異世界転生しちゃったおっさんが傭兵として過ごし始めました。
肥え太
チュートリアル
第1話
俺は今、ただっぴろい草原に立っている。
すぐ傍には街道が通っているから街は遠くなさそうだ。
自分の恰好を確認すると、黒い頑丈そうなブーツにカーキ色のゆったりとしたズボンの裾を突っ込み、黒い長袖の肌触りの良い上着を着ている。
背中にはキャンプが趣味の連中が背負うような大きなバックパックを背負い、バックパックの横には黒い艶のある木材でできたであろう短弓が、腰には皮でできた小さなポーチと短剣をぶら下げている。
おもむろにポーチに手を突っ込んで煙草を取り出して口に咥える。
「着火。」
指先から小さな火を出して煙草に火をつけてひと吸い。
「ふぅ~、どうやら本当だったらしい。」
口から少し甘い香りの紫煙を吐き出しながら呟く。
できればなんの香りも無い方が良かったんだがと思いながら俺がここにいる理由を思い出す。
その日は勤め先の不動産会社も休みで、俺が待ち望んでいたゲームの発売日だった。
よくあるVRMMOでプレイヤーは傭兵になって旅をするという物。
俺は自宅に届いたソフトをVRギアにセットしキャラ作成をしていた。
見た目は現実の自分の体形にして、酒で弛んだ身体を少し引き締める。
身長はちょっと伸ばして180㎝にしとこうか。
肌の色も少し日焼けしたぐらいの黒さにして。
髪型はスラ〇ダンクのミッ〇ーがロン毛を切った後に似せて色はゲームだし白っぽいグレーにしようか。
無精ひげを生やして色は髪の毛と同色にしよう。
タトゥーも入れられるのか。
折角だし入れるか。
右目の下あたりに鏃を下向きにしたような柄を配置。
うむ。悪くない。ベテラン傭兵っぽさが出てきた。
次はステータスを選んで…
よしっ。これでいい。
目の前にキャラクターの全体像が表れる。
『それではキャラクターの最終確認をしてください。
名前: ハント LV:1
性別: 男
種族: 人種
STR : 6
VIT : 5
AGI : 8
DEX : 6
INT : 5
残:0P
スキル: 弓術1
素質 : 短剣術 脚力強化 気配察知
隠密行動 体術 鷹の目
こちらでよろしいでしょうか?』
というアナウンスに従ってYESを選択した。
すると
『良い旅を』
という音声が流れ、視界が暗転したのだ。
これからオープニングやらなんやらが始まるのだろうと思ってしばらく待ったのだが何も始まらない。
かといって、VRギアがエラーと判断しなければ強制再起動もされないし、ログアウトもできない。
しばらくどうしようかと悩んでいると真っ黒の視界の正面に白い光が現れた。
ふよふよと漂うそれをじっと見ていると
『赤坂猟太郎様でよろしいでしょうか?』
と女性の声が聞こえてきた。
そうですが、と応えたいが声も出せないので念じるしかできないのだが。
『この度はご愁傷様でございました。貴方はVRギアに意識がログインした状態で心停止の状態になり、先ほどお亡くなりになりました。』
ん?心停止?死んだって事?俺が?
『はい。もともとの持病のせいですね。』
そうか、死んだのか。
俺はもともと心臓が弱く、小学生の頃から通院と入院を繰り返し続けていた。
40手前だから早死にではあるが、いつ死ぬか分からないというのはいつも言われていたし、覚悟してた事でもあり不思議と納得してしまった。
『ただ、現在、肉体は生命活動を停止したものの意識体はまだ活動を続けているという特殊な状況です。ですのでこのまま通常通りに意識体も停止させても良いのですが…。ここからは我々、神側からの提案なのですが聞いて頂けますか?』
特殊な状況とな。これはよくあるやつを期待していいのか。
『そうです。現在、我々の管理する世界の中に一つだけ貴方がやろうとしていたゲームに近いモノがあります。そちらに転生して第二の人生を歩んでみませんか?』
転生モノか。何か神様からの要望はあるのか?
『要望はありません。異世界に行った人の行動を観察してみたいというただの興味ですね。強いて言うなら思うがままに自由に生きて見せて欲しいという事だけですね。』
要望が何もなく自由に生活していいなら好条件な気がする。
『それと、貴方の要望も多少は付けて転生させましょう。こちらの世界と違って死が当たり前に存在する世界ですので。貴方がやろうとしていたゲームのような、レベルやスキルがある世界です。転生する上で何か要望はありますか?』
おお。それはありがたい。すぐに死ぬのも嫌だからな。
煙草や酒はあるのか?
『貴方が転生する先はワーヴィエント大陸という大陸です。地球でいうオーストラリア大陸を大きくしたような、ただそれだけが存在する小さな世界です。そこは、魔物もいますし、ダンジョンもあります。様々な種族が存在し生活しています。当然にこちらの世界同様、善人も居れば悪人もいます。成人は15歳、こちらの地球でいう煙草とは違いますが薬草煙草というものが嗜好品で存在します。そちらは無限に出てくるポーチをお付けしましょう。お酒については各地に名物と言われるものがありますのでご自身で探してみてください。若返らせることもできますがどうしますか?』
それはありがたい。
さすがにもうすぐ40になる身体じゃツラそうだからな。
かといって若返りすぎるのも違和感がありそうだ。
今より少しだけ若返って長生きできればと思うんだが、25歳ぐらいにしてもらえるか?
