Ⅱ ⑶ マカロン
1人で飛行機に13時間も乗ったのは初めて。
テヨンに会う為だったら些細な時間だったし
帰りは彼と一緒に帰れる予定。
あと4時間もしないで僕の誕生日。
誕生日、
知られてなかったら黙ってようかな…
後々絶対バレるから言った方がいいか…
どっちにしろテヨンは落ち込むかな。
僕の事となるとすぐ落ち込む。すぐ拗ねる。
なんとなくテヨンの対応法が分かって来た。
喜んでくれそうな言葉。
そして一緒にお祝いもしてもらえる…
『テヨンが僕のギフト』
照れ臭いけど、このセリフ。
4日ぶりに会えたら告げよう。
ゲートから出て、
空港まで来てくれると言っていたテヨンを
歩きながら探す。
見つからなければ電話して…なんて
どうにか早く会う為に行動をしようと…
いた。
テヨンと目が合って
お互い近づき…抱きつく。
何故か会えない数日が長く感じて
寂しかったんだ。ただ会いたくて。
今までの恋人に
2.3日、一週間、何週間も会わずにいても
こんな気持ちになった事はない。
もう僕の一部。テヨン。
「ほら、何処行きたい?」
フランスの空港 CDGからの移動手段は
テヨンの運転、助手席に僕、
流れる音楽はピアノの音がキレイなジャズ。
「えー夜だし…
何処かオススメある?
パリ初めてだし分からないよ。」
「じゃあ、少しドライブして…お腹空いてる?
フライトで空腹だったら後ろにパンあるよ。
俺がいつも買ってたパン屋さんー。
久しぶりに会ったおじさんが
サービスしてくれたんだー。」
そうだよな。
18歳くらいから6年も住んでたら
車も乗り回すし、馴染みのパン屋もあるか。
「大丈夫。テヨンは?お腹空いてる?
後ろから取ろうか?」
「俺も大丈夫ー。
そのおじさんがさ、
ボウズ、キム画伯の息子なのか!って。
両親の家の近くでよく行ってたのに今更。」
「キム画伯?
お父さん…韓国で聞いた事あるかも…
有名な方だよね。
………ごめん、僕知識無さ過ぎ。」
お父さんも画家。
聞いていたのに、関心が湧かず
調べる事もしなかった。
恋人の父親の事くらい
もっと知っとくべきだよな。
後悔…恥ずかしさと
テヨンに対する申し訳なさが湧く。
謝った僕に、すぐ右手を伸ばして
手を繋いでくるテヨン。
「いや?俺、公表してないし。
父さんも韓国に住んでなかったし。
別に知らなくても…
……俺の絵が売れるようになって…
もう父の名前出してもいいかなって思って
ソンギにそう話したら
取り巻きが俺の所に来て
俺の品定めが始まったんだよ。
…反吐が出たけど……」
運転中で進行方向の道路の先、
何かを睨む様に鋭い目になったと思ったら
一瞬で変わった。
こっちを見て 蕩けてるような笑顔。
「…ふっ…何?」
何故かつられて
笑ってしまう。
さっきも思った。
空港でのキスもそうだし、
サラッと運転する所も……ズルいよな。
変にドキドキしてしまう。
「…いや…
今はハミンが隣にいるな、と思って。」
言葉まで蕩けてる事言って…
「…うん。隣にいるよ。」
難しい特殊な仕事の人間関係は
よく分からないけど。
ソンギさんがいるから少し安心かも。
お母さんもか。
「…お母さん元気だった?」
「…強し。元気だった。
母さんの中では父さん生きてた。
生きてるって思い込むのも良い手段だね。
ただ……毎朝…描きかけの絵の前で
泣きながら現実に襲われてたけどね。」
「…毎朝…?…テヨンはそれを…」
「うん…隠れて見てた。」
…僕もテヨンに
何て声をかけていいか分からなくて…
繋いだ手を動かして感触を味わっていた。
テヨンはこんな状態、
僕と同じように声もかけれず
毎朝 見守ってたのかな。
車内は少し暗いけど、
時々反対車線からのライトに頼りながら
真っ直ぐ前を見る横顔を見つめる。
僕から右手を離して、前を向いたまま
自分の頬を伝ってるであろう涙を
サッと拭ったのがわかった。
「…テヨン、
早く…何処でもいいからクルマ停めれる?」
「なんで?」
「なんでも…すぐ。」
涙を堪えて運転して欲しくなかった。
危ないってのもあるし。
テヨンはテヨンで
お母さんの前で
気丈に振る舞ってたんだろうな。
通りにハザードランプを点けて停車。
………限界だったはず。
テヨンはハンドルに顔をふせた。
