第10話


朝日と背中の固い感触で目が覚める。

グッと伸びるとぽきぽきと骨の鳴る音がする。

早く他の部屋が空くと良いんだが。


ベッドを見るとクーチはまだ寝ているようだ。


起こさないように着替えを用意してシャワーを浴びに行く。

シャワーを浴びてさっぱりしてから服を着替えて部屋に戻ってもまだクーチはまだ寝ているようだ。


今日はギルドに行って報告と依頼の確認が先か。

朝来てくれと言われたが時間も分からないしいつも通りでいいか。


水筒から水を飲んで、腰にベルトを巻いて一階へと降りる。


「すまない、アイス珈琲と朝食を貰えるか?」

「はいよ!クーチちゃんはまだ寝てるのかい?」

「ああ。」

「今用意するから少し待ってておくれ!」


薬草煙草に火を付けて息を吐き出す。


「ふぅ~。」


プカプカと煙草を吸っていると朝食が来た。


「ありがとう。あと、クーチの分の代金を払っておきたいんだが。」

「ああ。一泊5000ドルグだけど食事とシャワーの分だけでいいよ!朝夕で一日1500ドルグにしてあげるよ!」

「助かる。部屋が空いたら教えて欲しい。とりあえず今日と明日の分を払っておく。」

「そしたら3000ドルグだね。弁当はいるかい?」

「クーチがどうするか分からないからとりあえず大丈夫だ。」


そう言ってタグを取り出し支払を済ませる。

毎度ありと言って女将さんはカウンターの奥へと引っ込んでいった。


いつもの朝食を食べて食後の一服をして部屋へと戻る。

クーチはまだ寝ているので起こさないようにバックパックを背負い一階へと降りる。


「女将さん、俺は傭兵ギルドに用事があるからもう出るんだがクーチが起きたら伝えてくれるか?」

「構わないよ!死ぬんじゃないよ!」

「ありがとう。夕飯には戻ってくる。」


笑いながら注意してくる女将さんに礼を言って宿を出て傭兵ギルドへと向かう。


傭兵ギルドへ着くとカウンターの側にブルクスが立っていた。


「ブルクス。遅かったか?」

「ハントさんおはようございます。大丈夫です。ちょうど荒鷲団の団長と斥候3人が来たところです。ご案内しますね。」


そう言って二階へと上がって行く。


ブルクスの後をついて行くと、調べ物をしたスペースを通り過ぎたところにある扉を開けた。


「ここが打ち合わせ場所です。」


中は会議室のようになっていた。

中央に大きなテーブルがあり、その上に地図がある。


「お待たせしました。こちらが情報提供者のハントさんです。」


ブルクスが声を掛けると正面に座っていた筋骨隆々の男が声をあげる。


「おう!あんたがハントか!俺は荒鷲団の団長のクマズンだ!よろしくな!」


プロレスラーのような男だ。

スキンヘッドで筋肉の盛り上がりがすさまじい。

声もデカい。


「そっちに居るのがうちの斥候担当だな。」


ペコリと頭を下げられたので頭を下げておく。


「ハントだ。宜しく頼む。」

「それでは揃った事ですしギルドと領主からの依頼を話したいと思います。」

「その前にいいか?」


本題に入る前に報告しておかなければならない。


「はい、どうぞ。」

「追加の情報なんだが。」


そう言って俺はクーチから聞いた内容を伝える。


「なるほど。そうすると、南下して来たのではなく追って来たという方が正しそうですね。」

「そうだな。まあでも、近くにキャンプしてても面倒だ。調査は必要だろう。」


ブルクスとクマズン団長が話し合う。


「そうですね。どちらにしても周辺の調査は必要でしょう。斥候の3名とハントさん合わせて4名で廃墟周辺、特に北側を少し広めに調査をお願いします。報酬は10000ドルグ、ハントさんには今の情報提供分と合わせて戻ってから支払いさせて頂きます。」

「分かった。」


返事をする。


「リーダーはとりあえずうちのタイホールにやらせていいか?」

「俺は構わない。」

「まあ、何かあれば現地で意見交換してくれ。」

「それじゃあタイホール任せたぞ。」

「はい!」


クマズンの指示に元気よく返事をするタイホール。

茶髪に茶目でほとんど目立つところの無い青年だ。

経験は圧倒的に上なんだろうが。


「それでは皆さん、調査のほう宜しくお願いします。」


ブルクスの締めの言葉で各々が立ち上がる。


「とりあえず西門に向かおうか。」


タイホールの呼び掛けで4人で西門へと向かう。


「走ればそこまで時間はかからないので走りましょう。ハントさんもよろしいですか?」

「ああ、大丈夫だ。」


タイホールが走り始めるのに続いて他の2人と一緒に走り始める。

結構な速さなので身体強化を発動してペースに合わせる。

3人を見るにスキルは使ってないようだから単純にレベルが高いのだろうか。


すぐに廃墟が見えてくる。

少し離れた位置で止まれの合図があったので足を止める。


「ハントさんはまだレベルは一桁ですか?」

「そうだな。今まであまり意識して来なかったからな。低いか?」

「いえ、そういうわけじゃないです。魔物も人間も急所に攻撃されたら死にますからね。ただ、レベル10を超えると今ぐらいのペースでも身体強化を使わずに走れますし魔力も増えるので、上げておいたほうが何かと便利ですよ。」

「そうか。少し討伐依頼を中心にこなすとするよ。」

「それが良いかもしれません。10レベル毎に違いがはっきり分かるので面白いですよ。さて、周辺の気配を探りましょうか。」


タイホールの言葉に頷いて気配察知に集中する。

特に周辺に気配はない。

続いて鷹の目を発動して廃墟方面を見渡す。


「特に反応は無いな。目視でも特に人は居なそうだ。」

「こちらもです。」

「煙草を吸ってもいいか?」

「ええどうぞ。少し休憩しましょう。」


薬草煙草に火を付けてふぅ~と息を吐き、水筒に口を付ける。


「このまま廃墟に行きましょうか。周辺には注意してくださいね。」

「ああ分かった。」


気配察知と隠密行動を発動しながら4人で歩いて行く。


何事も無く廃墟に着いた。

そのまま教会のような建物の方に向かう。


昨日は気づかなかったがところどころに足跡のようなものや、血痕のようなものがある。

特に人は居らず、魔物の気配も無い。


「人が居たのは本当のようですね。戦闘の跡と思われるものもあります。北の方に移動しましょう。」


タイホールの指示に従って北に移動する。

俺が見掛けた3人組が、馬に乗っていた辺りまで来た。


「蹄の跡がありますね。跡を見る限り北の方に戻って行ったようですね。それじゃあここから東、北、西に分かれましょう。私ともう1人で北を見てきます。ハントさんは西をお願いします。」

「分かった。」

「くれぐれも慎重にお願いします。頃合いを見て黒い狼煙を上げますのでここに集合してください。それでは。」


タイホールはそう言って、1人を連れて北へと向かった。残った1人は東から北へ回り込むようだ。


俺は煙草に火を付けて息を大きく吐き出した。


「ふぅ~。さて、行きますか。」


西向かって歩き始める。

廃墟の近くはうっすらと足跡があったが少し離れると何も確認できなくなった。


南に森を見ながら西へと進んでいくと森の方に魔物の気配を感じる。

魔物の気配は無視することに決め、煙草を燃やし尽くしてから移動のペースを上げる。


北の方にも注意を向けながら走るが特に野営の跡等は見つからなかった。

少し北側に移動しても何もない事を確認する。


「こちら側は何もないか…。」


少し腹も減ったので、昨日食べていなかった弁当を出しサンドイッチを食べながら周囲を見渡す。

もう少し北の方へ行ってみるかと考えていると廃墟のほうにうっすらと狼煙が上がっているのが見えた。


来た道を引き返すように戻っていると先ほど気配を感じた辺りで再度、魔物の気配を感じた。

先ほどの場所から気配は動いていないようだ。

少し気になったので気配察知と隠密行動に集中してそちらの方へと足を進める。


森に踏み込むと少し血の匂いがする。

気配のする方へ慎重に歩を進めていく。

近くの木に登って気配のする方を伺うとウルフ3頭が何かを食べていた。


近くの残骸などでソレがなんであるか気づいた。

それと同時に無意識に魔弓を構え3連射する。


ヒュッヒュッヒュッと黒い魔力の矢がウルフを貫く。


魔弓をバックパックに戻して煙草を咥えて火を付ける。

ふうと煙を吐いて木から降りる。


凄惨な状態だった。

恐らくクーチ達と逃げていた者達だろうか。

すまないと呟き、バックパックから着替えのシャツを取り出して簡単に口に巻く。

次に野営道具一式に入っていた小さなスコップを取り出して穴を掘り始める。


深くはないが遺体を埋めるには十分な大きさになったら形あるものから順に穴に入れていく。

多少汚れるが気にならなかった。

時折、ポロりとタグが出てくるのでそれは避けておく。

ウルフに食べられた跡以外にも刃物で切られた跡や、折られたであろう足や矢の刺さった部分があるのを見ると追手に捕まり殺されたのだろう。

顔見知りでもなんでもないが、まだ若い傭兵や小さな子供達、力の無い女性がこんなにされているのを見たらきちんと弔わなければならないという気持ちが抑えきれなかった。


この世界は命が軽い。


改めてその事実を実感した。

倒したウルフもそのまま埋める。

そして地面を踏み固める。

魔物に掘り起こされ内容に固く踏みしめる。


クリーンを全身に掛けて水筒の水を飲む。

そのまま水筒の水を埋めた地面へと掛けて弔う。


「貴方達のお陰でクーチは生きている。また来る。」


そう呟いて、遺品を回収し廃墟へと向かった。


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