第17話
ーーサクサーー
「くそっ!くそっ!!あいつら!ぜってぇぶっ殺してやる!!クソがっ!」
飲む傷薬をとりあえず飲み干し団員達が待つキャンプに向かって走る。
「へへっ、あそこにゃ30人の団員がいる。全員連れてぜってぇぶっ殺してやる。」
くそがっ。森の近くに隠しておいた馬に乗って急いでキャンプ地へと戻る。
しばらく走るとキャンプが見えてきた。
「よしよしよしよし。これで大丈夫だ!クソ野郎がっ「ヒヒーンっ!」」
突然馬が暴れだす。
「おっ!?なんだよ!」
グワッと馬が立ち上がり、振り落とされてしまった。
「いてえ!くそがっ!駄馬がっ!なんなんだてめえは!」
馬に八つ当たりをしながら立ち上がると馬の尻に矢が刺さっていた。
「はっ?」
なんで矢が刺さってる?
狙われてんのか?俺が?バンデットレイヴンの俺が?
気配察知には…そこで気付く。森から逃げ出した時から注意が散漫になっていた事に。
そして後方に気配を感じる事に。
気配の方を振り向こうとしてドッという音と背中に鋭い痛みを感じた。
「あ…。クソ…死にたくねえ…」
ドッともう一本背中に矢が刺さる。
そして俺には何も見えなくなった。
ーーーーーー
クーチを連れ、急ぎ足で森を出て次の目的地である廃墟へと向かう。
廃墟へ着くとブルクスとタイホールが待っていた。
「すまん。待たせたか?」
「いや、大丈夫です。狙い通りに荒鷲団の斥候が2名、逃げた男を追っています。その後を荒鷲団の団長達が追っています。ギルドとしてもバンデットレイヴンは頭の痛い問題ですから、この機会に潰しておきたいところですね。」
作戦通りにいったことにホッとしながら煙草に火を付ける。
「それじゃあ俺たちも移動しよう。ハントさんは2人乗りでお願いしますね。」
タイホールの言葉に頷き、用意してもらった馬に跨る。
クーチに手を差し出して俺の前に乗せる。
神様にこの世界の常識の一つで乗馬の技術も詰め込まれていたのが役に立った。
タイホールを先頭に3頭で駆ける。
「クーチ、大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!」
ドドッドドッと蹄の音をさせながら駆けていると前方に20人ほどの集団が見えた。
こちらに向かって手を振っているので味方のようだ。
馬を止めて降りると、見覚えのある斥候の1人とクマズン団長、荒鷲団の団員とみられる傭兵達が居た。
「おう!依頼ぶりだな!ハント!」
「そうだな。」
「それで、お前たちが逃がしたのはこいつで間違いないか?」
目の前に転がされていたのは背中に矢が2本刺さっている男だった。
クマズンが足でゴロリと向きを変えると、サクサという男だった。
チラリとクーチのほうを見ると、クーチは静かに頷いた。
「ああ。間違いない。それでアジトは分かったのか?」
「アジトというよりキャンプだなありゃあ。30人ぐらいの集団でテントも張ってあるが団長たちがいねえな。」
「見た事があるのか?」
「ああ。バンデットレイヴンの団員たちは大体どっかに鴉のタトゥーが入ってる。」
そう言って、サクサの腕をまくると確かにタトゥーがあった。
「そして、団長のザリオ、副団長のジュリオの兄弟だが、どちらも俺よりでけえんだわ。」
クマズン団長がおれよりだいぶ大きいから190cm前後だろうか。それよりデカいって事は2m越えか。
「そしてスキンヘッドで、頭の後ろに翼を広げた鴉のタトゥーを入れてる。弟のほうは顔にデカデカと入れていて、バカでかい戦斧とバカでかいメイスがそれぞれの武器だな。んで、お前たちが来る前に偵察に行かせたがそれらしき傭兵はいないそうだ。」
「そうか…。ここを潰しても意味がないのか…。」
チラリとクーチの様子を伺うとこちらの視線に気づき、強く頷き返してくる。
「分かりました。ただ、ギルドとしてはこのキャンプは潰して頂きたいですね。ここを足掛かりに頻繁に南下されるようになられても困りますし。」
