侍さんと洞窟探検
「私は
「……それで私に声をかけたと?」
「ああ!」
ぺかーっと笑みを浮かべる和泉さん。
どこの誰かもわからない人と一緒に攻略しようと言えるそのコミュ力が怖い……だけど、悪い人ではないように見える。
だって、考えていることが顔に出過ぎている。
今だって少し黙った私に、オロオロと不安そうな表情を向けている。
これで演技だったら大したものだ。
パーティなんてまだまだ先だと思っていたけど、これから攻略していくうえで早めに慣れておきたいのはある。
「いいですよ。私も用があったので」
「うむ!じゃあ申請を送るぞ!」
『和泉守からパーティ申請が送られました』
『進行中のイベントクエストが、パーティメンバーに引き継がれますがよろしいですか?』
ああ、そっか。
私が受けていたクエストだけど、パーティを組んだらメンバーにも引き継がれるのか。
「今、クエスト受けているんですけど大丈夫ですか?」
「ああ!別に構わないぞ!というより其方こそ大丈夫なのか?報酬が減ることもあるだろう?」
「まあ大丈夫でしょう」
だってそもそもこのクエスト、報酬が設定されていない。
届ければ何かしら貰えるのかもしれないが金銭はあまり期待できないし、経験値は個人個人でもらえるはずだ。
「そうか!なら良かった!」
「あっ、私の名前はリンクスって言います。呼び捨てで構いません」
「うむ!リンクス!良い名だ!みたところ後衛だと思うがよろしいか?」
「はい。魔法攻撃がメインで戦っています」
「そうかそうか。なら後衛は任せたぞ!」
「なら前衛はお願いします」
「任された!」
洞窟へ入る。
道……道と呼んでいいのかわからない大きい石を飛び移りながら前に進んでいく。
「して、リンクス。其方が受けたイベントクエストとは一体どんなものなのだ?」
「危篤の妹がいるようで、その子のために洞窟の中に生えている草を採ってくればいいそうです。おそらく詳細はパーティなのでクエスト欄から確認できるかと」
「ふむ。だが確認できる場所に草など生えておらぬな」
「たぶん、ある程度潜らないとないんでしょうね……っと来ましたよ」
和泉さんの歩いている場所のすぐ前の海水からモンスターが飛び出してくる。
『リトル・シー・サーペント Lv10』
飛び出してきたのは、紫っぽい体色をした巨大な蛇。
全長2m以上はありそうな巨大な蛇に驚いていると、和泉さんが刀の柄に手をかける。
「最初はお互いの力量を把握することも必要だろう。ここは任せてくれ」
_________和泉流 居合 『一ノ太刀』
瞬間、強風が吹く。
高速としか言いようのないスピードで抜き放たれた刃が、モンスターを一閃する。
そしてモンスターはゆっくりと、自身の背後で刀を納める和泉さんに向き直った。
「倒せてないじゃないですか!『フレア』」
和泉さんの攻撃で大半のHPを失っていた大蛇は私の魔法でトドメをさされ、綺麗なエフェクトと共に海へ消えていった。
「ははは!すまん!この技、一々隙が大きい故、誰かとPTを組まないと打っておれんのだ!」
ワハハと腰に手を当てて笑う和泉さん。
確かに一撃では倒せなかったが、その速度は驚異的なものだ。
「威力は高めで出が速いので確かに強い技ですけどやるときには言ってくださいね」
「うむ!言い忘れておったが刀は基本的に小回りの効くスキルは少ない故、注意してくれ!」
「明らかに遅い忠告ですね。……まあ大丈夫ですよ。なんとかしますので」
「心強いな!」
久々のPTプレイだ。上手く合わせられたらいいけど……
「和泉さんはいつもどんなプレイスタイルの方とPTを組んでるんですか?」
「ふむ、なんといえばいいんだろうな。タイプとしてはタンクだろうか?」
「いや、聞かれましても」
「うーむ。敵に突っ込み、バックラーでジャストパリィをして隙を作るプレイスタイルだな」
軽戦士的な感じだろうか?どちらにせよ、和泉さん自身にヘイトが向くのはあまり慣れてない感じだと思う。
「ありがとうございます。少し相談なんですが、戦闘時は私も前でヘイトを買うようにしたいんですがどうでしょう?」
「ふむ。リンクス殿はその方が上手くいくと思うのだな」
「はい」
「なら任せる!私は戦術面には疎いからな!もし上手くいかなかった時は何か言うかもしれないが」
「それで大丈夫です」
先程、刀に小回りの効くスキルが少ないと言っていた。威力は高いがスキルを使えばどうしても隙が出来てしまうと考えていいだろう。
魔法もリキャストタイムが存在する。使える魔法がそんなに多くもない私にとってこれも隙だ。
