第5話 魔力暴走
「はいっ!」
すっかり自信がついたのだろうか。小鳥のような高い声で返事をすると、土人形が豆粒のように小さくなる。聴覚や視覚などを共有したりすることもできるので、技術は充分実戦でも使えるレベルかもしれない。
もっとも、初級魔法の土人形では強度が高くなく、非常にもろいので最低でも中級は必要なのだが。もっと激しいところに行くとなると上級は最低ラインとなるだろう。
「もっと、砂粒くらいにしたい……」
なお少しずつ縮み続ける土人形。俺のお嬢さまはどこまでやるつもりなのだろうか。
「もう大丈夫ですよ。この大きさでもかなり凄いのですから! さ、もうそろそろ魔術を解きましょう」
「そんなに凄いのですか? とりあえず解きますね」
少女は首を傾げ、土人形を跡形もなく消滅させた。それを見て、結界を解こうとしたら。
「せ、先生! 避けてくださいっ!!」
「え?」
甲高い叫び声が聞こえたと同時に、光の閃光が飛んでくる。
まっすぐに飛んできたそれは、避けることこそ簡単だったのだが当たったらかなり痛そうだった。長めの針といえば正しいだろうか。
これは……魔力暴走か?
幸い避けた先で閃光は小さい爆発とともに消えたので、この結界でも対応可能なものだったらしいが。だが普通は爆発など起こさないので、ギリギリだったのだろう。念のため張っておいてよかった。
「あれは、魔力暴走ですか?」
小鹿のように震えているフィアメッタが俺に問いかける。
魔術を専門にやっている学校ではないが、魔術師団団員を輩出している学校だ。魔力暴走くらいは知っているだろう。何なら最初に習っていてもおかしくはない。
「ええ。幸い小さめのもので済んでいますが。これ以上は危険なので、今日のところは魔術展開はやめておきましょう」
こうなることは想定できたはずなのに、土人形の調整までやらせてしまったのを反省する。
魔力暴走は通常小さいものが数発続き、そのあとに爆発のようなものが発現するのだが、もちろん例外はある。万が一魔力暴走で爆発を起こしてしまったら謝罪では済まないのだ。小さいものだったらいいというわけでもないけれど。それも家庭教師の仕事であるというのに、不甲斐ない。
これからは一層気をつけていかねば。
「そんな悲しそうな顔をしないでください、先生」
後悔していると、穏やかな顔をした教え子が羽毛のような言葉を掛けてくれた。こんな優しい子に気遣わせてしまったことに、一層情けなくなる。
「もしも魔力暴走でお嬢さまの身に何かあったらと思うと……。申し訳ございません、お嬢さま」
せめて頭を下げなければと思い、できるだけ深く腰を折る。これだけで許してほしいとは思っていないが、落とし前はつけるべきだろう。
しかし聖女はどこまでも優しかった。
「いえ、もう過ぎたことですから。そんなことより先生、もっと魔術について色々教えてください!」
慈愛を込めた声を出した直後に、明るい声色で教えを乞うフィアメッタ。教え子がこの子でよかった、と思いながら俺はフィアメッタを机へ誘導する。だからといって優しさに甘えるつもりも毛頭ないが。
「先ほどは本当に申し訳ございませんでした。ちなみに、魔術について知りたいとのことですが、何か聞きたいことなどはありますか?」
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