶を辿ってみる。
無事にバンデットレイヴンとの戦闘を終えた俺達は街へと戻った。
街に戻ると既に戦闘の結果が報告されていたのだろう。いつも通りの賑わいを見せるグロースに戻っていた。安心したような門番たちや住民の顔を見ると少しだけ嬉しかった。
傭兵ギルドへと入ると、既にブルクスが戻って来ていて報酬の支払いと打ち上げの案内をしているようだった。俺達は先に戻らせてもらったお陰でまだ人はまばらだ。
「皆さん、お疲れ様でした。」
「ブルクスもいろいろと大変だな。」
「いえいえ、皆さんは戦う事、私はこっちが仕事ですから。適材適所ってやつですよ。」
「そうか。」
「はい。それで今回の皆さんの報酬ですが1人50000ドルグ、傭兵ランクが全員4に上がります。また、ハントさん、マルさん、キクリさん、ヴァンスさんについてはバンデットレイヴン副団長のザリオを倒した功績で、追加で20000ドルグ。ハントさんは別行動させた分として10000ドルグが追加されます。」
「ちゃんと色を付けてくれて何よりだ。傭兵ランクが全員4というのは何かあるのか?ヴァンスはもともとそれぐらいだっただろう?」
「傭兵ランク4に上がる条件に『領主や傭兵団からの依頼で戦争に参加したことがある』という条件があります。それをクリアしたからですね。それと、全員があれだけの腕をしているのにランクが低いままなのはおかしいという、うちの団長の贔屓も入っています。クーチさんも治癒の腕が素晴らしかったですからね。」
「そうか。まあ、全員一緒なら悪いもんでもないし受け取っておこう。」
「ええ。それではタグを。」
全員が、タグを出して、傭兵ランクを4に上げてもらいドルグを入れてもらう。
「これで報酬関係は完了ですね。この後は、ここの食堂か荒鷲団の食堂で打ち上げに参加する事ができます。料理や飲み物は領主と荒鷲団の奢りになるので好きなだけ飲んで食べて騒いで下さい。」
「分かった。」
「できれば荒鷲団の方に来てもらえると助かります。団長やタイホールも乾杯したいでしょうから。」
「ああ、そうするよ。皆もいいか?」
「はい。」
「…ん。」
「はい!」
「ハイっす!」
報酬も貰ってニコニコとしている全員の頷きを確認してから移動を始める。
それから荒鷲団の食堂で打ち上げに参加した。
がっはっはっはっと上機嫌に勧誘してくるクマズンを躱しながら、タイホールと斥候の役目について熱く語ったり、ヴァンスの過去を軽く聞いたりした。
ヴァンスが腰抜けと呼ばれた理由は以前参加していた傭兵団が壊滅した事に理由があるそうだ。
まあ、その時に団長に庇われて一人だけ生き残る事ができたのを知っている傭兵に嫌味のように言われるのだとか。そうかそうかと、クマズンがヴァンスの背中をバシバシと叩きながら、「いい腕をしてる!荒鷲団に入れ!」とでかい声で勧誘しているのを周囲に見せつけていたので、今後は中傷は減るだろうな。クマズンはああ見えてかなり良い奴だ。いつか荒鷲団への入団も考えてみよう。多分。
そうこうして、食って飲んで騒いでいたら酔っぱらったヴァンスが絡んできた。
「ハントさんん!煙草下さいっす!!」
「ああ。いいぞ。」
ポーチから一本出して渡す。俺も一本出して口に咥える。
「ヴァンス、俺達と一緒に旅しないか?」
「いいんすか?」
「ああ、もちろんだ。なあ?」
クーチとマルとキクリに問い掛けると全員が頷いた。
「ほんっとーにいいんすか?」
「ああ。ちょうど前衛で戦える信頼できる仲間を探してたんだ。ヴァンスなら信頼できる。」
「…信頼…すか。」
「ああ、信頼できないなら一緒に戦えないだろう?」
「そう‥っすね!分かったっす!ぜひ一緒に行かせてくださいっす!」
「ああ、これから宜しく頼む。」
そう言って、ヴァンスの咥えた煙草に火を付けてやると、ニヤリと笑ったヴァンスが俺の煙草に火を付けてきた。
「「ふぅ~。」」
と二人で大きく煙草を吐き出す。
「ハントさん!これで5人ですよ!傭兵団にしちゃいましょう!」
酔っぱらったクーチが急にそんな事を言い始める。
「おいおいおいおい!ハント、荒鷲団に入ってくれるんじゃねえのか!!」
顔を真っ赤にしたクマズンが叫ぶ。
「…傭兵団…ハントと愉快な仲間たち…ぷっ。」
キクリが珍しく訳の分からない事を言って一人で笑っている。
「漆黒…いえ、暗黒の魔弾…。」
ぶつぶつとマルが何かを言っている。あいつ患ってるのか?
