第13話
煙草をプカプカと吸いながら考え事をしていると女将さんに声を掛けられた。
「そろそろ夕飯だけどどうする?」
「ああ、もうそんな時間か。お願いする。」
「はいよ!ビールでいいかい?」
「最初はビールで。あとちょっと強めの酒はあるか?」
「蒸留酒があるよ!一杯1000ドルグだ!」
「じゃあそれも頼む。氷も入れてくれ。」
「あいよ!」
少し強めの酒でも飲みたい気分だ。
ビールが先に来たのでゴクゴクと飲んで煙草を吸う。
「ふぅ~。」
息を吐いて頭の中を整理する。
明日からは討伐依頼を中心に受けよう。自分のレベルアップと体術と短剣術の確認をメインにしよう。路銀を貯めつつ、少ししたら南のほうにある迷宮都市でダンジョンに潜るのもいいだろう。盗賊とのエンカウントや他の傭兵との戦争よりも戦える回数は多いはずだ。レベルアップも早くなるだろう。
ぷかぷかと煙を吐き出しながら、つらつらとそんなことを考えていると目の前にクーチが座った。
座るまで気づかないほど考え込むとは、と苦笑してしまう。
「よう。何か飲むか?」
「はい。女将さん!果実酒をお願いします!」
はいよーという女将さんの声を聞きながらクーチの様子を見る。
目は真っ赤でさっきまで泣いていたのだろうが、今は弱弱しい感じは見受けられない。
どちらかというと何かを決心したような顔をしている。
「ふむ。無理はするなよ。」
一声かけて煙草を吸い、ビールを飲む。
「お待ちどう!果実酒と蒸留酒だよ。夕飯はちょいと待ってくれ!二人分用意するから。」
ドンドンとテーブルにグラスを置いて女将さんは急いでカウンターに戻っていく。
「ハントさん、助けて頂いてありがとうございました。」
「気にするな。たまたま見つけたから保護しただけだ。」
「はい。それでもありがとうございます。見つけてくれたのがハントさんじゃなければどうなっていたか分かりません。」
それはそうだろうなと思う。
綺麗な金髪に青い瞳、肌も白く、恰好が綺麗なドレスなら傭兵には見えないだろう。
それこそどこぞの金持ちの令嬢と言ったほうがしっくりくる見た目だ。
これで傭兵や盗賊に見つかっていたら、玩具にされた後にどこかに売られただろうなと思う。
ここは日本じゃないからな。
ちびちびと果実酒と飲むクーチを見ながらそんなことを考える。
夕飯もテーブルに載せられ酒を飲みながら黙々と食べる。
クーチを見ると何か言いたそうにこちらを見ながら食べている。こちらのペースに合わせようと口に詰め込む様子は小動物のようだ。
「ゆっくりでいいぞ。時間はある。」
焦らないように伝え、自分の食事に戻る。
食べ終わり、蒸留酒を飲みながら煙草を吸う。
蒸留酒は香り高く、日本で飲んだことのあるウイスキーに味も似ていた。
すこしだけ満足しながらちびちびとグラスを傾ける。
「ごちそうさまでした。」
クーチも食べ終わったようだ。
喉を潤すように果実酒を飲み、じっとこちらを見つめてくる。
「あの…」
「遠慮せず言っていいぞ。」
「はい、ありがとうございます。助けて頂いてありがとうございました。」
そう言ってクーチはペコリと頭を下げる。
「礼はもう受け取った。気にする必要はない。」
「それでお願いがあるのですが。私は強くなりたいです。治癒士ですが、体術も嗜んでいます。ただ、鍛えられている前衛職の方に比べたら非力でできることも少ないですが。それで、ハントさんはどこかの傭兵団に所属されていますか?」
「いや、俺はソロだな。」
「そうでしたか…。あの!私と組んでもらえませんか?!私強くなりたいんです。」
「俺は構わないが、この街には荒鷲団という大きな傭兵団があるぞ。ただ、俺はソロだ。そこならクーチも安全なんじゃないか?」
「そうなんですね…。でも…。」
「いいかクーチ。ゆっくりでいいんだ。俺はソロだ。ましてや英雄でもなんでもない、ただの傭兵だ。傭兵団に所属するのと違って安定もしてないし、少人数故の危険も多いだろう。礼を、というならそれはもうもらっている。クーチまで命を危険に晒す必要はない。」
「いえ!ダメなんです。今までみたいに守られて、治癒をして、また守られて…。それじゃあダメなんです!」
思ったより焦っているようだ。
「焦らなくていい。」
そう言って、蒸留酒を一口飲んで煙草に火を付け煙を吐き出しながら天井を見上げる。
「こうしよう。」
視線をクーチに戻す。
「俺にも少し思うところがあってな。レベルアップをしたいと思っている。そこで明日から西の森で討伐依頼をこなすつもりだ。とりあえずはそれについてくるか?」
「…いいんですか?」
「俺は構わんぞ。もともとそうしようと思っていたからな。」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「分かった。それと5日だ。明日から5日で迷宮都市に移動しようと思っている。それまでにどうしたいかを考えるといい。」
「迷宮都市ですか…?そこへは何を‥?」
「いや、ダンジョンの方がもしかすると魔物と戦いやすいかもしれないって考えただけだな。」
「そうですか…。分かりました。それまでに決めます。」
「分かった。」
煙草を大きく吸って煙を吐く。
「いい香りですね。北部にはない薬草煙草です。」
「そうか。貰い物でな。」
少し残っていた蒸留酒を飲み干して女将さんを呼ぶ。
「そうだ、部屋は空きそうか?」
「ああ、一部屋明日空く予定だよ。2人部屋も明日空くけどどうする?」
ニヤニヤと笑いながらそんな事を言ってくる。
「いや2部屋「2人部屋でお願いします。」」
ギョッとした。
「クーチ、突然何を‥」
「あ、あの、煙草の甘い香りがなんとなく落ち着いて寝やすかったので…だめでしょうか?」
「まあ、いいか。女将、5泊延長したいんだが。」
「あいよ。今は明日までの宿泊代はもらってるから、2人部屋で5日間朝夕付きで30000ドルグだよ。」
「あと蒸留酒のお代わりも。ああこれで頼む。」
タグを差し出す。
「蒸留酒2杯で2000ドルグと合わせて32000ドルグね。毎度あり。」
「ああっ、私も払います!」
「大丈夫だ。金ならある。」
「いえ、私もあります!母から譲渡されているので!」
「それは身支度に使おう。何も持ってないだろう?」
「あ…。はい…ありがとうございます。」
「とりあえず今日は昨日と同じ部屋だ。先にシャワーを浴びて休むといい。」
「はい。」
クーチは返事をして立ち上がると階段へと向かって行って振り返った。
「あの!ありがとうございます!明日からよろしくお願いします!」
応えるように左でをプラプラと振り煙草を吸う。
「はいよ、蒸留酒とつまみはサービスだよ。」
「すまんな。」
蒸留酒の新しいグラスと干し肉をあぶったジャーキーのようなものが出される。
「ふぅ~」と息を吐いて蒸留酒を飲む。
「あんた、良いやつだね。」
「そうでもない。俺は唯の傭兵だよ。」
「そうかい。」
含むように笑いながら女将がカウンターへと引っ込んでいった。
俺は明日からどうするかと考えながらちびちびと十分な時間をかけて飲んでから部屋へと戻った。
クーチが寝ていることを確かめて自分にクリーンをかけると床へと横になった。
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