第24話 雨がやむまえに

 やまない雨はないというけれど

 もしも自分が

 もしも大切な誰かが

 力つきたあとにキレイな虹がかかったなら

 その景色にきみはなにを思うのだろう


 やまない雨はないのだろうけれど

 強い雨に打たれて

 つめたい雨に体温を奪われて

 雨がやむまえに力つきた無数のいのちがあること

 その現実もきみの想像にはないのだろう


 いつか雨はやむのかもしれないけれど

 今にも力つきそうな相手に

 その励ましはあまりにも残酷だ


 ぼくは時々きみの善意が恐ろしくなる

 それはとても純粋でまっすぐで一面的で

 薬と毒が表裏一体だとも知らずに飲ませようとする

 そんな悪意のないきみの善意をつきつけられるたび

 きみも長く激しい雨に打たれてみたらいいのにと

 仄暗く願う自分がいる


 だから、そろそろぼくは去ろうと思う

 おあつらえ向きに雨が降ってきた


 この雨がやむまえに

 ぼくの力がつきるまえに

 きみと殺しあうまえに

 別れを告げよう


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ひとくち語り 野森ちえこ @nono_chie

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