静かに。
「テヨン。こっち。」
少しこちらを向いてくれて、
やっぱり泣いている事が確認出来た。
僕がテヨンに覆いかぶさる。
僕が運転出来たら良かったけど…
泣いてるテヨンが隣にいたらそれはそれで
運転どころじゃないか。
「ずっとこうしてていいから。
…涙を堪えないで。
僕の前では思う存分泣いていいから。」
僕の中で静かに泣くテヨン。
そう言えばテヨンの涙を見たのは初めて。
こうして自然に、
自分の感情を吐き出すでも無く、
ただ…ただ溢れるものが流れる…
どうしたらいいか分からない感情なのかな。
色々我慢してる子供みたいだ。
愛しくて…
ずっとこうしてていいからなんて言って
僕がずっと抱きしめていたいだけ。
守りたくて…可愛くて…
ただ寄り添いたい。何も力になれなくても。
流れるジャズはそのまま。
もう大丈夫と言って僕の腕から離れて
はにかみながら笑った。
行き場を失った僕の両手をとり
キスしてmerciって。
…merciくらい僕でもわかる。
『ありがとう』
「…凱旋門が前に見えるよ。」
右手はずっと僕の左手に。
たまにハンドルへ行く時もあるから
固すぎず柔らかく繋ぐ。
そして離れてもすぐ戻ってくる右手。
そんな事を繰り返して
特に会話しないまま…
進む場所はテヨンに任せていた。
「ほんとだー
テレビで見るのとは違うね…
綺麗…うわ、下からだと
夜空と照らされてる門が…
立体感…カッコいいね…」
「フランスに来た!って感じでしょ?
…ハミンに来て貰っといて
よく考えたら明日も明後日も
ステージがあるから
リハーサルとかで時間もとられて
一緒にいれる時間限られてて…
ごめんね?ゆっくり観光とか出来なそう…」
「全く謝る事は無いよ。ほんとに。
こうしてる時間が、少しでもあったし…
…1人になる時間は僕のでしょ?
ここにいる間はテヨン、1人にはしないよ?」
もともとお母さんもいるから1人には
ならないだろう。
けど1人の時間は僕のもの。
冗談っぽく言うけど そうあって欲しい。
「もちろん。」
照れた様に笑って答えてくれた。
「…とりあえず明日の朝までは
僕の時間かな?」
「そうだね。」
凱旋門を背にして暫く進み、
クルマを停めて入った先は
大阪で泊まった時よりももっと高級な…
多分 星5つのホテルだった。
「ビュールームにして貰った。」
「ビュールーム?」
「そう、見えるの。」
部屋へと向かい歩いてる途中。
案内しくれるボーイさんは
にこやかにこちらを見たりしてるけど、
多分僕達の日本語は分からないはず。
手を引かれて…手を繋いでる。
男2人がこんなホテルに泊まる光景。
「…テヨン、手、恥ずかしい。」
空港ではキスされた後だったし
会えた喜びで少し浮かれて手を繋いでいた。
けど今回は…
ホテルからしたら誰が泊まってるとか
完全に把握してる。
秘密厳守は完璧なんだろうけど…
テヨンが手を離した。
少し作り笑いをしながら。
僕の手は行き場が無くていい。
…花束を両手で抱える。
テヨンの手は僕の肩に置かれ、
並んで歩いた。
さっきよりも自然かな。
これですれ違う他のお客さんにも
変に思われないはず。
テヨンの事を知ってる人が見ても。
部屋に入ると
テーブルにはシャンパンと…
紫と黄色のマカロンが置かれていて、
そこに持っていた花束を置いた。
ボーイさんにテヨンがチップを渡し、
お礼する。
ボーイさんは僕を見て…
「Joyeux anniversaire!…Quoi qu’il arrive, je serai toujours là pour toi. 」
「merci!」
何か言われてテヨンがお礼して…
僕に抱きつきボーイさんに手を振った。
…頬がぶつかる程の僕とテヨン。
もう…そういう目で見られてるだろうから
文句を言うのは諦めた。
「…何て?」
「…え、…教えない。今何時だ?」
結構長くて何を言ってるか分からなかった。
何故か教えてくれないし、
時間を気にして辺りを見渡すテヨン。
僕は時計してないけど
テヨンの腕を持ち上げ、腕時計を見た。
…もうすぐ0時を回り、
誕生日当日だ。
「23時50分」
答える僕から離れてテーブルへ歩き…
「お、マカロン美味しそうじゃん。
シャンパン冷えてる〜飲む?
