第12話 義妹の友達とデートした。
――時刻12時10分。
時計台を見ても、スマホで確認しても寸分の狂いなく現時刻を表していた。
『じゃあ明日の12時ぴったりに○○駅しゅーごーねっ!』
ろくに単語が使えていない云々はさておき、本人が時間指定をしておいて平然と遅刻してくるのはいかがなものか。
いや、普段のお礼をしたいからと内密に話を持ちかけたのは僕の方なのだが、それにしたってあんまりだ。
スマホのメッセージと時計台の長針を交互に見やるが、ため息しか出てこなかった。
それから5分ほど経過したところで、ぴょんぴょんと跳ねるような歩幅で近寄ってくる人物が一人。
「……ようやくお出ましか」
たゆんたゆんと爆胸を揺らしながら、にぱぁと満開の笑顔で間宮さんは現れた。
「やっほー! いやぁ、ごめんごめん電車乗り遅れちゃってさっ! もう一本後のになっちゃった!」
「………………」
それならラインで連絡してくれればいいだろ。チキって『もう着く?』とか『どうしたの?』とか聞けなかった僕も悪いんだけどさ。
「お、怒ってるっ? お詫びにおっぱい揉ませてあげようか……?」
「いらないからね!?」
「あっは、ジョーダンジョーダン! 叶人くんってやっぱり面白いねっ。ほらー、行こう行こうっ!」
間宮さんのテンションに侵蝕された僕は無言で頷いた。
これが陽キャか……陽キャやばいキャッキャしてるよ……。
陽キャぶってる陰キャこと夢花とは段違いだなんて思いながら、間宮さんの隣で歩を進めていくと大型のショッピングモールに着いた。
「中学の時ぶりかなぁ、ここに来たの」
自動ドアの入口を潜り、館内に入る。
全三階で、広大な面積を誇るここは県内でもかなり有名だ。
「僕もだよ、それでどこの店回るの?」
「全部だよっ! と言いたいところだけど、ひとまず服屋さん巡りかな〜!」
「そっか、そろそろ夏服が店頭に並び始める頃だもんね」
「そーそー……オッパイオオキクナリスギテサイズが……」
「なんでカタコトなのかはともかく、悩みは察したよ……」
胸の成長速度というのは、ある一定期間で急激に膨らむのを僕は知っている。クラスメイトの胸を毎日観察したりとか、そんな人の道から外れるような行為はしていないとだけ断言しておこう。小説のネタで調べただけです。
「そういえば、叶人くんって小説書いてるんだってね!」
「……な、なんで知ってるんだ?」
「ゴキブリが言いふらしてたっ!」
「アイツ……」
「学校中で噂になってるよっ!」
「……アイツ!」
憎悪に駆られながらエスカレーターで二階に上がり、レディース服のコーナーに足を運ぶ。何店舗かは僕も詳しいブランド店が並び、この日は来客の多数がカップルであった。
「…………デートみたいだねっ」
おい、僕も感じていたけどそれは心にしまっとけよ!?
「そ、そうだね……」
謎の背徳感と羞恥に見舞われながら、間宮さんが『アプレシュール』というブランドの店に進んでいった。
アパレル系にはある程度強いので、このお店の特徴もしっかり頭に入っている。
比較的リーズナブルな価格で、今のトレンド――最先端の流行りを追うカジュアルブランド。そんな商品を仕入れているのがここの店だ。
「うんうん、やっぱり夏服並んでるねっ!」
「流石、レディースブランドの第一線で活躍するだけのことあるな」
素直に尊敬に値する。僕もその意気を見習わなければ。
「入念に欲しい物は調べておいたから安心して! わたし、ショッピングには時間をかけないタイプだからさっ」
「別にゆっくり見てていいよ。僕も服には結構興味あるし」
ちなみに僕のコーディネートは白シャツの上にニットベストを着用し、ボトムスは黒のスキニーパンツ。五月の上旬に差し掛かってきたが、まだ寒いのでベージュカラーのトレンチコートを羽織っている。
せっかく同学年の女の子と二人きりで出かけるというので、柄にもなく綺麗めで合わせて張り切ってしまった。
「うん〜、ありがとっ。叶人くんってもっと人と関わるようになればすっごくモテそうなのにね」
「それは褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだ……」
あはは〜、とどうでもよさそうに笑いながら服を漁りだす間宮さん。
そんな彼女は白のトップスをワンウォッシュのストレートジーンズにインして、カーキ色のマウンテンパーカーを羽織っている。下手をすれば夢花なんかよりもよっぽどオシャレだ。
強いて言えばファッションセンスとは関係ないのだが、インしているせいで余計胸元が強調されていて目に毒だということくらい。無意識のうちに、どうしてもそっちに視線が向いてしまう。じ〜。
「――これなんかどうかなっ?」
間宮さんがボトムスを手にして振り返ってきて、慌てて目を逸らすが時遅し。
口元を歪ませて、目元を細めて彼女はニンマリとした。
「やっぱり興味あるんだぁ、叶人くんも男子だなぁ。さっきいらないとか拒否せず素直に揉みたいです、って言えばよかったのに。そしたら触らせてあげてたかもしれないのになぁ?」
「ぐっ……反駁しようもないけど、正気か……? 学校での態度を見るに、男性嫌いが激しいタイプだと予想してたんだけど……」
初対面からやけに優雅に突っかかっていたしな。
男性嫌いだという僕の仮説は恐らく正しい。今日の誘いだって伸るか反るかで頼んだのだ。結果、こうしてデート間際まで突入してしまったわけだが。
「叶人くんからはおっぱいへの視線は感じるけど、いやらしさは感じないんだよね」
それは同じじゃないのか、なんて思ったが彼女曰く全くの別物らしい。
「だからいいかな〜って。ゆーちゃんのお兄ちゃんだしねっ! ついでに割とカッコいいし!」
「ついでと割とは余計だな……」
「これでもわたし、人様を褒めることってなかなかないからねっ?」
「はいはい、ありがたき幸せに存じます」
「てっきとうだな〜! ま、いいけどさっ。とりあえずこれは試着予定、っと」
間宮さんがボトムスをカゴに放り込み、案の定僕がそれを持たされることになる。
店内をしばらくうろつくと、「なにかお探しですか?」と営業スマイル満載な高い声の女の店員さんが現れた。
「流行りの夏物を探しに来たんですけどっ、なんかいいのありますか〜?」
対して間宮さんも声音が少し高くなり、ぶりっ子モードに確変した。女って怖ぇ。
この店員の人もさっきから刺々しい視線でこちらを観察していたからな……仕事を全うしているだけなんだろうが。
「ふむふむ、ペアルックとかですか? 青春ですね〜」
店員さんの口元がニヤリと歪み、あははーと間宮さんは笑い飛ばす。
「まだ、ペアルックは早いかなぁ……」
――チラッ。
間宮さんが僕を見やる。
おい、なんだその視線は。僕は君とペアルックなんて絶対にしないぞ。
「なるほど……今後の展開に期待! ってやつですね」
「まぁーそんな感じですっ!」
そんな感じでもこんな感じでもないぞ!?
下手に突っ込むと、それはそれで店員さんにからかわれそうなのでやめておいた。
「それじゃあ彼女さんの見繕いお手伝いします!」
「だから彼女じゃないッ!!」
「またまたご冗談を〜」
必死の抵抗も空振りで幕を閉じたのだった。
二方からからかわれの対象となった僕は、どうにでもなれと気勢を失った。
それから何個かオススメのトップスを紹介してもらい、間宮さんが「ちょっと考えてみます〜」と言い店員さんの付き添いは終了した。
「ぐぬぬぅ……こっちも可愛いしあっちも可愛いし、どっちにしようかな悩む……」
「両方持ってって試着してみればいいじゃないか」
「ショッピングに時間はかけたくないの〜っ!」
……いやいや、その悩む時間が無駄だよね?