「まあ、おいおいな。」
ボソッと呟いてから、今はこの雰囲気を楽しもうと酒に口を付けた。
ああ、思い出した。
そうだ、マルとキクリにここまでヴァンスを案内してもらうんだった。ついでに、武具屋で良い物が無いか見てくるって言ってたしな。
「ああ、思い出した。ヴァンスを迎えに行ってるのか。」
「そうですよ!それでやっと5人になったので傭兵団にしちゃいましょう!報酬も傭兵団のタグに纏められますから、今までみたいに皆がタグを出したり、ハントさんみたいに全部支払ったりしなくて良くなりますよ!」
「そうか。そうするか。」
「はい、昨日も皆さん乗り気でしたから!」
「それじゃあ、後でギルドへ行こうか。」
「はい!」
朝食を食べ終えて一服していると、宿の入り口から3人が入って来た。
「おはようございます。」
「おはようっす!」
「ああ、おはよう。改めてヴァンス、よろしくな。」
右手を差し出す。
「ハイっす!こちらこそよろしくっす!」
ヴァンスも右手を差し出して拳をぶつける。
「さて、座って話そう。」
全員がテーブルに付いて飲み物を頼んだので話し始める。
「とりあえず、傭兵団として登録しようと思う。拠点も名前もまだ決まってないがな。」
「拠点も名前もいつでもいいと思います。最初は、ハントさんが団長で傭兵団を組みますっていう届け出だけでいいはずですから。」
「そうなのか?」
クーチに尋ねる。
「はい。父が団長をやっていたので知っているんですが、拠点も決まってませんでしたし、名前も付けていた無かったので名も無き傭兵団と呼ばれていました。」
「名も無き傭兵団か。それじゃあ、とりあえずはそれで行こう。そのうち腰を落ち着けたい街が見つかるかもしれんしな。」
反対意見は無いようなのでそう決める。
「団長は「ハントさんで。」…そうか。」
マルに言葉を被せられる。
「それじゃあ副団長をマルにお願いしていいか?」
「クーチさんじゃないんですか?」
「クーチは治癒士だからな。戦いの最中に俺に何かあったらマルを副団長にしておいた方がいい。その方が動きやすいだろう。」
「分かりました。」
「私もその方がいいと思います。」
反対意見もないので、ギルドに行ってくると伝えて1人でギルドへと向かい登録を済ませると、普段の物より少し大きめのタグを渡された。これが傭兵団のタグらしい。傭兵団ランクは1、それと団長として俺の名前、団員数、ドルグの記載がある。これだけのようだ。
宿に戻って夕食を取りながら今後の予定を話す。
「とりあえず、今日で5泊目だからな。明日からどうするか決めよう。」
「あの…。」
クーチが遠慮がちに声を出す。
「あの、北に行ってみませんか?」
「北に?」
「はい。バンデットレイヴンが壊滅した事で多少治安は良くなるでしょうし、お世話になった方に報告だけでもしたいなと思って…。」
「そうか。俺は構わないぞ。」
「僕もです。」
「…ん。」
「俺もっす!」
昨夜の打ち上げで全員の過去をそれぞれ話したりもしたから理解が早い。
「それじゃあ、明日から北を回ろう。とりあえずの目的地は北の都市『エンブス』だな。」
「「「はい!っす!」」」
次の目的地をエンブスに決めて、俺達は眠りについた。
異世界転生しちゃったおっさんが傭兵として過ごし始めました。 肥え太 @koetateok
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