第11話 馬車に揺られて

俺は一人、歩いていた。

あいつらと別れてどのくらい経っただろうか?異世界を旅してるのに魔物が一匹も出ない。


「暇だなー」


俺はまた異空間収納からワインを取り出し、一口飲んだ。」


「肉が喰いたいな――」


そういえば異世界に来てから、ワインとチーズしか口にしていない。

ワインもチーズも腐るほどあるために食料には困らないが、いや、チーズは元々腐っているようなもんか?・・・

兎に角、肉が食べたい。

王都についたら、真っ先に肉を食べよう。

日高はそう心に誓った。


***


あれからさらに数時間が経過した。


日高は相変わらず一人だった。

見知らぬ地に一人、頼れるものもいない。

普通そんな状況に陥ったら、気が動転してもおかしくない。

それでも日高が平静を保っていられるのは、ワインの力だけではなく、そもそも日高は一人だったということが大きいだろう。そう日高は日本にいた頃から孤独だったのだ。

誰も助けてはくれず、ただただ一人、耐えるしかない。

不幸中の幸いとはこのことを言うのだろうか?


「ああ・・・暇だなー」


日高は空を見上げながら、あくびをした。

その時だった。


ガサガサガサ!


草むらから何か音がする。

日高は突然した音に、ビクッ!と反応し、音のする方へ目をやった。


「なんだ?・・・」


草むらが揺れている。

日高は凝視した。

そして、音の正体が姿を現した。


ガルルルルルル!


狼?のような魔物が草むらから飛び出してきた。

そして、日高はあっという間に数匹の魔物に囲まれてしまった。


「キタキタキタキタキター!これでこそ異世界だろう!」


久しぶりの戦闘に興奮する日高。


「この鬱憤を晴らすには丁度いいなー侵蝕を一発かましてやってもいいが・・・」


日高はスキルで魔物のステータスを覗いた。


「やっぱり魔物にも使えるみたいだなーいや使えなきゃおかしいか?」


***

ハンティングウルフ

Lv:8


群れで行動し、非常に狩りに優れた魔物。

牙や爪による攻撃を得意とする。

***


「レベル8!――」


俺は驚愕する。


ここに来てまさかのレベル8.


「いや・・あいつらに会った時から何かおかしいとは思ってたんだ。あいつでさえ48だったからな」


やはりシャオーンがいたその迷宮は少し常識はずれな場所だったのかと、目の前の魔物をみて改めて実感する日高だった。


「それにしてもよく生きてあそこを出られたよな?そう考えると・・・」


そんなことを考える時間があるほど、ハンティングウルフは日高を囲んだ後も、唸るばかりで襲う気配がない。


ハンティングウルフは野生の勘というものに優れた魔物であった。もちろん魔物はこの世界において生物であり、種類によっても様々であり個体差もある。

しかし、ハンティングウルフは平均的に見ても勘の鋭い魔物であった。


日高を何故か警戒するハンティングウルフ。


「ん?――なんだ?」


日高は疑問に思った。


「そっちからこないならこっちからって言う。ありきたりなセリフを異世界に来たから言ってみたい気もするが・・・」


迷う日高・・・流石にださくはないかと迷う日高。

その時だった。


「伏せてっ!――」


どこからともなく声がした。


キャイーン!


綺麗な銀色の髪をなびかせながら一人の少女が現れた。

少女は刀身の細い剣で次々とハンティングウルフを切り伏せていく。


「あれはレイピアか?――」


そして日高が呑気にそんなことを言っていると、目の前で唸っていたはずの魔物たちはすでに、血を流しすべて絶命していた。


「危ないところでしたね?お怪我はありませんか?」


ケガなんてねぇし、危なくもなかったよ!

クソっ!俺の楽しみを奪いやがって!

俺の戦利品が――


「いやー助かりましたー」


敬語で話してきたから敬語で返す。これは当たり前のことだ。


「ん?危ないところを助けられたというのに、あまり嬉しそうではありませんね?むしろ何故か恨みのようなものさえ感じます」


勘の鋭い女だ。


「え?どういうことですか?ちょっと何を言ってるのか分かりませんが・・いやーホント助かりましたよー後少し遅かったらどうなっていたか。間違いなく奴らの腹の中でしたよ」


女はじーっと俺を見つめた後、「そうですか」と言って微笑みかけた。


「シエラさーん!」


するとそこへ一台の馬車がやってきた。

偶然にもこの馬車は王都ラズハウセンに向かうらしく、俺は同行させてもらうことにした。


***


「私はウィリアム・ベクター。こっちは護衛のケイズ」


「ケイズです。よろしくお願いします」


「私はシエラ・・シエラ・エカルラートよ」



見た目30代後半の若々しさの中に貫録があり、気品の溢れるこの男性はウィリアムさん。

商人をしているらしい。

偶然通りかかったのは、ラズハウセンへ商品を送り届ける道中だったかららしい。

俺は無償で護衛を頼まれることと引き換えに、馬車に乗せてもらったわけだ。

そして、どうやらシエラさんも俺と同じく王都へ向かう途中にウィリアムさん達と会い。護衛と引き換えに乗せてもらっているとのことだった。

自己紹介が終わった後、話はあの場に居合わせた経緯に移った。


「それにしても馬車を飛び出して行かれた時は何事かと思いましたよ」


そう話すのはウィリアムさんだ。


「飛び出していったんですか?」


「ええ、急に魔物の気配がするとだけ言い残されて、飛び出して行かれましてね。いやはや、いったい何が起きているのかと思いましたよ。ですが流石、噂に名高い白王騎士団ということでしょうか――」


