(改稿前)ニトの怠惰な異世界症候群~最弱職〈ヒーラー〉なのに最強はチートですか?~

酒とゾンビ/蒸留ロメロ

第一章:【虐げられた者】

第1話 グッバイ!日常!

チャイムが鳴る――


それは“虐め”が始まる合図だ。


「おい!日高!ジュース買って来い!」


めんどくさい。


「じゃあ俺のも頼むね日高っち!」


めんどくさい。


「うん…炭酸で良い?」


何が炭酸でいい?だ。

気を利かしてるつもりか?

それは奴隷根性が染みついてきた証でしかないというのに。


だがこれが俺の日常だ――


高校に入学してからの2年間。

今に至るまで、俺はこの佐伯と木田にいいように使われている。


まぁ虐めって言うんだろうな?こういうの・・・


ただ自分が虐められてるなんて認めたくないから友人であるようなフリをして、無理やりやらされているわけじゃないと自分に言い訳できるギリギリの関係を演じている。


そんな、意味のない日々を過ごしている。


「佐伯君!また日高君を虐めてるの?!恥ずかしくないの?高校生にもなって虐めなんて?」


彼女は学級委員の河内さん。


「はぁ?虐めじゃねえよ!ちょっとジュース買いに行ってもらうだけだろ?なあ日高?俺たち友達だよなぁ?」


お前を友達などと思ったことは一度もない。


「そうそう河内さんの勘違い勘違い。俺たちこれでもマブダチなんだからー」


こいつの目は節穴か?

どう考えたって違うだろ?


何が友達だ…


「日高君も黙ってないで何か言ったらどうなの?」


何故、お前に怒られなければいけないんだ?


「…その…虐められてないよ…」


「はぁ…日高君はそれでいいの?」


河内さんは呆れたような目つきで俺を見た。

こいつも同じだ。こいつらと…


「どういう意味か分からないよ…」


俺はそう言い残し教室を後にした。


廊下にいても聞こえる佐伯と木田の笑い声…人を馬鹿にして何が楽しいんだ?


そんなに面白いか?


いや…楽しいのだろう。だから虐めはなくならない。


虐めの4層構造というものがある。

被害者・加害者・観衆・傍観者だ。


つまり、いじめの現場で無関係な者などいないという考え方だ。


だけど現実は違う。

皆、自分は関係ないと思ってる。

気づいてるのか?気づいてないのか?そんなことは関係ない。


ただ楽しいか楽しくないか――単純な話だ。


――だから俺は自販機ではなく屋上へと向かうのだ――


もうほとんど学校では、屋上への立ち入りが出来ないようになっていると聞いたことがある。

しかし、俺の通うこの学び舎は屋上が解放されている。


つまりこういうことだろ?


“生きるのがつらくなったらいつでも飛び降りてください”


そう心の中で呟いてみて分かる。


――俺は狂っている。


「でも狂ってるのは俺じゃなくてこの世の中なんだよ…」


声に出してみても何も変わらない。

俺は屋上のフェンスをよじ登り、反対側へと降りた。

そして空を見上げ深呼吸する。


昼食を食べながら“友人”と楽しそうに話している何人かの生徒がこちらを見てざわつき始めた。


そうなんです…おれこれから自殺するんです…

空はいつものように“綺麗な灰色”だ…

空だけじゃない。

校舎もグラインドもアスファルトも…全部同じ色に見える。


お前らには分からないだろうな?


政宗は談笑する生徒たちを見た。


「じゃあ……みんなさよなら」


俺は飛び降りた。


俺は死にたかったわけじゃない。

生きたくなかっただけだ。

お前らにはこの違いも分からないだろう?


ただ落ちていく。

俺の考えもこれまでの時間も、すべて落ちていく。


そして気を失いかけた時だった。

目の前に凄まじい光が飛び込んできた。

それは視界を埋め尽くし何も見えない。


俺、日高政宗は死んだ……はずだった。

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