魔法と魔物と不遇種族!?
街の外へ繋がる門を通り抜けて、辺りを見回す。
街の外は草木が一面に生えている美しい草原になっていて、ちらちらと魔物の姿が見える。
第二陣で混雑しているわけでもなく、街の外へ出た人々は何個かのグループに分けられるらしい。それぞれのグループに上限が決まっていて、人でごった返すことのないようになっている。
あれがホーンラビットかな?
草原の上をぴょこぴょこと可愛らしい動きで移動するのは、頭の中心から大きな角の生えたウサギ。名前通りの容姿だ。
跳ね回るウサギを眺めているだけで結構なセラピー効果があるなあ。
少しだけ近づいてみるも、ウサギはこっちを見るだけで攻撃してこない。
頭上にHPと名前が表示されているウサギだが、アイコンが敵対を示す赤ではないから、ノンアクティブモンスターらしい。
つまるところ攻撃しなければ攻撃してこないってことだ。
じゃあ撫でても大丈夫かな?
ウサギのすぐ隣まで近づいて、手を伸ばしてみる。
「キュッ?」
鳴き声まで可愛いウサギの肌に手が触れた瞬間、ウサギが素早く方向を変えて、私に頭の角を向ける。
名前の隣のアイコンは真っ赤に染まっていた。
「今の攻撃判定になるの!?」
今にも飛び掛からんとするウサギの攻撃から逃れるように、右に飛ぶ。
ウサギは角を突き刺すようにして跳ね、私の頬をかすめる。
HPは1/10のほどしか減っていないものの、若干の痛みはある。
ウサギは直ぐには攻撃してこないらしく、その間に杖をしっかりとウサギに向けた。
かわいいけど、向かってくるなら容赦はしない。
「フレア」
覚えたてほやほやの魔法を発動させる。
杖の先からこぶし大の火球が現れると目にもとまらぬ速度で発射される。
火球は真っすぐにウサギへ向かっていき、小さな爆発を起こした。
土煙の中からチラチラと空に舞い上がるポリゴンが見える。
やがてキュゥン、と可愛らしい鳴き声をあげてウサギは空中に消えていった。
初期敵らしく、そんなに耐久力はないみたいだ。
それにしても『フレア』速かったな……
速度だとだいたい140㎞ぐらいだろうか?少なくとも、VRのバッティングゲームで見る140kmと同じぐらいの速度は出ていた、と思う。
『レベルアップしました 1→2』
レベルアップ通知に、ステータスを開く。
上がってるな……VITとSTR以外……
これ物理攻撃への耐性つけないとのちのちしんどそうだな。
パーティープレイは……、申し訳ないが今の私には難しそうだ。
過去のトラウマもあるが、単純に人間関係が苦手な社会不適合者だからゲームを楽しむために余計なストレスを溜めたくない。
どうしてもパーティーを組まなければならない場合は、募集してその場限りの簡易パーティーを組めば後腐れもないしいいだろう。
依頼はあと四匹か。
レベル上げと金策もしないと、あと街を探検するのもいいし……あ~、やることがたくさんだ!楽しい!
することが多い中で何を選択するのかも、ゲームの楽しさだと思う。
だけどまずは依頼のクリアだ。
フレアのMP消費は、一発10。
現在のMPが115だから、あと10回はウサギを倒せる計算になるけど強いモンスターのためにMPは残しておきたい。
だから。
しっかりと杖を握りしめる。
打撃武器に分類される杖は、頭を狙えば威力が多少高くなりノックバックが一定確率で起こる。
どんなに貧弱でも、推奨レベル1のウサギを倒すぐらいはできるはずだ。
アニメの見よう見まねで両手でしっかりと杖を構える。狙うのは、呑気に草を貪っているウサギ。
ノンアクティブモンスターであるホーンラビットなら初撃は絶対当たるはず!
ジリジリと近寄っていき、大きく杖を振りかぶった。
「チェスト!」
想像するのは筋骨隆々の鎧武者の姿。
STR5の攻撃を喰らえ!
叩きつけた渾身の一撃は、ウサギのHPを削った。
___2割だけ。
「ん?」
急所への打撃攻撃で、二割?
飛びかかってくるウサギを避けて、茫然自失のまま、再度叩きつける。
狙いが外れて、今度は胴体に当たった。
ウサギのHPが一割削れた。
避ける。叩きつける。避ける。叩きつける。そんなことを何回か繰り返してポリゴンになったウサギを見届ける。
ッスー……レベル1のモンスター相手でこれか。
あれ、もしかして魔法職って不遇なのか?それともドッペルゲンガーがやばいだけ?
こんな時の教えて掲示板だ。
種族板に行って、ドッペルゲンガーと検索する。
いくつかのスレが見つかった。
『不遇種族について語るスレ』
『ドッペルゲンガーが何をした!ドッペルゲンガー板』
『使用率最下位のドッペルゲンガーさん……第二陣の使用率1%を切ってしまう』
……うん。
とりあえずドッペルゲンガー板を開いてみる。
『ドッペルゲンガー』
他人の顔を真似られるというメリットに見合わないデメリットがある種族。
メリット。
固有能力として変身能力がある。
NPCの一部ミッションなどで有効な場合もあるが基本的に必要ない。
闇魔法が全て覚えられる(らしい)
闇魔法や光魔法の一部には種族によっては覚えられないものがある。ドッペルゲンガーは闇魔法の全てを習得可能(らしい)運営の発言なので信じられるはず……多分、きっと、メイビー。
デメリット。
初期STRが5であり、上がり幅もほぼないため、STRが必要な武器や防具を装備できない。
妖精族の完全劣化。
ドッペルゲンガーはMPやINTなどのステータスは高いが、妖精族はもっと高く、STRも上がるため、ドッペルゲンガーの完全上位互換となっている。
誰もお前を愛さない。
「何のために生まれて」
無意識で歌を口ずさんでいた。
えっ、メリットに対してデメリットが大きすぎやしない?
NPCの顔を真似るのは、場合によっては使い道があるけどニッチがすぎる。
私は人の顔を真似て、対人戦で有利に戦えるんじゃないかと悪役さながらなことを考えていたけどこれは。
……でもキャラクターを作り直すのは嫌だ。
久々のゲーム、種族説明だけを見て気に入ったドッペルゲンガーに私はもう『リンクス』という名をつけてしまった。
ならもう最後まで頑張るしかないだろう。
「フレア」
草を食べているウサギに魔法を撃ち込む。ポリゴンになるのを見届けて、軽く頬を叩いた。
「強くなろうね リンクス」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます