決闘
エスケの時は、ギルド対抗戦というものがあった。
10人の代表を選出して、ギルド同士で戦うといったものだ。
そんなギルド対抗戦で私たちのギルド『未知の駅』は無類の強さを誇っていた。
ガジルやクレアちゃんが対人戦が得意なのもあった。
だがもっともスコアを叩きだしていたのは、ハウンドというプレイヤー。
そう、私だ。
「お弁当販売してまーす!」
商売根性というべきだろうか?
野次馬たちに弁当を売っているニャルさんに肩を落とす。
ニャルさんは私が元ハウンドだから大丈夫とでも思っているのかもしれないが、ハウンドなら兎も角、今はリンクスだ。
負けるつもりはないけど簡単に勝てるとは思っていない。
「決闘ルールは1on3。レベルは10固定でスキル、魔法の使用制限なし。アイテムの使用禁止とかでいい?」
「いいのかよ?1対1じゃなくて?」
「あー、じゃあそうする?どっちでもいいよ。私は」
「ふん、このままでいかせてもらう。負けたって文句言うなよ?」
文句を言うのはニャルさんだろう。
負けたときは私は逃げさせてもら。
決闘申請を送る。
男がそれを承認すると、決闘用のフィールドが展開された。
こういうところはエスケの流用みたいだ。
決闘用フィールドは指定しなければその場に展開される。
街道のど真ん中に展開された決闘用フィールドは邪魔に感じるが、フィールドは別時空にあるという設定になっており、見えるが触れることはできない。
立体映像のようなもので、普通に通り抜けることができるようになっている。
それと同時に名前も頭の上に表示された。
中心人物の男が『カルマ』隣の男たちはそれぞれ『ハンニバル』と『ラクト』。
まだ初心者らしく、戦闘の陣形なども決まってはいない感じだ。
武器的に長剣を持つカルマと両手にナイフを持つハンニバルが前衛、杖を持つラクトが後衛だ。
ラクトが人間、カルマとハンニバルは獣人族であり、獣人族の前衛二人は魔法ダメージがよく通りそうで良かった。
「リンクスちゃんがんばれー!」
応援してくれるニャルさんに手を振って、杖を構える。
狂乱のローブは……着た方が安牌か。
狂乱のローブを着込むと、前の男たちは尻込みしたように後ずさる。
傷つくからやめてほしい。いや、このローブのせいなんだけど。
「かっけぇ……」
カルマがそう呟く。
いや、かっこよくはないだろ……
そういうお年頃なのかもしれないが。
『決闘を開始します。両者準備を完了させてください』
人とそっくりなAIの声に、私は魔法を使う準備をする。
男たちも私を見据えて武器を構えた。
3 2 1
開始を知らせる音が鳴り、私はさっそく行動をする。
対人戦での鉄則だ。
邪魔な後衛はさっさと殺せ。
『フレア』
スキル『火魔術師』によって威力の上昇した火魔術を後衛のラクトに撃ち込む。
初っ端の攻撃を直に食らったラクトを見て、直ぐに私に向かってくる二人。
そんな二人と私の間に『フレアボム』を置いておく。
触れるか時間経過で爆発する焼夷弾は敵にとって脅威になる。
フレアボムという魔法のことをよく知らなくても、ふわふわと浮いているフレアボムに対してどう対処するか迷っているようだ。
今のうちだ。
『ファイアートラップ』を設置する。
回復薬がないから魔力は温存するために、とりあえずラクトの直ぐそばに一つ設置する。
『フレア』のリキャストが終わり、魔法を撃とうとするラクトへ撃ち込む。
「ウィンドカッター!」
代わりにとんできた風の魔法を、半身で躱し、『シャドウステップ』でラクトの後ろにテレポート。
汎用性の高い魔法の数々に感謝しながらも、私の位置を見失ったラクトがきょろきょろとしている。
「ばかっ!後ろだ!」
振り向くがもう遅い。
『エナジードレイン』
闇の初期魔法で、威力は控えめだ。
だがフレア二回と合わせて、ほとんどのHPをラクトは失った。
「ラクト!『刺突』」
カルマがつっこんでくる。
スキルだろうか、目で追うのが精いっぱいな速度だけどそんなものは関係ない。
『ファイアートラップ』発動。
離脱用に置いておいた魔法が役に立った。
爆風と共にラクトのHPを削りきり、そのまま、バックステップでその場を離脱する。
カルマは私がいた辺りで止まる。
おそらく目標の場所に突っ込んでいくスキルなんだろう。
だがこれで2対1だ。
こちらを睨んでいるカルマ。
そしてもう一人は……見当たらない。
どこに行った……?
