第7話 あめ玉

 口ぜんぶをつかって、左から右にゴロリと移動させる。


 甘い。

 おおきい。

 口がつりそう。


 すこし休憩して、今度は右から左に、ゴロリ。

 表面にまぶされているざらめが微妙に痛い。


 ゴツゴツ。

 ざらざら。


 どうしてこんな、なめにくいあめ玉を買ってしまったんだろう。


 甘くしたかったのかな。

 口のなかを。

 目一杯。


 これって失恋なのかな。

 ちょっといいなとは思っていたけど。

 あんまりピンとこない。


 ただデート中らしきあの人を偶然みかけて、あんな顔で笑うんだーとか、会社とはぜんぜん雰囲気ちがうなーとか、そりゃあそうかーとか、ぼんやり思っただけだ。


 そうして、帰りによったスーパーで、たまたま目にはいったのが、袋入りのあめ玉だった。色とりどりの、とってもおおきなあめ玉は、一個で口中甘くなりそうだなと、やっぱりぼんやり思ったのだ。


 ザラザラがとけて。

 ちいさくなって。

 右に左に、コロコロころころ。

 転がすのが楽になってくる。


 すこしさみしい。

 すこし残念。


 失うほどの想いはなかった。

 胸をつつくちいさな寂寥感。


 それはあめ玉でなぐさめられるくらいの、ちいさな喪失感。



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