スキル、そしてボス戦
「フレア」
空中にいる鳥にフレアが命中して、鳥のHPが全損する。
さっきから敵を倒して街に戻り、教会で回復しての繰り返しだ。
稼いだお金は微々たるものだがそれで闇の魔術書とMPポーションを買い込んだ。
『レベルアップしました 9→10』
『スキルシステムが解放されました』
レベルアップだ。
しかも10になったからさらにスキルも解放されたみたいだ。
ステータスを確認してみる。
_____________________
リンクス。
HP 200
MP 200
STR:5 VIT:15 AGI:40 DEX:45 INT:60
火魔法Lv2(フレア ファイアートラップ)
闇魔法Lv1(エナジードレイン)
スキル
___________________
成長値はMPとINTに重点的に振ったおかげで、MPは最初の倍増えた。
魔力が生命線だからこれは少し安心感がある。
そして待ちに待ったスキルシステム。
これはプレイヤーの行動によって、スキルが手に入るものだ。
例えば剣で魔物を倒したら剣士のスキルが手に入り、剣での攻撃力が上昇したりする。
中にはユニークと呼ばれる唯一無二の特殊なスキルも存在したりするとか。
エスケから引き継がれている私の大好きなシステムである。
えっとエスケと同じなら、多分。
近くにいたウサギを杖で攻撃する。避けて当ててを10回ほど繰り返すと、ウサギは倒れた。
『打撃スキルを獲得しました』
『打撃』
打撃によるダメージとノックバック率が上昇する。
取得条件 打撃武器による魔物の討伐。
よしっ!
ダメージの増加だからドッペルゲンガーの攻撃力の低さには引っかからないだろうしノックバック率上昇は素直に助かる。
レベルアップと共に強く楽になっていくそんなゲームでの当たり前がすっごく楽しい。
レベルも10になったしそろそろかな。
ウサギの討伐、さらにウィンドイーグルと呼ばれる風の魔法を使ってくる鳥を倒した今、私のランクは銅1級になっていた。
最後のミッションは『草原を統べるもの』の討伐。
ボス戦である。
草原でのレベリングで、おそらくボスがいそうな場所も既に確認済みだ。
草原の丘になっている場所に、一本だけ生えた大木がある。
そのエリアだけ空間が歪んでいるように見える。おそらくあそこがボスがいる場所なのだろう。
情報を調べて挑んでもいいけど、こういうのは試行錯誤を繰り返してやっと勝てたときの達成感が癖になるんだ。
杖を片手でくるくると回しつつ、意を決して木へ向かう。
近づくにつれ、大木の存在感が増していく。
見たこともないほど太い幹の真ん中には大きな穴が開いていて、木の中に何かが住んでいるように見える。
一歩、また一歩と近づいていくとメッセージが前に現れた。
『草原を統べるものを起こしますか?』
選択はもちろん『yes』だ。
______音が止んだ。
GRAAAAAAAAAAA!!!!!!!!
そして襲ってくるのは衝撃波のような爆裂音。
穴の奥で黄色い目が光る。
ドスンドスン、と地面を震わせ、その巨大な体を木々に軽く打ちつけながら、やがてそれは光の下に現れた。
月のような、白く美しい毛並みを持った巨大な狼。
『草原を統べるもの』は私を見て、再度地面を震わせる咆哮をあげた。
オオカミ……素早かったりするのだろう。この見た目で愚鈍な魔物ってわけでもないはずだ。それにこれだけの大きさだ、体力もパワーもあるだろう。
「フレア!」
杖の先から火球を出現させて、先制攻撃を行う。
レベルが上がり、威力の高くなったフレアは真っすぐと飛んでいき、巨大な顔に命中した。
よしっ。
喜ぶのもつかの間、ぞっとするような感覚と共に背後に跳ぶ。
叩きつけられる巨大な前足、砂煙の舞う中、HPの一割も削れていないオオカミが小さく笑ったように見えた。
「っち!」
絶えず飛んでくるオオカミの攻撃、それをなんとか避けながら『ファイアートラップ』を発動させる。
火の魔導書のレベルアップによって覚えたこの魔法は、私から一定の距離であればどこでも踏めば爆発する炎の罠を仕掛けられることができる。
仕掛けられる数は最大五個。消費MPが多いため、連続での使用は出来るだけ避けていきたい。
絶えず繰り出される攻撃をなんとか避け、ファイアートラップを使ってダメージを稼いでいく。
だが罠だけあって、威力は控えめに設定されているためダメージは全然稼げてはいない。
このままじゃジリ貧だ。
「GRAAAAAAAAA!!!!」
再度、咆哮がとんでくる。
「ぐっ」
『状態異常 恐怖』
一定時間、行動を阻害する状態異常『恐怖』つきの咆哮が四肢の自由を奪う。
そこから前足での攻撃がとんでくるのだから、避けようがない。
「クソがっ!」
悪態を吐き、視界がまわる。
前足によって、跳ね飛ばされたことを理解する間もなく、オオカミは追撃に移るのが見えた。
必死で立ち上がり、転がりながら避ける。
HP残量は残り四割。
さっきの一撃で六割も持っていかれた……!