「そうだな。荒鷲団としてもそれには賛成だ。」
「それじゃあ、殲滅するという事でいいのか?」
「いや、何人かは生きたまま捕まえる。手足の一本や二本無くなっても喋れりゃ十分だ。洗いざらい吐き出させようぜ。」
クマズンの言う事に頷く。
「それでは、私はここで彼女と馬を見ておきます。」
私は戦う力は無いのでと苦笑しながら、荒鷲団の1人を指さしながらブルクスが言う。
「クーチはどうする?」
「私も行きます!」
「そうか。なら俺と一緒に行動するか。俺は遠くから狙撃するつもりだしな。」
そう言ってから、クマズンに作戦の確認をする。
「タイホール、3人連れて北側に回りこんでくれ。1人も逃がすなよ。んでそっちの5人は西に回ってくれ。そっちの5人は東だ。んで残りは俺と南から行く。ハント達も俺と一緒な。」
クマズンの指示に頷く。
そう言って手早く支持をだすクマズンを見ていると、さすがは団長だなと思う。団員も指示通りにキビキビと動いていて練度の高さを感じさせる。
「それじゃあ、配置についてくれ!合図はファイアーボールを打ち上げるからそれに合わせて突っ込むぞ!油断するなよ!全員死ぬな!」
「「「「おう!!」」」」
威勢のいい返事をして団員達が走り出す。
「さて、ハントは何ができる?」
「ああ、俺はこれだな。」
そう言って、バックパックから魔弓を外して手に持つ。
「弓か。矢を用意したほうがいいか?」
「いや、これは魔弓だ。」
「ほ~、珍しい物持ってんじゃねえか。」
「珍しいのか?」
「そうだな。もう少し大陸が荒れてた頃にエルフで使ってたやつが居たって話は聞いたことがあるが、今じゃまったく聞かねえな。南のトラスのほうがエルフは多いからそっちだったらまだ居るかもな。」
「トラスか。そのうち行ってみるか。」
「それもいいかもしれねえな。だが、エルフと獣人の仲が悪いからあっちはあっちで危険なんだよな。こっちはかなり平和にはなってきてるが。」
話しをしながらキャンプ地へ向かって歩く。
「嬢ちゃんは災難だったな。もし行くところに困ったら荒鷲団に来てくれりゃあいつでも歓迎するぜ。」
そう言ってクマズンはクーチにも声を掛ける。
見た目と違って気が利くらしい。まあ、団長だもんな。
背中に戦斧を背負ってノッシノッシと歩く様子は、まるでクマだな。スキンヘッドでムキムキ。
「私はハントさんに付いて行くので大丈夫です!」
ふんすと手を握りしめて宣言するクーチに思わず呆けてしまう。
「がっはっはっは!そうかそうか!まあ、こいつは腕は確かそうだしな!」
「団長、そろそろ静かにしないと。」
「おっと。すまんすまん。話は後だ。無事に終わらせて今夜は打ち上げといこうぜ!」
苦笑して頷く。クーチの方を見ると少し頬を染めて固まっていた。
「クーチ、行くぞ。」
「はっ!はい!」
慌てたように返事をして動き始めた。
キャンプ地にだいぶ近づいた。全員ができるだけ身を屈めて、草原の草に紛れ込む。
鷹の目で見てみると、焚火を囲んで喋っているもの。だらだらと喋りながら見張りをしているもの。外で寝転がっているものなどが見える。どうやらこちらには全く気付いてないようだ。
「ふむ。気づかれてないようだな。さて全員用意はいいか?」
「「「「おう!」」」」
「それじゃあここからは盗賊退治の時間だ。」
目をギラギラさせながらクマズンが言う。
「よし!行くぞ!」
クマズンが右手を上げると荒鷲団の魔導士からファイアーボールが上空に放たれ、ドンッという音を立てて爆発した。
それと同時に傭兵達が一斉に走り出す。
俺はスッと立ち上がると魔弓を構える。
「ふぅ」と息を吐いて正面の見張り2人のうち1人に狙いを定める。
見張りは今の音に驚いて回りをきょろきょろ見渡しているようだ。
少し遠い為、多めに魔力を籠めて黒い魔力の矢を番えて放つ。
ヒュッと音を立てて黒い矢が飛んでいく。
