第15話 パラディン

それはこの国の王国騎士だった。

先頭にいた女性はギルドに入って来るなり辺りを見渡すと、こちらを見て何かに気づいたような様子で歩いてきた。


「シエラ様!こちらにおられましたか――」


やはりシエラさんの知り合いだったか。


「よくぞご無事でお戻りになられました」


そう言って女性の騎士は、その場で片膝を地面に着け頭を下げた。

シエラさんが“偉い”ということは分かっていたが、目の前でいざその姿を見ると、何だか違和感しかなかった。


「シエラ様。こちらのお方は?」


「こちらはニト殿、そしてトア殿です」


俺は軽く会釈した。


「王都へと戻る道すがら、2人にはお世話になりました」


「そうでしたか、私はアネット。この度はシエラ様が大変お世話になりました。ところでシエラ様、今回は何用でこちらにいらっしゃったのですか?」


「ニト殿には王都に到着次第、ギルドを案内すると約束していたものですから、ですがもう用事は終わりました」


「そうですか。ではそろそろシエラ様には王宮に戻っていただきたいところなのですが――」


するとアネットさんは俺たちの背後でイライラしながらこちらを睨んでいる冒険者に気づいた。


「話は終わったか?まったくなめた真似しやがるぜ。このC級冒険者であるヨーギ様を待たせるとはいい度胸じゃねえか?」


弱い悪人とは何故こうも皆、同じことを言うのだろうか?


「シエラ様、私が相手をしましょう」


するとアネットさんは俺たちの前に出た。


「場を弁えぬ冒険者よ。鬱憤がたまっているようだな?ならば私が相手をしてやろうか?」


「なんだ?俺たちの相手はお前がしてくれんのか?大丈夫か?お前一人で?」


ヨーギと名乗る冒険者は、アネットさんをニヤニヤしながら舐めまわすような目つきで見た。


「じゃあこっちからいかせてもらうぜお嬢さん!言っとくが女だからって手加減はしねえからな!」


ヨーギはそう言いながら、アネットに向かっていく。


「嵐球(フェザーボール)!」


アネットさんはヨーギに向けた掌から小さな球体を放った。


「ぐああ!」


球体は腹に当たると、まるでヨーギの腹から風が噴射するようにヨーギの体を持って行った。

そして、ヨーギは壁に激突した。

動かないところを観ると、どうやら気絶したようだった。

あれでC級とは・・いったいここの基準はどうなっているのだろうか?


「ではニト殿、トア殿――ここでお別れです。ニト殿には色々と驚かされっぱなしでしたが、あの時は助かりました。私では助けられなかったでしょうから――」


おそらくジャックのことだろう。


「トア殿はこれから大変でしょうが、本当に手続きは良かったのですか?」


手続きとは以前はなしていた役所での申請の話だ。

トアは静かに「大丈夫です」と答えた。


「ではニト殿、トア殿をよろしくお願いします」


「任せてください」


俺はそう言って、後ろで倒れているヨーギに集まる男たちをチラッと確認しながら、騎士の方たちとギルドを出た。

そして俺たちは、シエラさんと別れた。


「これからどうしよっかなー冒険者登録もしたし・・・まずは服だな」


トアの服を買ってやろうと思っていた。

勿論、自分の服もだ。

正直、この制服は異世界への冒涜だ。

直ちに処分すべきである。


「じゃあ行くか――」


俺はトアと共に、とりあえず服を買いに行くことにした。

が、俺はここであることに気づく。


「あ・・・そういや俺・・金ねえわ」


今気づいたのだが、俺はこの世界に来てから、貨幣という物を一度も手にしたことがない。

何故今まで気づかなかったのだろうか?

これでは服を買えない。


「あんた変わった服装してるね?」


そう話しかけてきたのはギルドの向かいにある店の店主だった。

女性が装備品を取り扱うお店を経営しているというのは普通なのだろうか?

俺は今まさに自分が置かれている状況を話した。


「なるほどねーあんた間抜けだねーそれより所持金もなしによくここまで辿り着いたもんだ」


店主は大したもんだという表情をしていた。


「だったらさーあんたが今着てるその服と交換ってのはどうだい?ついでにそっちのお嬢ちゃんの分も付けとくからさー」


女神が現れた。

一文無しの俺たちの目の前に女神が現れたのだ。


「感謝します女神様!」


「女神様?はっはっは!可笑しな子だねー私はシャロンだよ。とりあえず何か見繕ってあげるから、店の中に入んな」


俺たちは言われるがまま店に入った。

中に入ると剣やら槍やら、色々な武器や装備――それから回復薬だろうか?アイテムもあった。


「ところであんた職業は何だい?戦士か狩人か――」


「ヒーラーです」


「ヒーラー!?――そりゃまた難儀な話だねぇ・・そうかい、ヒーラーかい。だったらあんたにはローブと、薬草を入れられるようにこれも付けとくよ」


シャロンさんが手に持っているのは腰に着けるタイプのポーチだった。


「薬草ですか?ヒーラーってもしかして・・薬草とかも使うんですか?」


「あんた何にも知らないんだねぇ?ヒーラーって言うのは治癒魔法しか使えないから、治癒に役立つもんは何でも持っとくもんさ。薬草もその一つだよ。もしかしてあんた薬草学も知らないんじゃないだろうね?」


「・・・・・・」


「その様子じゃ知らないんだね?はぁ・・・・まったく大したもんだよ。ただ薬学は知っておいた方が良いだろうから、あとで王立図書館にでも行ってみな――ギルドで申請を済ましてるんだったら利用できるから」