『いいでしょう。持病の心臓疾患も無くしておきましょう。他に要望はありますか?』
ふむ、折角だしさっきのキャラメイクで欲しいなあと思っていたものを頼むか。あとは装備か。
名前も赤坂猟太郎じゃなくてハントにしてほしい。
『いいでしょう。では、先ほど作成していたキャラクターをベースにして、装備品は身に着けた状態で、装備品に付与、金銭もいくらかと常識をインプット、スキルに追加、年齢は25歳、身分証明書としての傭兵タグ情報を傭兵ギルドへ登録、世界情報の微修正、世界への影響は軽微。ではハント様、第二の人生に向かう用意はよろしいですか?』
ああ、もちろんだ。心臓病に気を使わなくていいのはありがたい。
自由に生きているところをたまには見てやってくれ。
『我々はいつでも貴方を観察しています。それでは良い人生を』
ああ、ありがとう。
というわけでまた暗転、次に目を開けるとザ・草原だったわけだな。
まさか死ぬとは思っていなかったが、おかげで新しい人生を歩めるわけだし神様には感謝しないとな。
それじゃあまずは確認しようか。
頭に叩き込まれてある常識から傭兵タグの存在をピックアップする。
胸元に掛かっているチェーンを引っ張り傭兵タグを掴む。
「ステータス。」
すると目の前に薄いウィンドウが現れる。
これは他人からは見えないらしい。
名前: ハント LV:1
ランク: 1
性別: 男
種族: 人種
スキル: 魔弓術 短剣術 体術
身体強化 気配察知
隠密行動 鷹の目
魔力操作 職人の目
所持金:100000ドルグ
ふむ。ゲームと違ってステータスの数値とスキルの数値が無い。
そして、素質が無くなり全てスキルになっている。
頭に入っている常識によると、レベルアップにより身体能力が上がるというのは認識されているらしい。
スキルも長年の鍛錬によって得られるのが一般常識みたいだ。
スキル持ちの傭兵は重宝されるらしい。
スキルによって覚えられる技もあるようだが、それは実際に使って検証しながら確認だな。
それと傭兵タグには名前、性別、年齢、ランクのみが記載されていて、他の項目は他人からは見えないそうだ。
ステータスに表示されているランクは傭兵ランクで10が最高で1が一番下。
所持金は傭兵ギルドに預けておけばいつでもこのタグを使って大体の店で支払いができると。
なんて便利なんだ。日本にも欲しかった。
口から甘い煙を吐き出しながらスキルも確認していく。
魔弓術が神様にお願いしたスキルだ。
これで魔力があるうちは矢の本数を心配しなくていい。
スキルに追加してもらった魔力操作のお陰で自分の魔力は感じ取れる。
後でどれぐらいの本数を撃てるか検証だな。
鷹の目は遠くを見通せるというスキルみたいだ。
職人の目はよくある鑑定みたいなものだな。
物や素材はある程度の判別ができるらしい。要検証っと。
それ以外はよくある効果だろうから暇を見つけて検証していこう。
次に手荷物を確認しよう。
吸い終わった薬草煙草を着火で燃やし尽くしてから背中に背負っているバックパックを下ろす。
靴や服は普通のもののようだ。
腰に下げたポーチは
神様のポーチ:薬草煙草と水筒が入っている。
不壊付与 自動補充付与
神様が作った短剣:不壊付与 自動修復付与
「…。」
バックパックは見た目は50リットルぐらい入りそうな大きさだ。
サイドに短弓を吊り下げてある。
「ふむ。短弓から試してみるか。」
黒い艶のある木材でできた短弓を手にもつとポーチや短剣と同様に職人の目の効果で詳細が分かる。
神様が作った魔弓:不壊付与 自動修復付与 魔力効率付与
「…。」
弓も壊れないらしい。さすが神様。
魔力効率も魔力の消耗を抑えられるという付与のようだ。
弓を構え、矢を番えるようにしてから魔力を流すと魔力でできた黒い矢が現れる。
指を放すと黒い矢はギュンッと真っ直ぐ飛んでいき200メートルほど先の木に突き刺さって消えた。
「神様…、思ってたより凄いんですけど…。」
弓を戻しバックパックを見る。
神様が作った鞄:不壊付与 インベントリ機能搭載
試しに開けてみると中は真っ暗な空間になっていた。
手を入れると頭の中に今入っているものが浮かんでくる。
野営道具や調理器具一式、干し肉、着替えが入っているようだ。
一通り取り出して職人の目で確認してみたが全部普通の品だった。少しホッとした。
「服やバックパックの中身以外は他人に調べられると色々と問題がありそうだな…。」
ポーチから新しい煙草を一本取り出して火を付けて紫煙を吐き出す。
「ふぅ~。何はともあれありがたく使わせてもらおう。とりあえず近くの街に行ってゆっくりと今後を考えようか。」
バックパックを背負い直し、頭に入れてもらった大陸の常識と現在地を照らし合わせてから俺は東へと歩きだした。
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