霊草

『イグトータスの霊草を手に入れました』

『精霊の苗木を手に入れました』

『豊穣の土を手に入れました』

『霊木の枝を手に入れました』


『イグトータスの霊草』


イグトータスの背中に生えた霊草。

あらゆる病を治すとされている。


使用することはできないイベント限定のアイテムをしてしまわれているイグトータスの霊草。

これがイベント用のアイテムで間違いないだろう。


残りの土や木は、生産アイテムみたいだ。


『霊木の枝』

イグトータスに生えた霊木の枝。

『豊穣の土』

イグトータスの甲羅を構成する土。

ありとあらゆる草木が育つ。

『精霊の苗木』

精霊が好む苗木。

豊穣の土以外では成長しない。


これはニャルさんに売れば結構なお金になるかもしれない。


「目的のモノは採れたか?」

「はい。ボスドロップだったみたいです」

「なら良かった!私もなかなか面白いものが手に入ったがドロップは同じだろうか?」

「確認してみましょう」


和泉さんとドロップアイテムの確認をする。

どうやら霊草は和泉さんは手に入れておらず、代わりに霊木の樹皮が入っていたらしい。

なら、クエストクリア報酬に違いが出る可能性があるし、和泉さんにとってはそれは損になる。


「すみません」

「クエストを一緒に受ければまたドロップが変わっていた可能性があるが、無理を言って一緒に同行させてもらったのは私の方だからな。気に病むことはない。それにこの霊木の樹皮とやらは剣の柄を作るのに使えそうだ」


和泉さんがにこにこと笑う。


和泉さんは良い人だ。

私がもともと感情が表に出ないタイプだからか、和泉さんみたいに表情がころころと変わる人は見ていて羨ましい。


「これからリンクス殿はどうするのだ?」


「……どうしましょうか。和泉さんはこの洞窟の攻略にきたんですよね?」


一応、洞窟の攻略を目的にパーティーを組んだ身からすると自分の用事にだけ突き合わせて解散というのはやりづらい。


「まあ、そのつもりではあったがボスモンスターも倒したしなぁ。ドロップしたアイテムもなかなかに良いしレベルも上がった。今日は切り上げるつもりだ」


和泉さんは少し考えた後、そう言った。


正直、ありがたい。


「わかりました。私はこの薬を届けてきますね」


「ああ。そうだ。フレンド登録をしよう」


「喜んで」


和泉さんとフレンド登録をする。

これでフレンドは二人目だ。


フレンドを交換すると、和泉さんは少し真面目な顔で私を見る。


「よかったら、これからもパーティーを組まないか?ちょうどパーティーに入ってくれる魔法メインの後衛職を探していたんだ。私が一緒に組んでいるフレンドは少々難儀なやつで、癖は強いが実力は確かなタンクだ。どうだ?」


和泉さんの言葉に、少し考える。

パーティーを組むのは別にいい。

VRMMOというジャンルのゲームでソロでやり続けるのは限界があるのも確かだ。


「ずっとは無理ですけど、誘っていただいたらいきます」


これが限界だ。

ずっとパーティーを組むなんて今の私には到底無理で、エスケの時でさえ、基本1人で行動していた。


私の返答に和泉さんは「そうか」と呟いて、納得するように一つ頷く。


「分かった。本来ならもっと粘るべきなんだろうが、意志は固そうだ。ただ手伝ってほしい時があれば遠慮なく頼らせてもらうぞ」


「予定がなければご一緒させていただきますね」


私の言葉に、和泉さんは「うむ」と満面の笑みを浮かべた。


◆◆◆


街で和泉さんと別れた私は、落ち着いて現在のステータスのチェックに入る。

狂乱のローブは洞窟を出た時点で真っ先に外した。

和泉さんは予定ができたらしく足早に走っていったが、パーティーはまだ組んでいる。

というのもクエストが終わる前に抜けてしまえば報酬がもらえない可能性があるからだ。

可能性というだけで、AIがそこら辺を監視していて貰えなかったら報告すれば大丈夫なはずだが、その手間はないほうがいい。


リンクス Lv15


HP 270

MP 260


STR:5 

VIT:50(15)

AGI:90(30)

DEX:75(15)

INT:95(15)


()内は装備効果により上昇した分だ。

ニャルさんから買った装備は本当に優秀で助かる。

狂乱のローブを着てなくても十分なステータスだが、着てしまえばMPは2倍。

STRは0、VITも20まで下がる。

普段はこっちの装備で十分だ。


次に魔法とスキル。


火魔法。

フレア。ファイアートラップ。フレアボム。


闇魔法。

エナジードレイン。シャドウステップ。


スキル『打撃』『飛翔』『罠師』『鑑定』『狂乱』


固有能力:擬態。スタック数0


まあ、最初よりは見られるステータスにはなった。

たぶん、多種族と比べてしまうとパっとしないんだろうけど。


とりあえずこの後はエトルタに戻り、薬を届けて、ギルドだ。

本来の目的であるスキルの取得にやっと入ることができる。


急ぎ足で、少年の家へ向かう。

中に入ると、椅子に座って待っている少年とその母親。

少女はまだ苦しそうで、ベッドで荒い息を立てている。


「もってきてくれたのか!?」


「うん。もってきたよ」


『イグトータスの霊草を渡しますか?』

システムの問いかけに『yes』を押して霊草を渡す。

少年の母親は直ぐにその草をすり鉢ですりつぶして水を混ぜ合わせると、少女に飲ませた。


少女の体が優しい光に包まれて、やがてその呼吸も落ち着き、すぅすぅと寝息を立てだす少女。

やがて「んん」と小さく身じろいで、少女は目を覚ました。


「リル!大丈夫か!?」


「あれ?お兄ちゃんもお母さんもどうしたの?」


「体は大丈夫?」


「あれ、本当だ。どこも痛くない……!」


母親が泣きながら少女を抱きしめ、少年がこちらへ向かってくる。


「ありがとう!冒険者の姉ちゃん!」


『イベントクエスト:少年の願いをクリアしました』


システムメッセージが流れ、私の口元も緩む。


「もうスリなんかしちゃダメだよ」

少年の頭を撫でる。


「うん!お礼になるかわからないけど姉ちゃんに良いこと教えてやる!」


少年が背伸びをして私の耳に口を近づけてくる。

私が耳を傾けるとシステムメッセージが鳴った。


『スキル:スリ』を手に入れました。

『経験値100』を手に入れました。


……え?


「コツがあるんだ。俺はもうしないけど、姉ちゃん上手そうだしするなら使ってくれ」


クソ失礼なことを言い残して、少年は母親と妹のもとへ行く。


宇宙ドッペルゲンガーの顔で、家族3人に感謝されながら家を後にすると、新しく手に入れたスキルを確認した。


スリ。

プレイヤー、NPC、モンスターからランダムでアイテムを奪う。

奪う対象のレベルが自分より低いほど成功率が上昇する。


非戦闘エリアやNPCへのスリは衛兵によって要注意人物として指名手配される。


まあ、基本モンスター用のスキルか。

もしDEX参照で成功率が変わるなら完全に壊れスキルだったけど、レベルを参照するらしい。


でも、人助けもしてスキルも手に入れたんだからプラスだろう。

使ってみないとまだどれだけ有用なスキルかはわからないけど。


じゃあギルドに向かおうと、ミニマップを見ながら歩きだすとウィスパーチャットがとんでくる。

それは和泉さんからで経験値が入ったぞ!というものだ。


『良かったです。パーティーを解散しますね』

『ああ、また連絡する!』


パーティーを解散すると、今度こそギルドへ向かった。

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