「ありがとうございます」


俺は苦笑いしながら頭を下げた。


「こっちのお嬢ちゃんは?」


「私はパラディンです」


珍しくトアは自分から話した。


「パラディンって!ちょっとステータス見せてみな!なに・・誰にも話したりしないから」


*****************


トアトリカ・ロゼフ・ウルズォーラ

Lv:39


職業:魔導剣士

種族:魔族

HP:975

MP:780

攻撃:897

防御:780

魔攻:975

魔防:858

体力:780

俊敏:897

知力:819


【装備品】:【潜伏のローブ】

【固有スキル】:【支配】

【スキル】:【真実の魔眼】・

【称号】:なし

【魔術】:【雷速】・【風速】・【稲妻】・【稲妻の咆哮】・【雷の槍】・【竜巻】・【風の乱舞】・【嵐の槍】

【固有魔術】:【稲妻の嵐】・【雷の嵐剣】・


**********************


トアのステータスを見たシャロンさんの目は点になっていた。


「パラディンってなんですか?」


「魔導剣士のことさ。魔法と剣。2つの職に沿った魔術を扱えるのが特徴さね」


Lv:39――確かにそこらの冒険者よりも明らかにレベルが高い。

ギルドにいた連中を見ても一桁の奴が一番多かった。

二桁の奴らもいたが、10~17くらいまで奴しかいなかった。

いや・・23の奴が一人いたか。

ちなみにヨーギはLv:8だ。


「それよりお嬢ちゃんは魔族だったんだね」


魔族――そういえばグレイベルクのアバズレが言ってたな。


「魔族って何ですか?」


「あんたは本当に何にも知らないんだね?魔族っていうはカルテア大陸にいる種族さね。生まれながらに高い魔力を持つというね」


トアは魔族だった。

俺は生まれて初めて人間以外の女の子にあったわけだ。


「あんたらいったいどんな関係なんだい?」


魔族だからステータスが全体的に高いのか?それに魔導剣士というだけあって、魔術も豊富だ。

というかこれで何故、盗賊に捕まるのか?自分で何とかできただろうに――

正直、俺もトアが謎すぎてシャロンさんにどう説明すればいいのか分からなくなってしまった。

シャロンさんはトアの服と、それから剣をつけてくれた。


「何から何までありがとうございました」


「これでも安い方さ。あんたが着てた服と比べれば」


どうやらこの世界であの制服は高級の部類に入る素材で出来ていたらしい。


「あんたらみないな冒険者は初めてさ。ヒーラーかと思いきや、嬢ちゃんは高レベルのパラディンなんだからね」


やはり、Lv:39というのは高レベルらしい。

すると俺が出会ったあの3人組の一人、ジークも強者だったのだろう。

シャロンさんは少しだが、俺たち二人にお金を持たせてくれた。

それでもまだ俺の服の方が高いらしい。制服――恐るべし。


「それと無知なあんたに一つ忠告しとくがね――この国はまだ大丈夫。だけど、世の中には魔族をよく思わない連中もいる。それに魔族は魔力が高いことから人攫いにも目を着けられ易い。まあヒーラーのあんたに言うことでもないのかもしれないけど、男なら守ってやるんだよ?」


どの世界にも差別はあるものなのだろう。

シャロンさん・・・俺、こう見えても強いんですよ?

俺たちはシャロンさんにお礼を言って、店を後にした。



俺たちは広場に来ていた。

ここには冒険者のみならず、この国の住民や旅行客など様々な理由でこの国を訪れた人々が行き交っていた。

俺とトアは、そばにあった『果物をから作ったジュース』という看板を掲げたお店でジュースを買い、椅子に座りながら休憩していた。


そういえばトアは固有スキルも持っていたなぁ。どんな能力なのだろうか?

後、スキルに俺と同じ『真実の魔眼』があった。

ん・・待てよ・・ということはトアも相手のステータスを覗けるわけか・・・

ん?と言うことは・・・・


「なあトア?――」


「何?――」


「お前もしかして・・俺のステータス見た?」


「・・・・・見たけどそれがどうかした?」


やはり見たのか?見てしまったのか・・・

しかし、見てしまった者はしょうがない。


「何も思わなかったのか?」


「別に何も・・“異常”だという以外には何も思わなかったわ」


それが聞けて安心しました。

やはり異常ですよね?あなたから見ても・・・


「ところで、そんなに強いならなんで盗賊なんかに捕まってたんだ?」


「だって・・・怖かったんだもん」


トアは一瞬、頬を赤くし恥ずかしそうに答えた。

それにしても理由が理由なだけに・・まあ女の子だし別におかしくもないが、それだとあの逞(たくま)しいステータスと矛盾している。


「気づいたら森にいたって言ってたけど、その前はどこにいたんだ」


「お城にいたわ」


お城?・・・ん?どういうことだ?お城と言うことは、トアはどこかの金持ち?貴族?

どこかの国のお姫様と言うこともあり得る。


「お城では何をしてたんだ?」


「別に何もしてないわ。朝は魔術と剣の訓練をして、それから・・・」


「それから?」


「夜になるまで、父さまと母さまの帰りを待つの」


つまり箱入り娘か?

トアの話を聞き、俺はこの答えを導き出した。

それからトアは帰りを待っている間は、宝物庫で遊んでいたということや、庭でピクシーとお話をしていたということを話してくれた。

どうやらトアは生まれてこの方、城の外に出たことがないらしい。

俺はトアが何故、こんなにも何かに怯えているのか?

俺はその答えを知った。


トアは俺と似ている。

初めてこの世界を見ているのだ。

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