恋人契約〈Promise〉

Ⅱ ⑴ タイポワレ




契約内容


**友達契約**

・1ヶ月のみ月90万

・テヨンの食事。

・ハミンが仕事で作れない時は作り置き。

・友達として同居。

・いつでもどちらかが解約希望の際は

日割り計算して解約、契約終了とする。

………………途中解約、全て返金。



**恋人契約**

・生活費食費など折半

・同居。

・世間に公表しない。

・友達に公表する際は要相談。

・どちらかが解約したくても、お互い了承しなければ解約不可。要要相談。

………………………今現在、継続中。







「テヨン…テヨン、

僕、そろそろ仕事だから起きるよ?」



恋人と、彼の部屋、キングサイズのベットで

毎日2人で寝ている。


人肌に慣れていなかった僕でも

腕、足と巻き付かれて寝る事に

すっかり慣れた。



僕が起きる時

1人で勝手にベットから抜け出したら

テヨンは拗ねる。


こうして毎朝、

テヨンを甘く起こすのが1日の始まり。

慣れってすごい。



…ほんとうに甘いんだ…


彼が。


この生活が。






子供のように素直な性格が

そのまま寝顔に出てる。

重力によって色んな方向を向いてる髪に

手を入れて頭を撫でたり、

顔にかかった髪を退かしたり。

…愛しくなければこんな事しない。

起きてる時、時々出てくる

大人の男の顔も不意に思い出す…

この恋人は

どれ程多くの魅力を持っているんだか…



色々悩み過ぎる僕に、心配し過ぎる僕に、

一緒にバカになろうって言ってくれた。

テヨンの言いたい事は分かる。

考え過ぎないようにしないと。



友達契約を解約して、

普通に恋人として一緒にいようと約束した。

…けど、少しでも離れ辛いように、

バカになる為に…

甘い契約を交わしたんだ。


恋人契約。

手探りだから、

条文は随時更新するかもだけど。




…このまま

ずっと寝顔を見ていたい気もする。

今、この瞬間はテヨンの何もかもが

僕だけが知る僕のもの。


実際にテヨンの過去や未来、

僕のものじゃなくても

傷つかないように気をつけなくては…

傷つかない方法…


諦めて、望まない事。


ゴメンね、いつも僕は傷つくのが怖くて。



………愛されていても怖いんだ。







キレイな形のこの唇で、

昨日もどれだけ愛されたか思い出す。


「テヨン…?」


僕から唇へキス。

…少し反応してテヨンの唇も動く。

ほら、また甘くとろけてくる。


唇を啄ばむように何度もキスをして、

自分でも起こしているのか

誘ってるのか分からない。


だんだんテヨンの唇が、

僕の舌を受け入れだす。

テヨンが舌を軽く絡めてきて

僕を奥へ誘う…

舌と舌を絡めながら奥へ押し込むと、

すでに僕の下は少し固くなっていて

テヨンの手が伸びてきた。


刺激が与えられ

もう止まらない。


こんな朝が毎日続く…



お互いあっという間に裸。


夜の暗い雰囲気とは違って、

カーテンの隙間から漏れる自然の明かりで

何もかも丸見えだけど…

まだ夢の中の甘さで現実とは思えない…


僕の愛する人が現実離れしてるから?


いつ見ても整った顔に澄んだ瞳、

身体の奥にある心もとても澄んで見える。


恥ずかしい事、嫌な事、

いろんなマイナスな事は

隠したり誤魔化したりする僕とは違って

全てが綺麗なんだ…。



「……夜したやつが残ってる…?

ハミンの超柔らか…

って何考え事してるの?余裕だねー…」


…余裕?

頭の中、テヨンの事しかなかったよ…


抱きしめられながら気持ち良い所を弄られ、

いきなり発された声は

朝だからか少し掠れていて、

責めるような低いトーンでゾクゾクする…


身体はさっきからテヨンを受け入れたくて

腰まで痺れてきた。

…どんな身体になってきたんだ…


テヨンの長い指。

僕の気持ちいい所、気持ちいい事、

全部バレてる。



「…テ……ヨ…ン…」

……わかるでしょ?


「テ…ヨ……?」

……わかってるでしょ?


余裕なんてこれっぽっちも無い。


覆い被さられて抱き締められ、

好きなようにされて

心地良くて堪らない。

テヨンからの全ての刺激が堪らない。

名前さえも満足に口から出ない。

目で訴える。

それ以上に鋭い目つきが降りてきて…


「…するよ…?」


ほら、わかってる……安堵と期待。


僕の視線とテヨンの視線は

絡んだまま外れない。

僕が気持ち良さを顔に出してしまえば、

テヨンの表情が緩んで

眼は野生化した肉食動物のように光る。

獲物を手に入れた肉食…

…けど…食べるように見せかけて、

僕を甘やかすだけ甘やかす…


…光った目のまま、唇と舌、器用な指先…


全身が感じるようになってしまった僕。

首から鎖骨…

手をとられ手首にキス…


意味の無い行動なんだろうけど、

また僕の脳にも胸にも刻まれてしまった…

手首を見る度に思い出してしまうだろ…

それ程…いつもいつも

強烈な光。

テヨンの眼。


眩しくて

僕が気持ち良さに耐えられなくなって


眼を瞑る。







テヨンに身体全体を揺さぶられてる最中…

…閉じてる目、瞼の上からキスされる。


「…ハミン?目……開けて…」


もう脳も胸も使い物にならないのに。

目を見たら、余計感じちゃうのに。

お願いされたら応えてしまう。



…テヨンの苦しそうな

気持ち良さそうな…瞳と…目が合う。


テヨンが口元を片方上げながら

舌を覗かせてるのが見えた。



「……ぼく、…ぁ……ぃ、…く…」


「……ッつ…………………ハァ…ハァ……」



2人で、ほぼ同時。




そして僕はどうにか現実の世界へ…








「ハミンせんせー、

火加減このくらいですかー?」


「あー、はい、…そのくらいでーす」


「ハミンせんせーい」


「はーい」


「ハミ……」



なぜか今日の料理教室、

僕を沢山呼ぶ生徒さん達。

その理由は、見学とか言って

どうしてもとついてきたテヨンが

教室の隅からずっと僕の様子を

見てるからかな…。



「…彼はハミン先生のお知り合いですか?