続けて素早く二射目を用意し放つ。
ボっという音を立てて1射目が命中した見張りの頭が吹き飛んだ。
続いて2人目の頭も吹き飛んだ。
「おい!ハント!なんだそりゃ!俺に当てるんじゃねえぞ!」
ビックリしたような顔をしたクマズンがこちらを振り返りながら叫ぶ。
軽く右手を振ってクーチと一緒にクマズン達を追いかけ始める。
「敵襲ーーーー!敵襲ーーーーー!!!」
キャンプの中から叫ぶ声がする。
「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」
傭兵達の雄叫びが聞こえてくる。
「おら!喰らいやがれ!”旋斧”!」
クマズンが叫んで戦斧を投げると、勢いよく回転した斧が建てられたテントに向かって飛んでいく。ギュルギュルと音を立ててテントを破壊しつくすとブーメランのように戻ってくる。
ドンっと手で受け止めて何事も無かったかのように敵へと突っ込んで行った。
「あれは喰らいたくないな。」
「そうですね。」
ぼそっとした呟きにクーチが返事をしてくれた。
「じゃあ、俺たちはここから狙撃しよう。周辺の警戒を頼むな。」
「分かりました!」
魔弓を構える。
フレンドリーファイアは嫌だからな。魔力は少な目に籠める。
ちょっとだけ細くなった魔力の矢が番えられる。
「まずはお前。」
荒鷲団の傭兵に2人掛かりで戦っている盗賊に狙いを定める。
ふっと矢を放つと1人の足に突き刺さってそいつは倒れこむ。倒れこんだ奴にもう一射放ち止めを刺す。
そうやって、人数の少ないところ、不利になりそうなところを中心に矢を放っていく。
暫くするとだいぶ静かになってきた。
「ハント!お前すげえな!良い腕してんじゃねえか!!」
がっはっはっはと笑いながらクマズンが近付いてくる。
どうやら終わったようだな。
薬草煙草に火を付けてふぅ~と息を吐き出す。
「足を引っ張りたくないからな。」
「むしろかなり助かったぜ!おかげでちいせえ怪我だけで済んだ。お前も荒鷲団に入らねえか?」
「俺はまだいい。もう少し大陸を見て回りたいからな。」
「そうか、残念だな。嬢ちゃんと一緒に入ってくれりゃありがてえんだがな。」
「考えておく。」
ニヤリと笑って返事を返す。
すると奥の方から人を引きずってタイホール達が戻って来た。
「これで終わりですね。物資は回収済みです。それとこの3人はまだ生きているので連れて帰ってギルドに預けましょう。」
「よし!野郎ども!これで終わりだ!火を付けて帰るぞ!」
魔導士がキャンプ地の残骸に火を付けて燃やしていく。
灰と残骸だけにしてからブルクス達と合流して街へと戻る。
クーチを前に乗せて2人乗りでゆっくりと走る。
「あの、ハントさん。」
「ん、どうした?」
口から紫煙を吐き出しながら返事をする。
「ありがとうございました。少しだけスッキリできた気がします。」
「ああ。気にするな。それにまだバンデットレイヴンの本体が残ってるみたいだしな。」
「それで、今後の事なんですけど…」
「ああ。」
「ハントさんと一緒に行っていいですか…?」
細い背中を不安そうに縮こまらせて聞いてくる。
「ああ。構わないぞ。」
「本当ですか?!!」
がばっと勢いよくこちらを振り返ったせいでバランスが崩れそうになる。
「おっと。」
とっさに抱きかかえるように支えて、バランスを整える。馬も心なしか迷惑そうだ。
「…すいません。‥本当について行っていいんですか…?」
不安そうに頬を染めて聞いてくるクーチを元の態勢に戻す。
「ああ。構わない。だが、覚えておいてほしい。俺は英雄でも特別な力を持った傭兵でもない。ただの傭兵だからな。それでもいいならついてくるといい。」
「はい!」
嬉しそうな声で返事をするクーチに苦笑しつつ、俺は口から煙を吐き出した。
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