第9話 初登校の日

「うぅ、すごく憂鬱です」

「自信をお持ちください、お嬢さま。今のお嬢さまは一年修了時より進化なさっているはずです!」


 4月15日。早いもので、俺とお嬢さまが正式に出会ってから15日が経とうとしていた。


 ご所望の魔術は回復魔術とあって、かなり難しく。庭に生えている雑草をちょっとちぎっては魔術、というのを繰り返していたのだが成功せず。惜しいときはあったのだが、失敗続きだった。


 だが、消火という名目で練習させたので【スモール・アクア】は今や成功率100%。精神さえどうにかなればあとは簡単。そのままの勢いで中級魔法の【アグレッシブ・アクア】も使えるように。威力は上級魔法そのものだったが。


 上級魔法もやろうとしたのだが、魔力暴走が怖いので【アグレッシブ・アクア】の強化をしていくだけになっている。一週間ほど経過し、魔術展開に充分慣れたと判断したら上級魔法もチャレンジしたいところだ。


 元々かなり得意だった【スモール・ソイル】はあれから一回も発動させることはなく、呪文やイメージを伝えるだけであっさりと【アグレッシブ・ソイル】を発動できるように。


 魔力暴走の関係で二日に一回上級魔法の【レジェンド・エントランス・ソイル】も練習している。たまにもろくなったりすることもあるが、成功することが多い。成功率は八割といったところか。


 成功すれば上級魔法の上、天魔法といわれるレベルのものと遜色ないクオリティに仕上がる。


 不思議になって「なぜ試験で【スモール・ソイル】を使わなかったのか」と聞いたら「学校で習っていないから」と返ってきた。


 別に習っていないと使えないというルールはないはずなので、次からは積極的に使っていくように指示したこともあり、次の魔術ランクは爆上がりだろう。


 まったく、将来が楽しみで仕方がない。


「でも、創造魔術は一向に成功しませんがね……」


 死んだ目でそう呟く教え子に、俺は励ましの言葉を投げかける。


「創造魔術はありとあらゆるものを創造する、万能ともいえる魔術です。中等部で使いこなせる方などめったに出てきません。それこそ、大人でも魔術師団などの政府の機関に所属する人間レベルでないと使いこなせる人はいませんよ。一部でも上級魔法を使えることに誇りを持ってください!」


 創造魔術には無限の種類がある。当たり前だ。妄想が具現化されるのだから。


 ゆえに、難易度も無限にある。一番簡単なのは生活魔法レベルのものだ。二番目に難しいものが世界を壊す魔法と言われている。


 で、一番難しいものが世界を救う魔法——つまり、回復魔術だ。


 回復魔術にも種類があるのだが、何分使う人がほとんどいないのでフィクションの受け売りになっている部分はあるが。


 一番簡単だとされるのは、浅めの傷を癒すことができる【ヒール】。これは国を探せば誰かしらは使い手がいるものだ。でも、薬師が作ったポーションを飲めば回復できる規模なので、需要はほぼない。


 深手を治すことができるのは十年に一人くらい現れるのだが、膨大な魔力を必要とするため数を打てない。戦場に駆り出されることも多い。その場では救世主と呼ばれることも多いそうだ。


 だが、本当に凄いのはここからだ。『聖女』『神の使い』『聖者』と呼ばれる魔術。


 それは——【蘇生リヴァイヴァル】。


 死んだ人間を生き返らせることができる、まさに神の所業。特に心の清い者、魔力の高い者しか使うことができないとされる。


 しかし、前例が神話や伝説と化しているほど古いものとなってしまっているので、真偽は定かではない。


 こんな伝説級の場所が、俺たちの目指しているところだ。だからこそ、そこに手が届かないからといって嘆く必要はない。ゆっくりと、進んでいけばよいだけの話なのだから。


 といっても、期限が約五年なのでできるだけ早く次のステップに進みたいのが本音なのだが、やはりあの魔力を持ってしてもすぐできないらしい。


「そう、ですね。私、何としてでも帝国魔術師団に入団しますっ!」

「その意気です、お嬢さま!」


 お嬢さまのモチベーションが高まったところで、学校に到着した。学園長から入校許可はもらっているので何もやましいことはないのだが、こうも視線を集めると緊張する。

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