そんな後衛と前衛では確実に前衛の負担が大きくなる。
それなら私も前に立って、ヘイトを稼ぎつつ、和泉さんと戦った方がいいという結論だ。
________しゅるる
水の中からリトル・シー・サーペントが現れる。
今度は、私が最初に攻撃を与える。
「フレア!」
火球が顔に命中する。HPはそこまで減らなかったが、ヘイトは完全に私に向かった。
「和泉流剣術とくとみよ」
私に釘付けの蛇を和泉さんが一閃する。
刀で斬る通常攻撃もスキルのように洗練されている。素早い攻撃は蛇のHPを一気に刈り取った。
「先ほどから思ってましたが、和泉流というのは……」
「ああ!良くぞ聞いてくれた!」
ぺかーっと顔を輝かせる和泉さん。
あっ、これは踏まないでいい質問だったかもしれない。
「我が家は和泉流という居合を教える古くから続く道場でな、その歴史は古く、かの有名な室町時代の刀工『和泉守兼定』より刀を打ってもらった我が祖先が始めた剣術で」
「なるほど」
刀には詳しくないがその刀工の名前は聞いたことがある。確か刀にも同じ名前のものがあったはずだ。知り合いの推しだったのを覚えている。
和泉さんの言葉に耳を傾け、相槌を打ち、知らない知識を吸収していると、和泉さんの顔がどんどん笑顔になっていき、私は首を傾げた。
「リンクス殿は良い人だな!こういった話をすると皆興味なさそうにするのだが例え興味がなくても真剣に聞いてくれると嬉しいものだな!」
「あー、まあ趣味の合う合わないはありますしねぇ。あ、またきましたよ」
今度はスライムもような白い透明のジェル状の敵だ。
名前は『ジェルスライム』。そのままだ。
「なんか物理攻撃効かなさそうですね」
「だな!」
「フレア」
火球がスライムに当たり、HPバーが2割ほど削れる。なるほど、だいぶ強敵のようだ。
「和泉流居合 風切り」
和泉さんのスキルが発動し、風の刃がスライムに襲いかかるがダメージは同じく2割ほど。
「固定でしかダメージ入らない感じですかね。それか体力が少なくて防御力が高いか」
「倒したら経験値たくさん貰えたりしないだろうか!」
「あー、でも逃げる様子もないし期待できそうにないですね。エナジードレイン」
スライムのHPはまた2割しか削れない。
確定だろう。
結局、五発攻撃を当てて倒した私たちは、経験値もあまり貰えないことを確認して顎に手を当てた。
「これ通常湧きなら面倒ですね」
「そうだな。余程のことがない限りは無視が安定だろう」
「ですね。固定でダメージが出せる武器があればいいんですけど」
「今のところ、固定でダメージを出せる武器はドロップでは見つかっていないな。魔法ならもしかしたらあるかもしれないが」
「武器職人なら作れたりするんですか?」
「ああ、トップ層なら作れそうだと思う。確証はないけどな」
トップ層。第一陣か。
どこかで依頼できるんだろうか?今度、ニャルさんに聞いてみよう。
和泉さんと軽く雑談をしながらさらに奥に進む。
すると急に開けた場所に出て、差し込んだ太陽の光に照らされた草があるのが見えた。
「あれじゃないか?」
「おそらくあれですね。ですがこの状況は……」
「確実にボス戦だろうな」
妙に開けた場所、クエストアイテム、ここから導き出される答えは一つだ。
「アイテムの準備とかは?」
「うむ!ばっちりだぞ」
「了解です」
私たちは揃って一歩を踏み出す。
一歩、また一歩と踏み出して光に照らされる草に手を掛ける。
するとドドド、と大きな地鳴りが鳴り響く。
「……リンクス殿!下だ!来るぞ!」
「はい!」
草が生えている場所が盛り上がるようにして、現れたのは巨大な『カメ』だった。
『イグトータス Lv13』
甲羅に無数の苔と草が生えている巨大なカメ。名前をイグトータス。
レベルはそこまで高くはないし、やれないこともなさそうだ。
「ふむ。知らないボスモンスターだ。おそらくリンクス殿が受けた依頼によって初めて現れるモンスターなのだろう」
「なるほど。なら情報もないってことですか」
「必然的にそうなるな!」
ワハハと笑う和泉さんを横目にMPポーションを飲み、狂乱のローブに着替える。
「うおっ!急に妖怪じみた見た目になったな」
「これ、VIT下がっちゃうデメリットがあるんですけどメリットの方が大きいんで使います。死んだらすみません」
「了解!カバーは任せろ!」
2回目のボス戦が始まった。
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