バンデットレイヴン

第34話


窓から差し込む朝日と共に目が覚める。

グッと身体を伸ばしてから起き上がるとクーチは既にシャワーを浴びているようだった。

そのままシャワールームへと向かい一緒に色々なものを洗い流す。


サッパリしてからいつもの装備に着替えてバックパックを背負う。


俺はこちらの世界に来てからずっと同じ、頑丈そうな革のブーツにカーキ色のカーゴパンツのようなパンツ、黒いシャツに、ウルフの皮でできたベストと脛当て、クーチがプレゼントしてくれた黒蛇皮の籠手を身に着ける。

腰には神様から貰った短剣と、水筒の中身と煙草が補充されるポーチを下げて準備は完了だ。


クーチは、金髪の髪の毛を下ろしたモデル体型の美少女だ。

黒い革のブーツに茶色いパンツ、ベージュのシャツ、その上に皮製の胸当てをしている。そしてその上から黒いローブを被る。杖は俺の神様特製のバックパックに仕舞っておく。


「さあ、行こうか。」


一階に降りるとマルとキクリが居た。


マルは少年のような笑顔で挨拶をしてくる。

狐の獣人で小柄、中世的な顔立ちだが男だ。黒いローブに魔女のようなとんがり帽子を被り、右手には木製の捻じれた杖を持っている。杖の先端には何かの魔石が付いていて魔術の補助をする効果があるらしかった。


キクリはいつも通り無言で頷く。

熊の獣人で、俺よりも大きい体格の女性だ。重そうな金属製の全身鎧に大きな盾、金属製のメイスを背中に背負っている。バックパックを二つ持っていたのでそれを預かり、俺のバックパックへと仕舞いこむ。


「皆さん、おはようございます~。」


声を掛けてきたのが、猫の耳亭の女将さんだ。


「お弁当の用意ができてますよ~。」

「ああ、ありがとう。」

「それと、マルさんとキクリさんは、まだ宿泊の日数が残っていますがどうしますか~?途中精算もできますよ~。」

「それじゃあ、念のためお願いしてもいいですか?」

「はいはい~。じゃあタグを出してくださいね~。」


マルとキクリは余った日数分のドルグの精算をする。

俺とクーチは昨日、一泊だけ追加で支払ったのでちょうど終わりだ。精算をしている間に弁当を仕舞い


「女将さん、世話になったな。また来る。」

「あらあら、お待ちしてますよ。」


女将さんに礼を言って宿を出る。

4人で乗合馬車の予約をしている東門へと向かう。

東門で門番にタグを見せて問題無い事を確認してもらってから馬車の乗り場へと向かう。すると、既に


「お待ちしてました。用意ができてやしたら出発いたしやすが?」

「ああ。問題ない。頼む。」

「へい、それじゃあ乗って下せえ。何かあったら御者席に声を掛けてもらえれば。あと、昨日説明した通り魔物や盗賊が出た場合はお声がけしますんで討伐の方お願い致しやす。」

「了解した。」


馬車の後ろからクーチ、キクリ、マルと乗り込み最後に俺が乗る。

中から御者に声を掛けて出発してもらう。


ガタガタと馬車が進み始める。乗り心地は良くはないが思ってたよりは酷くない。

馬車の後ろ側に座っているので、煙草に火を付けて煙を吐き出すとそのまま馬車の外へと煙が流れていく。


「マルとキクリはグロースは初めてか?」

「ええ。僕もキクリもまだメイズしか行ってませんから。」

「そうか、それじゃあ女将さんのところが空いていたらそこに泊ろう。あそこも飯が美味いぞ。」

「そうですね!セーラさん元気だといいですね!」

「…楽しみ。」


そんな何でもない会話をしながら馬車の旅を楽しむ。途中で御者と馬と一緒に昼休憩をしてまた進んでいると少し日が落ちてきたころに無事にグロースに着いた。


グロースに着いた俺達は馬車を降りて門番にタグを確認してもらう。

特に問題無く南門から入り、そのまま『鷲の止まり木』へと足を運ぶ。


「セーラさん!」


クーチが勢いよく宿に入るとちょうど夕食の用意をしているセーラさんが目に入った。


「あら!クーチちゃんじゃないかい!」

「女将さん、4人なんだが部屋は空いているか?2人部屋が2つだな。」

「あらあらあんたも!元気だったかい?部屋は空いてるよ!何泊するんだい?」

「とりあえず5泊で頼む。」


全員でタグを出してそれぞれ20000ドルグづつ会計をしてもらう。


「毎度!鍵はこれとこれで部屋は2階だよ!もうすぐ夕食の用意ができるから先に荷物を置いといで!」

「ああ。また世話になる。」

「無事で良かったよ。クーチちゃんも幸せそうだ。本当に良かった。」


女将さんのセーラさんは俺とクーチの出会いと、クーチの生い立ちを知っている。


「荷物を置いてくる。」


女将さんに一声かけて2階へと上がる。それぞれの部屋に入る前にバックパックからマルとキクリの荷物を出して2人に渡す。


「それじゃあ、食堂で待ち合わせしよう。」

「はい。」


廊下で分かれてそれぞれの部屋へと入る。

部屋に入ってバックパックを下ろし、装備を外して一息つく。クーチはローブを脱いで胸当てを外していた。


「さて、一階へ降りるか。」


クーチに声を掛けて一緒に一階へと降りる。


「蒸留酒と果実酒、あとビールを2つと夕食を4つ頼む。」

「あいよ!お仲間が降りてきたら出してあげるから待ってな!」


久しぶりに聞く女将さんの威勢の良い返事に気持ちよさを感じながら煙草に火を付け「ふぅ~。」と煙を吐く。

少しするとマルとキクリも降りてきた。


「お待たせしましたか?」

「いや、大丈夫だ。もう頼んでおいたから座るといい。」

「ありがとうございます。」


ローブと帽子を取って狐耳をピコピコさせるマルと、全身鎧を取って街娘のような恰好で丸い熊耳を出したキクリを座らせる。


「はいよ!飲み物お待たせ!食事は今持ってくるから待ってな!」

「ありがとう。」


女将さんに礼を言ってグラスを持つ。


「2人とも一緒に来てくれてありがとう。それじゃあ、グロースでの無事を祈って乾杯!」

「「「乾杯!」」」


それぞれがグラスに口を付ける。


「はいよ!食事だよ!サービスで大盛にしといたから残すんじゃないよ!」


前に滞在した時よりも少し量の多い夕食が運ばれる。


「…残したら私が食べる‥。」


キクリが早速夕食に手を付け始めた。

久しぶりの女将さんの料理に舌鼓を打ちながら明日以降の打ち合わせをする。


「明日、俺はギルドへ行って情報収集をしてくる。3人は自由にしてても構わないが、クーチ、良かったら西の森と廃墟の辺りを3人に案内してくれないか?まだ連中と遭遇することも無いだろうから今のうちに地理だけ覚えておいてほしい。」

「はい!分かりました!」

「マルとキクリも、多分襲撃は無いだろうが、念のため警戒はしておいてくれ。一応、一緒にギルドに行って周辺の様子を確認してから動こうか。」

「そうですね。何かあってからでは不味いですから。」

「そうしよう。それじゃあ、明日も起きたらここで。ああ、明日も朝はゆっくりでいいぞ。」

「分かりました。」

「それじゃあおやすみ。」

「おやすみなさい。」


マルとキクリと別れて自分の部屋へと戻る。

クーチと一緒にシャワーを浴びてから懐かしい気持ちのする部屋で眠りについた。


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