港町 エトルタ
_________ここがエトルタ。
ボスを倒したことで、馬車が草原を抜けられるようになった、ということらしい。
見た感じは栄えている港町。
たくさんの船が遠目に見え、商人たちの活気もすごい。
掲示板をのぞいてみた感じ、第一陣もこの街に多く滞在しているらしい。
というのも生産をする人にとっては港町で様々な素材が集まるこの場所は拠点にしやすいのだとか。
因みに第一陣の攻略勢は現在、メインボスと呼ばれる進行上必ず倒さなければならないボスモンスターは4体まで倒すことができているらしい。
さて、まずはギルド……と言いたいところだけど集めた情報を少しだけ整理しておきたい。
ニャルさんと出会って、私に目標ができた。
ゲームを楽しむことは大前提として、彼らに追いつきたいから……
頑張らなくっちゃ。
まずは次のボスを攻略。
そのために集めたのは、スキルの情報。
私は一定の条件を満たさない限り、魔法という限りのあるもので戦うしかない。
だから少しでも魔法の威力を上げるために情報が公開されてるスキルを片っ端から取っていくつもりだ。
今、とりたいスキルは三つ。
一つは『火魔術師』
炎魔法での敵撃破数が100を超えるともらえるスキルで、炎魔法の威力をあげてくれるパッシブスキルだ。
二つ目は『パリィ』
武器や盾で、タイミングよく攻撃を防御すると手に入るスキルで、相手の攻撃を完全に無力化とノックバック。
装備が手に入ったといえ、防御の不安はまだ残るからこれも手に入れておきたい。
最後は『調合』
生産系スキルの一つで、様々な調合が可能になり、薬などを自作できる。
これは出費を抑えるためにもとっておきたい。
取得方法は調合セットを買って、何でもいいから混ぜて練ったら良いらしい。
因みに鑑定スキルは、一時間ぼーっとウサギを眺めて取得した。
タスクは一つずつ潰していかないと、まずはレベルを上げるついでに火魔術師とパリィのスキルを取ろう。
港町だし、やっぱり水系のモンスターが出たりするんだろうか?
なら火魔術は少し不利だし、少し戦ってみてしんどそうなら草原でレベルを上げるのもいいかも。
_________ドンッ
なにかが体に当たった。
当たったものを確かめようと、下を向くと少年が振り向きもせず、そのまま踵を返して走っていくのが見える。
なんだったんだ?
『5000Gが盗まれました』
『イベントクエスト スリの少年を追えが発生しました』
えっ!?
慌てて、所持金を見ると間違いなくほぼ全財産の5000Gがなくなっている。
ミニマップには、点が映っていてゆっくりと移動しているのが見える。
石畳の床を強く踏み込み、目標に向かって走り出す。
クエストだとかそういうことは今はどうでもいい。
一番重要なのは……
金返せええええ!!!
ミニマップを頼りに、そのまま一直線にスリのもとへ向かう。
大通りを抜け、路地裏に入るとすぐ近くに皮袋の中を覗く少年の姿があった。
「げっ」
私の姿に気づき、マズイという表情をするがもう遅い。
既に私の手は、スリの腕を掴んでいた。
「金返せ」
「なっ、姉ちゃん冒険者だろ!これぐらい直ぐに……」
杖先をスリに向ける。
残念ながら私は、例え少年だとしても容赦する気はない。
「ひっ……わかった!わかったよ!返すから」
『スリの少年を追えをクリアしました』
ちゃんと5000Gが戻っていることを確認して、小さく息を吐く。
「なんで、こんなことを」
貧困だったり理由はいくらでも考えられる。だが街の様子を見る限り、正攻法で働くことはいくらでもできそうであった。わざわざリスクを冒してスリをする理由がよくわからなかった。
今すぐにでも飢え死にそうならまだわかるがこの少年は見た限り元気そうである。
『イベントクエスト 少年の願いが発生しました』
やはりこの少年絡みで何かしらのクエストが存在しているようだ、
「姉ちゃんには関係ねえだろ!」
「ないけど、話を聞くことぐらいはできるよ。このまま兵士さんところに連れて行かれたくはないでしょ?」
連れていかれたくなかったら話してというお願いである。決して脅しではない。
「い、妹が病気なんだ……今朝、急に容態が悪化して医者は海岸を西にいったところの洞窟の中にだけ生える草が必要だっていうから……金で冒険者を雇おうって」
つまりその草を採ってくればいいわけだ。
海岸を西に行ったところの洞窟か。
「私が採ってきてあげようか?」
「いいのか!?」
「うん」
クエストをクリアする気ではあったが、こんな話を聞いた後じゃ断れない。
「ありがとう……!これ、うちまでの地図だ!採れたらここに来てくれ!」
地図を受け取ると、ミニマップに黄色い四角マークがつく。
採取したらここに行けばいいのか。
嬉しそうに、母さんに言ってくる!と走り去っていった少年に軽く手を振って、海岸へ向かった。
今や大半のゲームの住人であるNPCたちは、同じことを繰り返すだけではない。
AIが組み込まれているため、学習するしまた自分で考えて動くことができる。
例えば、街で魚を売っている彼。
彼は街の住人として与えられたいつもの行動である日課が存在する。
まさに魚を売る仕事やその前の仕入れの仕事、トイレも行くし食事もとる、もちろん就寝だってする。
だが彼も寝坊をするし休みたい日だってある。
ゲームの住人たちはこの世界でしっかり生きている。
だからこのクエストを放置していれば、きっと彼の妹は亡くなってしまう。
それは少しだけ、私がゲームを楽しむうえで嫌なことだった。
杖を軽く振りながら、海岸へ向かう。
気分はさながら、お姫様を助けに行く勇者様だ。
海岸に着くと、プレイヤーが何人かモンスターと戦っているのが見える。
アレは……カニ?
全長100cmほどある大きなカニをプレイヤーが剣で斬りつけているのが見える。
あんだけ大きかったら大味になりそうだな。
えっと、レベルは……8か。
海岸のカニのレベルは8。流石にいきなりボスと同じ10超えのモンスターはいないらしい。
確か西に行けばいいんだっけ。
海沿いに歩いていると、それっぽい場所が見えてきた。
海の水が流れ込んでいる洞窟は一部分だけゴツゴツとした岩が並んでおり、道と呼んでいいのかはわからないが、ちゃんと通れるようになっている。
そしてそんな洞窟の前には、難しい顔をした女性が腕を組みながら立っていた。
服装は和服で、腰には長い刀を下げている。
侍だ……そういう服もあるんだ。
なんとなく、ニャルさんが売ってそうだななんて思いながら、その隣をすり抜けていく。
ガシッ。
『認証されていないプレイヤー 和泉守から接触を受けました。ブロックしますか?』
「……なんですか?」
しっかりと私の肩を掴む美人さんは、小さく「すまない」とだけ呟いた。
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