最初のボスだからといって、甘く見ていた。
MMOのボスの推奨レベルはパーティで組んだ前提だと誰かが言っていたのを思い出した。
だから……
「……だからなんだ」
負けて当然、そんな思考に陥るのを必死で止める。
ゲームは気持ちだ。これは精神論ではない。勝負で、不利な状況で、気持ちでも負けてしまえば決して勝てはしない。
私はそれを知っている。身をもって体験してきた。
杖を両手でしっかりと握りこむ。
死んでも諦めたりはしない。
過去の経験と矜持、そして今の
「フレア!」
もう慣れたのだろう、分かっている。
このゲームのAIは行動にパターンはあれど、ちゃんと魔物も考えて動いている。
ウサギでさえも直ぐに攻撃してくるもの、いったん様子を見るもの個体差があった。
ならボスであっても行動は必ず変わる。
フレアを撃ったタイミングで、突進してくるオオカミ。
攻撃がそんなに痛くないことを知っている動きだ。これまで何度か攻撃を食らってちゃんと学習している。
「知っているか。対人戦は相手が上手いほうが読みやすいんだ」
ファイアートラップ発動。
私の足元で発動した爆風が、上へ押し上げてくれる。
宙を舞い、先ほど私がいた場所で呑気に上を見上げるオオカミの頭へ杖を振りかぶる。
「チェストォォォォ!」
渾身の一撃は、オオカミのHPバーを減らさなかった。
だが、それでいい。
「グゥゥゥゥ」
オオカミのHPバーの隣にスタン状態を表す複数の星が集まったマークが現れる。
それを見下ろし、下でスタンしているオオカミの顔めがけて杖を向ける。
「フレア」
GAAAAAAAAA!!!!!!
地震のような絶叫が世界を揺らす。その間にバッグからMPポーションを取り出して、一気に飲み干す。これで半分まで減っていたMPが全回復した。
スタン状態が回復して、背中に乗っている私を落とそうと暴れるオオカミの首に必死にしがみつく。
だがもう私はここから降りる気はない。
「エナジードレイン」
闇魔法の初期魔法。相手のHPを吸い取り、自らのHPに換算する魔法。
吸い取れるHPはそんなに多くはないが、それでも着実にオオカミのHPを吸い取っていく。
「フレア」「ファイアートラップ」「エナジードレイン」
リキャストが終わると直ぐに魔法をひたすら撃ち込んでいく。
やがて、オオカミのHPは減っていき、残り二割を切ったところでオオカミが静止した。
____っ体毛が黒く……!
HPポーションを使って、オオカミにしがみつく。
おそらくこの状態は……!
GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!
今までよりも一際大きな咆哮。
衝撃に耐え、体を起こすと目が合った。
背中にしがみつく私を真っ赤な目をして睨みつけるオオカミ。
ぞっとした恐怖に肌が粟立ち、背筋に冷たいものが流れる。
『森を統べるもの 狂乱状態』
ボスには、HPが一定値まで減ることで特殊な行動を起こす個体がいる。
それは今までやってきたどのMMORPGでも少なかれ存在していた。
おそらくこれがこのオオカミの特殊行動。
『狂乱状態』というものらしい。
体毛の変化に目も赤くなっている。
でも、やることは変わらない。
一刻も早くHPを削りきるだけだ。
「フレア」
魔法を撃ったと同時に、オオカミは走り出した。
あまりの速さに体勢を崩し、なんとか顔だけをあげて進行方向を見る。
オオカミは先ほど自らが眠っていた幹に向けて、真っすぐ向かっていた。
まさか……
体を少し傾けて、そのまま木の幹にぶつかろうとする。
その行動に、慌ててオオカミの背から飛び降りた。
オオカミが衝突する。地響きは鳴り、やっと背中についていた私を排除できたオオカミはゆっくりとこちらへ向き直った。
オオカミの目が訴えている気がする。ここからが本当の始まりだと。
牙をむき出しにして、笑みにも見えるその顔に私もまた立ち上がり、背筋をピンと伸ばした。
敵の未知なる状態、さらには有利ポジから引きずり落とされた、そんな圧倒的に不利な状況で、虚勢ではなく、本心から笑ってみせる。
「負けるもんか」
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