前、左右にはいない。
気配もない。おそらくスキル。
ならどこに。
カルマを見る。
こういう時に確認するのは、仲間の視線だ。
その視線は仲間の位置を雄弁に語っている。
後ろを振り返り、身を屈める。
その瞬間に、私の首があった辺りにクロスされた短剣が通り抜けた。
「いいスキル持ってるね」
「っ!なんで避けれんだよ!」
追撃に入るハンニバル、魔法を撃つ時間はない。
なら杖を使う。
振り下ろされる短剣に、防御するように杖をそわせる。
『パリィ』
パリィ成功の青白いエフェクトが飛び散り、ハンニバルがノックバックする。
後ろに弾かれたように硬直するハンニバルに対してダメージの与えられない蹴りを入れて、献身的にこちらへ剣を向けて突撃してくるカルマに杖を向けた。
『フレアボム』
刺突スキルとやらは止められないのか、フレアボムにぶつかり、HPを大幅に削るカルマ。
あっちから先に削りたいけど、さっきのスキルが面倒だ。
ファイアートラップをいくつか設置し、ハンニバルにフレアを撃ちこむ。
身軽なのかローリングしながら躱すハンニバル。
だが左右には既にファイアートラップを設置している。
獣人族なのと罠師で威力が上がっていることもあって、ファイアートラップだけでもなかなかなダメージが入る。
起き上がったハンニバルの接近し、目を見張る彼に杖をぶつける。
ダメージは固定のしょぼいものだが、何度も頭にぶつければスタンの確率も上がる。
それにさっきの隠れるスキルを使わせたくない。
こっちの紙耐久を舐めないでほしい。わんちゃん、一撃で死ぬ。
反撃してくるハンニバルの攻撃をパリィし、フレアボムをぶつけてさくっとHPを削りきり、援護にきたカルマをファイアートラップでその場から引くことで距離を空ける。
あとはカルマだけだ。
「お前っ!なんなんだよ!トッププレイヤーだろ!ずるいぞ!」
「違うけど……」
「トッププレイヤーじゃなけりゃ、そんなにパリィなんて出来るはずがねぇ!」
「これは一般論だから気を悪くしないでほしいんだけど、上位層はもっとスキルや攻撃を組み合わせて戦ったり、相手に読まれないような立ち回りをしたり、パリィを頭の片隅に入れて戦うことが多い。さっきの子は避けられた後、焦っての大振りの攻撃だったからパリィはしやすかったし、もう一回も焦って反撃が雑だった」
話しながらリキャストが終わるたびに、カルマの足下近くに『ファイアートラップ』を設置する。
「クソが!」
カルマが剣を構える。
私は杖を向けてフレアを撃つ。
どちらに避けようが終わりだ。
炎の球を、右に避けたカルマは敷き詰められたファイアートラップの連鎖的な発動によってそのHPを全損した。
なんとか勝てたようだ。
やや危なかったが、てかあの透明になるスキル欲しいな。
取得方法、教えてくれないかな。
決闘が終わると、周囲の歓声が辺りに響く。
「うおー!リンクスちゃんかっこよすぎや~!」
抱き着いてくるニャルさんを受け止め、尻餅をつきながら私は安心してほっと息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます