侍さんとボス戦

まずは情報が知りたい。


「攻撃しつつ、様子を窺いましょう!」

「ああ!」


「和泉流 居合 『一ノ太刀』」


和泉さんがカメを一閃する。

その一撃はカメのHPを少し削る。


「『フレア』」

和泉さんの攻撃に合わせて撃ったフレアもカメに当たるが、私の攻撃はほとんどHPを削らなかった。


魔法耐性があるのか、単純に威力の差があるのか。


どちらにしろ、火力のある和泉さんをメイン火力にして、私はタンク役として動いたほうがいいだろう。


「私がヘイトを引き受けます!和泉さんは攻撃に集中してください」

「了解した!」


後衛魔法職にヘイトを稼げるスキルはない。

だけど、このゲームのヘイトシステムがエスケと変わっていないのならヘイトは稼げるはずだ。

エスケはエネミーとの距離とダメージと手数によって向くヘイトが変わっていた。


なら、だ。


『エナジードレイン』

『フレア』


距離を詰め、魔法を連続して撃つ。

ダメージはしょっぱいが、ヘイトは私に向いた。


カメが前足を上げ、足を振り下ろしてくる。

だがカメだけあってノロイ。

それを悠々と避け、また魔法を撃ち込もうとするとカメの背中がきらり、と輝いた。


「くるぞ!リンクス!」


カメの背中に生えた無数の木々、その葉っぱが刃のように降り注ぐ。


私の周り、半径1メートルほどにマーカーがしかれ、落ちてくる場所はわかる。

ならあとは避けるだけだ。


『シャドウステップ』

一定範囲内であれば指定した場所にテレポートする魔法。


魔法を発動させ、姿を掻き消した私はカメの目の前に転移した。


「『フレアボム』『ファイアートラップ』」


炎の球体をカメの前に生み出し、ファイアートラップを少し前の足元に敷く。

ファイアートラップを先に起動させて、爆風でバックステップしながら後ろに跳び、フレアボムが直ぐ前にいたカメに当たり爆発した。


「和泉さん!」

「ああ、わかっている!」


「『三ノ太刀』!」


和泉さんの抜き放たれた刀が青白く輝き、真っすぐにカメの頭へ叩きつけられる。


その攻撃だけで、カメのHPが1割強も削られた。

和泉さんへ向く、ヘイトを抑えるために今度はファイアートラップを後ろに設置し、起爆と同時に前へ跳んだ。


『飛翔』スキルのおかげで飛距離がある。

そのままカメの体に乗っかった私は、その場でMP回復薬を使用した。


削ったMPが戻ってきて、直ぐに攻撃に移る。


一番威力の高いフレアボムを設置し、爆発する前にファイアートラップを使用し、離脱する。

起爆して傷痍ダメージが入っている中で、和泉さんも攻撃をしてくれる。


即席だけどなかなかに良い連携だ。


「リンクス殿は面白い戦い方をするな!」

「こうでもしないと勝てないんですよ」


そうして攻撃を続け、やっとカメの体力が3割を切る。


それと同時に、カメが唸り声を上げ始めた。


「第二形態がくるぞ!」


カメの頭が甲羅に引っ込み、甲羅にヒビが入っていく。

眩い光が辺りを包み、思わず目を閉じてしまう。


やがて光が収まり、目を開いた先にいたのは、甲羅の上の木や草がいっそう生い茂っただけのカメだった。


いや、こう……第二形態としてはやや地味なカメと目が合う。


瞬間、赤いマーカーが足元に敷かれ、慌ててその場を飛びのいた。


鞭のようにしなった木が先ほどまでいた場所に叩きつけられ、冷や汗が垂れる。


カメは先ほどと違い、まったく動く様子はなく、ただその代わり、背中の植物がイキイキと動いている。

第二形態はカメというより背中の植物の攻撃がメインらしい。


木が伸びて地面を拭うように、横に薙いでくる。

ファイアートラップで真上にジャンプし、そんな木の攻撃を避ける。

和泉さんもどうにか回避したらしい。


だが攻撃は止まらない。

今度は木の葉っぱが舞い、こちらに襲い掛かってくる。


___これじゃ、MPを回復する時間もとれない。


だけど、この攻撃は私の単狙いだ。


その間に、和泉さんは攻撃モーションへうつっていた。


「『二ノ太刀』」


高速の突きがカメの顔にヒットする。


よし、HPは削れている。

これならなんとかなる。


「すいません。MP回復薬飲むので少し時間稼いでもらっても大丈夫ですか?」

「まかせろ!」


和泉さんには少しヘイトを貰ってもらう。

和泉さんも上手いプレイヤーだ。なんらかのスキルだろうか、刀で攻撃を逸らしながら距離を詰めてヘイトをかってくれる。


MP回復薬もあんまりないけど惜しみはなしだ。

現実なら腹がちゃぷちゃぷになるぐらいまで詰め込んで、回復させると、ファイアートラップを亀の背中へ設置した。


シャドウステップを駆使してカメの背中へ転移すると、すぐに近くの草が襲いかかってくる。


それをファイアートラップを起動させて空へ逃げつつ、フレアボムで攻撃した後に再度足下にファイアートラップを設置。


着地地点を調整し、やや後ろ目に降りて、起動して脱出。


我ながら自分が後衛向きとは思えない戦い方だ。

だがこの場ではしっかりとささっている。


ファイアートラップとフレアボムのダメージを食らっているカメがヘイトをこちらに向け、再度避けるゲームが始まったところで和泉さんが前に出る。


その立ち振る舞いは謎のオーラが出ているみたいに、青白く光っている。


というより出ているな……


「一体に対して一から三の技を全て繰り出した場合にのみ、発動できる大技を見せてやろう」


和泉さんが柄に手をやり、カメを見据える。


「この一刀に沈め。『四ノ太刀』」


青白く光る閃光のように放たれた刃が、カメを撫で斬る。

一瞬でカメの後ろまで移動した和泉さんはゆっくりと、刀を鞘にしまった。


――ただカメのHPはまだギリギリ残っている。


「だから倒せてないじゃないですか!『フレア』!」


文句と共に放った最後の一撃は、無事カメのHPを全て削り切った。

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