俺弱いけどひと口は飲もうかな。」
「飲む。…僕もマカロン作って来たんだ…
被っちゃった。」
鞄からお菓子を取り出す。
2人で食べる用と
お母さんに渡せたらと思い、
プレゼント用を作って持って来た。
「あ、けど餅入りなんだ?
韓国はお菓子によくお餅を使ってね?
…お母さんにも食べて欲しくて…
焼き菓子だから賞味期限も大丈夫なはず…」
お菓子の箱を開けてテヨンに見せると
いきなり抱きしめられる。
「ハミンー。
なんでハミンはそんなに…」
「……そんなに?」
「…好き。」
「…何それ。そんなに好き?」
「…すんごい好き。
なんでこんなに好きしかないんだろう…
謎だね、謎、ハミンは。」
真顔で顔をまじまじと…
鼻先5cmって所で真剣に考え込まれる。
「…テヨンの魅力の方が謎だけどね。」
僕を好きだって言うテヨンも謎…
僕からキスをする。
顔が近すぎて我慢出来なかった。
「…ねぇ、もう10分たったかな…」
少し唇が離れた瞬間、囁かれる。
「まだ、だと思う…」
すぐまた深いキス。
繰り返し…熱量の変化に追いつかず
足や腰の力が抜けそうになる。
「…0時過ぎた。
おめでとうハミン。」
最後に大きなリップ音を立てて唇が離れた。
「…ありがとう。」
「ハミンの大切な日、
俺にとっても大切な日、俺と迎えてくれて…
ここまで会いに来てくれてありがとう。
…俺の全てをあげる。」
「……ありがとう。」
「本気だよ?全てだよ?
そして今日は俺、ハミンのギフトだから。
何でも言って?」
「…じゃあ早速、さっきのボーイさん…
なんて言ってたんだよ。教えてよ。」
「…誕生日おめでとうって。
俺より先に言われたら嫌だったから…。
…あと…どんな時でも僕は味方だよって。
俺達の関係を踏まえての言葉だよね?
いい人だね。」
「そっかー。それはそれは……
惚れるね。…カワイイ子。」
「あ?何その発言。
浮気的発言をするなら見せしめで
廊下でセックスでもしてしまおうか、
ガァォーー!」
酷い発言なのに
両手をネコ科動物の爪を立てるポーズ、
牙でもあるように歯を見せて
脅してくるから可愛さだけしかない。
「酷っ。え?ていうかテヨンが
カワイイ子だし。
先におめでとうって言われても順番関係ない
そんな事気にして…可愛い…
惚れるってのは…僕とテヨン2人の気持ち。
2人の味方が居てくれたら
テヨンも惚れちゃうでしょ?」
抱きしめられて少し潰れたマカロンの箱から
1つ取って口まで運ぶ。
「ん。おいひい。」
親指を立てて褒めてくれた。
「2人の味方だから惚れ…りゅね。
これから味方は増えると思うよ。
ゆっくり増やしていこうよ。」
少し口の中のマカロンで
話し難そうにしながら
シャンパンを慣れた手つきで開け、
流れるように2つのグラスに注ぐ。
「はい。誕生日おめでとう。」
あっという間に手渡されたグラスで乾杯。
「そうそう、ビュールーム!
ちょっと見てごらんよ。」
誘われてテヨンの後をついて
グラスを持ったまま
外を見る為に広いベランダへ出た。
夜の街並みの中、
近くに光る塔がある。
「ああ、エッフェル塔だ…
フランス来たーって感じ…」
「うん、今日と明日と明後日、
ここに2人で泊まって…
月曜に日本に帰ろ?」
「…半分払うから。絶対。後からでも。」
「Non.お断りします。」
…ホテルに足を入れた途端、
ロマンチックな雰囲気の建物とはかけ離れた
現実的な事…金銭的な事が頭を巡っていた。
甘く誕生日を祝って貰い、
片手にシャンパン
絶景のエッフェル塔を観ながらでも言う。
僕の意思。
ロマンチックな雰囲気に負けないように
思考を巡らせる。
テヨンにしたらここの宿泊費なんて
余裕なんだろうけど…僕は違う。
思いっきり庶民だし、
将来 自分の店を出したりする為に
お金を貯めたいと思ってる。
そのくせ
今まで彼女に奢るのが当然だった。
奢られたり、ましてや高額な宿泊費交通費、
テヨンに払って貰うのは…なんだろう。
プライドが許さない。
対等でいたい。
僕もNonだ。
「ノン。絶対後で払う。
なんなら僕が会計する。」
「…ハミン。誕生日なんだから。
これくらい出させて。」
「そうかもしれないけど、
実際誕生日じゃなくても
ココに予約してたんだろ?
言ってたでしょ、半分払うって。」
「…聞いてない。」
「言ったよ。
テヨンが全然耳に入れてなかったんだよ。」
「じゃあ!聞いてたとしても、
誕生日は後から知ったとしても、
ココは誕生日プレゼントに含まれます。
以上。
……ほら。」
重厚な石造りの柵に肘をつき、
僕を隣に招く。
現実的な話はキッチリ断られ、軽く流され、
甘く隣に呼ぶ。
そうして自然と
テヨンが纏う居心地の良い空気に包まれる。
ムードを作るのが上手なのか
テヨンの魅力で自然にムードが出るのか…
…こなしがスムーズな時は
慣れてるな…って腹が立つ事も多いけど
もしかしたら違うのかもしれない。
ただ、天性の行動なのかもしれない。
だんだんテヨンを信じれてる。
愛してる量が多くなる。
自分もだんだん愛せてくるから不思議。
僕の手からグラスを抜き
近くのテーブルに置く。
顎を少し持ち上げられ
首の後ろにも手を添えられ
固められた角度。
テヨンが伏し目でキスを落としてきたら
もう止まらない。
僕も唇と舌でテヨンのキスを受け入れる。
少しシャンパンと僕が作ってきたマカロンの
風味が頭の中を通り過ぎる。
テヨンがいろんな角度でキスしてくるから
口は顎までもう蕩けてる。
テヨンは僕のズボンに手をかけて来て…
さすがにここでする勇気は無い。
「…ダメ。
ベッドに…シャワーも浴びたい…」
キスの合間にテヨンの手を抑え
お願いするけど…
「ベッドまで辿り着けるかなー
…シャワーまでは…無理かなー」
低い声で歌うように囁かれると、
止まらないキスと同時に
身体中を弄る手が競争してるのかって程
お互い激しくなった。
もっと、もっと。
テヨンをもっと欲しい。
どうにか僕は逃げるように
テヨンは獲物を追い詰めるように
鋭い視線、合間合間に笑みを浮かべながら…
キスも弄る手も止める事無く部屋へ入った。
服は次々と床に落とされ、僕も落とす。
明るい最初の部屋から奥へ進むと
ベッドルームは丁度いい暗さ。
ベッドに辿り着いたら
お互い裸。
「…俺がギフト…
全てあげるって言ったけど…
とりあえず…ハミンが望む事と
俺がしたい事一緒だといいな…」
…多分一緒……それ以上かも。
いつもそうなのに、
ムードにも充てられて更に感じてるし…
すでに全身蕩けてる僕を一気に口に含んだテヨン。
「…っ!テ、ヨっ…!」
僕は名前だけ読んで伝える。
言葉の返事は咥えていて出来なくても
テヨンが指でいつもの場所を弄り出す。
そう、欲しがる僕の訴えと
分かってるっていう返事。
テヨンが沢山の枕に寄りかかり
座った体制の上に僕が乗る。
下から勢い良く動くテヨン。
その度に反応する僕はどうにか耐える…
何度も。
テヨンを見れば
僕の様子を見て楽しんでるのが分かる。
舌で唇舐めてるし…
わざとじゃないけど
テヨンを見て胸も…いろいろな箇所が締まる。
連鎖でテヨンの表情も歪んで
気持ち良さそうに目を瞑って唇を噛んだ。
僕と一緒にテヨンも更に反応する。
繰り返し。
何度も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます