第11話 励まさない

 元気だせよ!


 そう励まされたあなたは、顔をわずかにこわばらせた。


 あたしにもおぼえがある。

 善意の言葉が、呪いの言葉に聞こえてしまうこと。


 元気をだして。

 元気をだせよ。


 その励ましがスイッチになる。

 元気をなくしたきっかけ、脳が勝手に再生する。

 ほんのすこし、たまりはじめていた気力もどこかに消える。


 だからあたしは、あなたを励まさない。

 それどころか、いつもよりわがままになる。


 まわりの人間には、ひどいとか思いやりがないとかいわれるけど。いいの、知ってる。あたしはやさしくない。


 買いものにつきあわせて、勉強を教えてもらって、毎日あっちにこっちに振りまわす。


 いつか、あなたがそうしてくれたみたいに。


 いっぱいの今で、きのうを押し流す。

 あなたの心に、だせる元気がたまるまで。



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