第28話


朝日と共に目が覚める。

「えへへ、おはようございます。」

「ああ、おはよう。」


どうやら今日はクーチが先に起きていたようだ。

優しく頭を撫でてから身体を起こしてグッと伸ばす。


「シャワーを浴びるが一緒に行くか?」

「はい!」


クーチを連れてシャワールームで汗やらを流してサッパリとする。

まだいつもより少し早い時間なので水筒から水を飲んで「ふぅ~」と煙草の煙を吐き出す。


「あの2人は大丈夫でしょうか…。」

「まあ大丈夫だろ。一緒に居た2人よりもよっぽど腕は良さそうだ。案外、もう解決しているかもしれんぞ。」

「そうだと良いんですけど…。」

「さて、朝食を食べに行くか。今日は九層までは行っておきたいな。」


心配そうなクーチを励ますように、背中に手を添えて一階へと降りる。

いつも通りに朝食を食べ終え、用意をして弁当を受け取ってから迷宮へと向かう。


迷宮への列に並んで中へと入る。

マッピングした地図をバックパックから出して気配察知を発動させる。


「5層までは最短で行こう。」

「はい!」


そう指示を出し、少しだけ速足で進み始める。

何事も無く六層への階段へとたどり着く。階段を降りて六層の少し広くなっている場所にたどり着く。

ポーチから煙草を取り出して火を付け大きく煙を吐き出す。


「ふぅ~。少し休憩して進もう。ここからはマッピングを頼むな。」

「分かりました。」

「9層までは階段を見つけたら降りるようにしよう。正直、五層までと傭兵の数は変わらなそうだ。長居してもしょうがない。」


コクコクと水筒の水を飲みながらクーチが頷く。


「それと後ろをつかず離れず付いてくる2人組の気配がある。余計な心配だと良いが用心しておこう。」

「それって、マルさんとキクリさんじゃないですか?」

「どうだろうな。どっちにしても用心しておくことに越したことはない。」

「分かりました。」


たった今降りてきた階段の方に視線を向けながらクーチが返事をする。


「よし、それじゃあ行こうか。」


五層と変わらない人数の気配を感じる六層のマッピングを始める。

途中で一度だけゴブリン2体と遭遇したが魔弓でさっさと倒して進む。

そのまま七層、八層と降りて昼飯を食べる事にする。


「ここで休憩にしよう。」


階段を降りたところの隅にシートを広げて弁当を出す。

煙草に火を付けてモクモクと煙を吐き出しながら付いてくる2人組の気配を探る。

どうやら階段を降りてくるようだ。


「ふぅ~。」と大きく煙を吐き出し、何でもないように昼食の準備を始める。


「あっ!」


クーチが階段の方を見て大きな声を上げる。それにつられて階段の方を見ると魔女のような帽子を被ったマルと全身金属鎧のキクリが立っていた。


「どうも。僕達も一緒に食べていいですか?」

「…。」


そう言って2人はペコリと頭を下げる。


「話し合いはうまくいったか?」


そんな2人に声を掛ける。


「はい。悩んでたのが馬鹿らしくなるぐらい簡単でした。」

「そうか。」

「…マルがファイアーボールで脅した…。」

「んなっ!キクリがメイスで脅したんでしょう!?」


思わずクーチと顔を見合わせて笑ってしまう。


「それでどうして後をつけてきたんだ?」

「良かったら僕たちも一緒に行きたいなーと。理由はなんとなくなんですけどね。」

「そう…なんとなく…。」

「ぜひ!行きましょう!ハントさんもいいですよね?」


クーチは大歓迎のようだ。


「俺としては問題ないが、2人はいいのか?そっちの方がレベルは高いぞ?」

「問題ないです。僕達はこのままだといずれどこかで詰んでましたから。それに信頼できない高レベルの仲間より、信頼できそうな仲間と組みたいです。」

「…ハントとクーチ…大丈夫そう。」

「そういうわけです。どうでしょうか?」

「そうか。分かった。それじゃあ改めて自己紹介をしとこうか。俺はハント、武器はこの魔弓と短剣、斥候風のスキルが多いな。」

「私はクーチです!治癒士で武器は今は杖です。メイスも使いたいと思っているので、キクリさん暇なときは教えて下さい。」

「僕はマル。魔術師で、一応魔術全般は使えます。その代わり身体を動かすのは苦手です。」

「…キクリ。…盾の扱いは任せて。」


全員の自己紹介が終わったのでシートに座り昼飯を食べる事にする。


「…そっちのお弁当美味しそう…。」

「良かったら一緒に食べましょう!」


そう言ってクーチはキクリと弁当を分け合い始める。


「ハントさんはどうして傭兵に?」


マルがモグモグと食事をしながら話しかけてくる。


「そうだな。しばらく田舎で鍛錬ばかりしていてな。折角だから大陸を見て回ろうと思って田舎を出てきたんだ。」


神様に連れてきてもらってとはまだ言えないから適当な理由を付ける。


「それで、クーチに出会って強くなるためにメイズに来た。」

「そうですか。それじゃあ一緒に強くなりましょう!」


少年のような顔でニコニコと笑うマルに思わず苦笑が漏れる。


「そうだな。」

「それとリーダーをお願いしますね。僕とキクリは余りそういうのに向いてないですから。」

「ああ、適当にやってみるよ。」


昼食を食べ終えて。煙草に火を付けて煙を吐き出す。


「甘い香りの薬草煙草ですね。」

「ああ、すまない。煙が気になるか?」

「いえ、これなら大丈夫です。嫌がる獣人は少ないかもしれません。」


マルがそう言うと隣でキクリもコクコクと頷いた。


「いい匂いですよね。それはともかく、2人はお付き合いされてるんですか?」


マルから離れようとしないキクリを見ながらクーチが質問を投げかけると、2人は少し照れたように笑った。


「はい。僕は何があってもキクリを守ると決めています。」

「…私がマルを守る。」


どうやら2人は固い絆で結ばれているようだ。


「そうか。」

「ハントさんも私を守ってくれます!私はハントさんを守ります!」


クーチが対抗するようにフンスと鼻息荒く答える。


「そうだな。」


思わず笑ってしまうが、こういうのも悪くないと思う。


「さて、ゆっくりし過ぎたな。九層で軽く戦い方の確認をしていけそうなら十層のボスに挑もう。」


全員が頷くのを確認して荷物を片付けバックパックを背負う。


「マル、九層への道は分かるか?」

「分かりますよ。省略しますか?」

「ああ、頼む。」

「分かりました。それと”共有”」


マルが呪文を唱えると、4人を緑色の光が包み込んで消えた。


「これは魔物を倒した際に得られる経験を仲間で共有する魔術です。半日は持つので安心してください。」

「便利なものだな。」


これならクーチが無理して戦う必要も無いな。


「それじゃあ俺が戦闘、俺の後ろにクーチとマル、一番後ろにキクリでいいか?マルは進む方向の指示を出してくれ。魔物の気配を感じたら指示を出すから、俺とキクリの立ち位置を入れ替わろう。」

「「分かりました。」」


俺は吸っていた煙草を燃やし尽くしてから、4人で迷宮の奥へと進む。

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