謎の意地を張り出したが、彼女の買い物なので彼女の好きにさせよう。
顎に手を添えて、深く悩んでいると「こっちにする!」と決断したようだ。
そのままフィッテングルームに進み、店員さんがシャッとカーテンが閉ざす。あ、もちろん僕は外で待ちぼうけでね。
「彼女さん、可愛いですね〜」
店員さんはよほど暇なのか、雑談をしかけてきた。てか、彼女じゃないって何度言えばわかるんだコノヤロウ。
「うーん……まぁ、可愛いとは思いますよ」
直球に可愛いなんて口説き落としているようなので、煮えたぎらない回答をする。
カラーンとハンガーが落ちる音がした。店員さんが試着室を一瞬見やり、再び会話を続けてくる。
「いやあ、青春ですね〜」
それ二回目だよ、聞き飽きたよ。
「彼女、学校でもムードメーカー的な立ち位置なので。惹かれる要素はいっぱいありますよ」
「つまり人気者を略奪しちゃったわけですね? お兄さん、大人しそうな顔してやりますね〜」
ストンと衣服が落ちる音がした。
「略奪してないですけど……まぁ、出来たら嬉しいかもですね」
まぁとか、かもとかとにかく不確定要素を注ぎ込んだ。変に勘違いされても困るし。
「なにより――」
「叶人くんのばかぁっ!!」
途端、カーテンが開き怒号が響き渡る。
――オッパイデカイシ。その一言は心に置いておくことにした。
間宮さんは顔だけ覗かせてから、カーテンをバシッと開き姿を披露する。
「「…………えっっっっっっっっっろ」」
店員さんと言葉が被った。
ハイダメージのワイドデニムパンツに、インしたレディーフォトプリントのビッグTシャツ。夏服で生地が薄いからか、インナーのタンクトップとブラジャーが透けて垣間見てしまった。
なにより、ボトムスの穴という穴から健康的な肉感溢れる白い肌がエロすぎる。てか上の方のダメージからパンツ見えそう。
じっくりとおっぱいと太ももを交互に眺めると、彼女はカーテンの布を身体に巻きつけた。
「心情がダダ漏れなんだけどっ!? 視線がえっちなんだけどっ!?」
「視線がエロいんじゃなくて間宮さんがエロいんだよ。僕はエロくない」
「急に正論突っ込まないで!?」
「……私、負けた…………」
「なんの勝負!?」
そりゃあ胸の大きさに決まっているだろう。
夢花じゃあ比肩するまでもないが、この店員さんも胸はそれなりにありそうな感じはする。だからといって、間宮さんとの優劣は脱がなくてもハッキリとしているが。
店員さんは「後はごゆっくり……」と去ってしまった。
「わ、わたしなにかしたかなぁ……」
「大丈夫だよ。間宮さんは悪くない、悪いのはそのおっぱいだ」
「それ結局はわたしのせいじゃないのっ!? てか叶人くんってドが付くほどの変態だよね!? セクハラで裁判沙汰にしたら勝っちゃうよ!?」
「あ、あくまで小説の参考に観察してるだけだから……」
「そうやって言い訳しなーい!」
もうっ、と再びカーテンを閉める間宮さん。
布の擦れる音が耳に入るたび、妙にむず痒くなった。この中で間宮さんが裸になっているのが想像に容易く、まるで透視しているようだ。
「…………(ダメだな)」
ブンブンと頭を振り、不純な気持ちを振り払う。
少し頬を赤らめて出てきた間宮さん。いたく気に入ったのか僕がエロいと心情を吐露したものだけ持ち、速攻で会計に向かったのだった――。
***
館内の服屋を一通り物色し終わり、ついでに僕も夏服を購入してしまったりもしたがそれなりに楽しめた。
特別彼女と仲がいいわけではないが、間宮さんが振ってくる話題が尽きず沈黙の二文字が訪れることもなく――
「叶人くん、ハート作って!!」
「こ、こうか……?」
――だからこうして彼女とプリクラを撮っているのも、なんなら不思議ではない、と思う。
不器用ながら、間宮さんの片手に自分の片手を合わせてハートの形を作る。少し歪だが、撮影画面には二人で一つのハートが映っていた。
パシャリ。眩しい光とともに写真が撮られる。
「次はキス合わせでっ!」
「えっ、なんで僕が間宮さんにチューしなきゃいけないの……?」
「実際にしないから! てか地味に嫌そうにしないでよ!?」
前後の空間を使って、キスしているように見せる撮り方らしい。
プリクラ初挑戦の僕に求める難度高すぎない?
すべからく僕が間宮さんに対抗する手段はないし、別段容喙すべき理由も見当たらないため、なるようになれと身を任せたが。
なんとか五枚まで撮影が無事(精神的には参っている)に終わり、別部屋での編集は全て間宮さんに投げ出して僕は小説の構成を考え耽けていた。
間宮さんに時々、横腹を小突かれたが仕方ない。そろそろWeb小説投稿サイトにも載せようとしているから、なるべく予定を繰り上げなければならないのだ。
暇な時間を有意義な時間に変換するのも、書き手の役目である。
「ぐぬぬ……覚えとけよぉ…………」
歯をギリギリと擦る音が聞こえたが、気にしないったら気にしない。
編集という名の加工も終了したらしく、縮小された写真が排出された。ひとまず二等分に分けるために、備え付けのハサミで切ろうとすると……。
「……おい。吹き出し作って『まやちゃん大好き』って書いてあるのはなんだ?」
僕の口元から伸びるシャボン玉のような吹き出し。僕が手伝わなかった代償か、悪意に溢れた内容を書き込まれていた。
「え〜、なんのこと〜? 叶人くんが自分でやったんじゃないの〜?」
「アホか、僕はペンにだって一切触れてないぞ!」
「そこっ、自慢げに断言しないのっ!!」
河豚のように膨れる間宮さん。
半分にした片方を彼女に差し出すと、悪魔的な笑みを浮かべ始めた。
「ふっふっふ、これをゆーちゃんに見せびらかしたらどうなるかなぁ?」
「セクハラ容疑で訴えられます」
「え、そうなの? じゃ、じゃなくて、もっと慌てたり焦ったりとかあるでしょ! なんでそんなお気楽に答えるのっ!!」
「だってアイツと裁判沙汰になっても、利口な僕が負けるはずがないだろう?」
「そういう回答を求めてるんじゃないけどっ!?」
……どういう回答をすれば花丸満点を貰えるんだよ。
それぞれの財布に写真を片付けて、僕たちはゲームセンター内を徘徊した。
「ったくもう……叶人くんが女の子にこれっぽっちも興味ないことが判明しただけでも収穫かぁ……」
「可愛ければ可愛いと思うし、そんなことないけどね」
「ちなみにわたしは……?」
間宮さんが肩をツンツンと指先で突き、尋ねてくる。
「あ〜、まぁ可愛いんじゃないか……? 多分……?」
「なんで疑問形だしっ……」
恥ずかしいからに決まっているだろ。
平然を装っていたが、先ほどのプリクラだって距離が近すぎてドギマギしていたのだ。おっぱいが大きくてこんなに可愛い女の子が側にいたら、いくら僕でも緊張する。
プリクラ機から離れてUFOキャッチャーの景品を見渡していると、自然とそれに目にとまった。
「あ、これ……最近アニメ化したやつのキャラクターだ」
鬼を滅ぼすための刃を握る主人公らが魅力的で、最近ブームな人気作だ。コミックが原作なので有名になるまでは無知だったけど……相当面白いんだよね。
キャラクターがとても生き生きとしている作品で、これのノベル版が出版されればまず売れるだろう。
なんて考察を伸ばしながら竹を咥えているヒロインのぬいぐるみをじっと見つめると、間宮さんも「あっ」と声をあげた。
「わたしもこれのアニメ見てるよっ! ヒノ○ミ神楽出るところ、すっごく鳥肌立ったよね〜」
「間宮さんもアニメ見るんだ。関心なさそうなのに意外だね」
「ん〜、結構話題になったのくらいだけどね。アニメ見てるのがキモいとか、そういう偏見はないかな?」
「そっか、それなら夢花とも話題が合いそうだな。あのクソッタレ義妹もこのキャラのイラスト描いてたりしてたし」
――ピクリ、間宮さんのこめかみが震えた。
快活な瞳の色が、一瞬だけ無に還った気がする。
「…………ゆーちゃんって、絵描きなの?」
……しまった。アイツがイラスト描いてるのは秘密にしておく約束したのに、暴露してしまった。
夢花とダントツで仲良しの間宮さんなら大丈夫だとは思うが、一応曖昧にしておくか。
「ああ、まぁレベル低いけどね。とてもプロ目指してるとは信じられないよ」
「…………プロ目指してるの?」
……しまった。僕としたことが隠そうとして、余計に墓穴を掘ってしまった。
真実に嘘を混ぜると効果的なんて迷信だ。墓穴掘っただけじゃあないか、昔の人!