シエラさんは「とんでもありません」と、何故か頬を赤らめている。


「あの・・・白王騎士団って何ですか?」


「御存知ありませんか?」


ウィリアムさんは、少し驚いた表情をしていた。


「王都ラズハウセン。そこには何代にも渡りその地を治める王がいます。そして現国王である。アーノルド・ラズハウセン――その王の直轄部隊こそ、白王騎士団なのです」


王様の直轄?それはどのくらいすごいことなのだろうか?

この世界の常識を知らない俺には分からない。


「しかし実態は不明。よほどのことでない限りは公の場に姿を現すことはないとまで言わている白王騎士団の方に、まさかお会いできる日が来るとは私、夢にも思いませんでしたよ」


シエラさんは「それほど」でもありませんと言いながら、相変わらず頬を赤らめていた。

それにしても、銀髪・・・ウィリアムさんの言葉を借りるわけではないが、俺も銀髪の美少女に会えるなんて夢にも思わなかったよ。


「ですがその若さで白王騎士団に所属されているとは、シエラ殿は流石ですな」


ウィリアムさんは、そう言った後、女性に年齢の話をするのは失礼でしたと、頭を下げながら謝っていた。


「私もあなたのことは知っていますよ。ウィリアム・ベクター殿」


「これはこれは、シエラ殿にご存知いただいているとは、光栄の極ですな」


「ウィリアムさんも有名な方なんですか?」


「いえいえ、シエラ殿の足元にも及びませんよ」


「ご謙遜を、商人の世界でウィリアム・ベクターと言えば、知らぬ者はいないでしょう」


シエラさんはそう話す。

ウィリアムさんは、その筋では名の知れた方で、様々な国に数多くの商品を卸しているらしい。中には市場に出回らないような希少なものもあるということだった。


「ところでニト殿は何故あんなところにおられたのですか?」


ウィリアムさんが俺に話をふった。


「俺は・・・そうですね。気まぐれと言いますか、少し冒険に出てみたくなりまして」


まったく――要領を得ない発言に、俺自身が呆れる。


「と言うことはギルドに行かれるのですね?」


シエラさんはそう言った。


「ギルドですか?」


ギルド――それは異世界に来たなら叶ず訪れなければいけない場所である。


「違うのですか?」


「ああそうなんです。ギルドに用がありまして・・・」


「なるほど。そうでしたか、でしたら王都に到着後、私がご案内しましょう」


シエラさんがそう言った後、ウィリアムさんは「羨ましい限りですな」と言って、高らかに笑っていた。


「ところでニト殿はご職業はどういったものを――」


その話題か・・・とうとうきてしまったのか、その話が・・・

しかし、嘘は言えない。

何故ならこの場を切り抜けられる嘘が思いつかないからだ。

剣士と言ったらどうなるだろうか?剣ならある。だがすぐにバレてしまうだろう。

何しろこの正面にいるのは白王騎士団とか言う凄腕の騎士らしいからだ。

ソーサラーもダメだろう。俺は治癒系しか使えないのだから。いや・・・聖女の怒りがあったか・・いや、やめておこう。その内「聖女の怒りを何発打てば気が済むんだ?」とか言われそうだ。


「ヒーラーです」


それを聞いて初めに口を開いたのは、ウィリアムさんだった。


「なんと!これはこれは・・そうでしたか。ならばパーティーを組まれるのですか?」


「見つかればいいんですが・・・」


俺は軽く苦笑いした。

それを聞いたシエラさんはこう切り出した。


「ならば私がギルドに話を通しましょう――ここであったのも何かの縁です。ヒーラーはただでさえ冒険者としてやっていくのが難しい職業です」


やはりそうだったのか・・・

隣でウィリアムさんが「プリーストならまだどうにかできましたでしょうに」と、傷口に塩を塗るようなことをさらっと言った。


「大丈夫ですよ、ニト殿。ヒーラーでも共に冒険してくれる仲間は見つかりますから」


ならばお前は見たことがあるのか?と聞きそうになったが喉の辺りで止めておいた。


「世の中には自分の職業に自信を持てず、その一歩を踏み出したくても踏み出せない方々がたくさんいます。ニト殿、あなたが最初の一人になりましょう」


いやだから踏み出すも何も、こっちは冒険者になるって最初から言ってんだけどなぁ。

それに「自信を持てず」って・・・まったく大きなお世話だ。

シエラさんはその後、拳を上げ、「最初の一歩を踏む出すんです」と付け加えた。


「ははは・・とりあえず頑張ります」


「その意気です!」


シエラさんは、少し天然な人なのだろか?

とりあえず案内だけはしてもらおうと思う。後は期待しない。


馬車が揺れて尻が痛い。これもファンタジー要素の一つなのだろうか?


馬車は王都へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る