「……そう言ってた気もする」
仕方あるまい……ここは秘技、話を逸らすを使用するしかない。
財布から100円玉を五枚取り出し、筐体に投入する。するとプレイ回数がおまけで6回になり、制限時間が表示された。
「気もするってなんだし……っ」
「あんまり覚えてないんだよ。僕、夢花のことなんてどうでもいいし」
「どうでもいい相手ほどよく覚えてたりするもんだよ〜」
「あんなやつよりも、今はこのぬいぐるみの方が大事さ」
「それゆーちゃんが耳にしたら、叶人くんきっと蹴り入れられるよ?」
「ああ、それは僕も同意見だ」
クスリと笑い、僕はレバーを操作した。
三角の爪ですくい上げて、運が良ければ排出口で落ちる確立機。どこのアミューズメントにもあるぼったくりファイターだが……ぬいぐるみ系は手順さえミスらなければ案外実力でなんとかなるものだ。
一回目はできる限り左に寄せ、排出口付近まで転がすようにぬいぐるみを動かす。ここで完全に上まで持ち上げないようにするのがコツだ。
二回目で重心が重い部分を狙って持ち上げ、排出口のフェンスに乗せる。ここは運要素も絡んでくるが……よし、なんとか成功した。
三回目にフェンスに乗っていない方をすくい上げて――コロン。そのまま持ち上がると同時に滑るように落下していった。
「え……本当に取っちゃったよ……叶人くんってゲーム上手なの?」
「うーん、なんとなくこうやったら取れそうだなってのは一目でわかったから。それを試したら上手くいっただけかな。ほら、あげるよ」
排出口から取り出したぬいぐるみをそのまま間宮さんに差し出すと、なぜか僕と人形を交互に二度見していた。
間宮さんはいやいやと手を振り狼狽する。
「いや、いいよ。残りのクレッジトでもう一個取るし」
――元より、そのつもりで500円入れたわけだし。
「むぅ……それで取れなかったらこれ返すからねっ!」
「安心してよ、絶対に取れるから――」
店員さんに補充してもらい、僕は全○中の呼吸を使った。なんちゃって。
冗談はさておき、三回どころか二回で獲得してしまったら間宮さんが自分の目を疑うように驚いていたのはまた別の話だ。
***
「叶人くん、今日はありがとうね〜っ!」
あれから映画に付き合わされて、その流れで夜ご飯を一緒に食べて、紆余曲折もあったがなんだかんだで彼女の最寄り駅まで付き添った。
「楽しかったよっ! このお揃いのぬいぐるみ、叶人くんだと思って今日から抱いて寝るねっ!」
「はは、そりゃあどうも」
にたぁと可愛らしく笑う間宮さんに、僕も悪い気にはなれなかった。
「帰り道、気をつけてね」
「うんっ! 叶人くんもね〜!」
彼女と別れたあと、間宮さんとは反対方向に歩を進めた。なんせ彼女の自宅は学校を挟んでの向かい側にあるらしい。可能であれば付近まで送りたかったが、僕の体力は限界を迎えていた。
タクシーを呼ぼうともしたが、もちろん速攻で拒否られた。悲しいかな。
結果として心配は杞憂だったのだが、僕は自分自身を心配するべきだったとのちに後悔した――
「こっんのド変態があぁぁぁぁぁっっっ!! 死ねぇっ!!」
プリクラの一件が義理の妹に伝わっていたらしく、帰宅早々にスーパージャンピング飛び膝蹴りを炸裂させられたのも、また別お話だ。
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