よかったら試食…

こちらで食べて貰いましょうよ。」


馴染みの生徒さんが気を使ってくれる。

それかテヨンに興味があるか…。


「はい。…いいかな?僕の友達なんですけど、

たぶん試食目的で来てるので…テヨン!こっち。」


僕が呼ぶと

自分で適当に椅子を持って来て隣に座る。

動きが早い。

…お預けだったご飯がもうすぐ食べれる犬みたい…

シッポと耳が生えて見える。


僕が見本で作った一人前の鯛のポワレを

一緒に並んで食べる事にした。

…まぁ生徒さん達のお裾分けがテーブルに

溢れてしまって食べ切れない程だけど。



「いろんな魚があるけど、

魚によって味、違うの?」


「…違うよね…

まぁ白身魚は似てるけど。」


「そうそう、その似たのとか…

味付け変わるの?」


「変わるっていうか、ほぼ一緒だけど…

僕はそういう違いを研究して味付けとかも

試作していく側だから…」



教室では試食の時、

こういう料理の話を食べながらする。

テヨンも食に興味が出てきたのかな。

凄く僕を見て楽しそうに聞いてくる。


「今回の鯛だと、素材の味を生かして

さっぱりレモンがやっぱり合うし…

油を少し多めでカリッと食感も…」


話ながらついいつもの癖で

テヨンの分を取り分けたり、

手元まで飲み物を持っていったり、

口の横に付いてしまったものを取ったり…


しまった。

あまりにも面倒見過ぎで

変に思われる…


気づいた時には遅かったようで

周りの生徒さんからの視線が怖い。


「あ…ごめんね、紹介しますね。

僕の友達、テヨン。

えっと、名前で分かるかな?

彼も韓国の血が流れてて…仲良しなんだ。」


全然上手な言い訳出来なかった…

笑顔で誤魔化す。


「はじめましてー。

ハミン先生と仲良しのテヨンです。

時間がある時はまた来てもいいですか?

僕全然料理出来ないので、

生徒にもなれずに見学だけだと思うけど。」


…僕とか言って可愛くなっちゃって…

テヨンの笑顔でどうにか場は馴染んだかな。

上手いことテヨンは次来る事も宣言して。


「ハミン先生、先生やってる時とか

テレビとかの雰囲気と違って

お友達の前だと男らしいですね。」


「うんうん、ポワンとしたイメージが…

しっかりした大人な男性というか、

しっかりした奥さんっていうか…」


「え?そう?…素が出ちゃったかな。」


…大人な男性と奥さんって…

全然違うけど、両方に見えるって事…?


「ふふふ、

僕のしっかりした奥さんなんですー。

料理はプロだし、毎日起こしてくれるし。」


「そーー!

テヨンはホント朝弱いからなー!

電話で起こすの大変だけど

しょうがなくてね、ね?」


…どこまで疑われる事か…

実際付き合ってるけど、

こんなにすぐバレたくない。


隣に座るテヨンの太腿ふともも

意味ありげに叩く。

僕が誤魔化したい事、気づいてくれ…


「……まぁね、朝弱くてスミマセンね。」


…すぐ不貞腐れた顔をする…



テヨンが悪い訳じゃないし、

ここにいる生徒さん達を疑う訳じゃない。

テヨンの本職を

気づいてる人はいないだろうけど…


僕とテヨンの事、SNSで呟かれたら…

僕だけじゃない、

テヨンのイメージだってあるのに。



…危機感が僕より無い…

これからはもっと気を付けなきゃ。





恋人は

世界を股にかけるサックス奏者。

絵を描く才能も持ち合わせてる。


恋人の世間からのイメージ。

ネットで調べたら

プライベートな内容…

あまりいい事が書かれてなかった。


プレイボーイ…

女も男も遊ぶだけ遊び放題…


実際そうだったのかもしれない。

諦めてるし、これからの事も何も望まない。



…けど、新たに僕との関係が

公になっても…

実際のテヨンの魅力は伝わらないかも。

僕の力じゃ

今までのイメージを壊せるとも思えない。







誰もいなくなった料理スタジオ。


テヨンは空いた席に座りながら

洗い物を片付ける僕を

ずっと無言で見てきていた。


…何だろう。生徒さんがいた時は

ずっとニコニコしてたのに。


「……何?どーかした?」


「……別に。」


「…お腹いっぱいだよね?

夜ご飯ここで済んだね。

この後予定無いけど何しようか?」


言いにくい事は無理に聞きたくない。

言いにくいって事は

僕にとっても良い事じゃなさそうだし。

…けど言えずに悩んでしまうなら

僕にとって悪い事でも、

テヨンにとって悪い事でも、

聞き出して共有したい……


手を止めて、

テヨンの近くへ。



「…何かしたい事ある?何か話す事は?

テヨン、……どうかした?」


「……あのさ、ハミンはさ…

女の子が好きでしょ?」


変な質問をされ、返事が出来ず顔に出る。

何を今更…


「もしかしたら…あのさ…

生徒さんはハミンに好意的だから

教室に来てるわけでしょ?

ハミンも生徒さんは可愛いだろうし…」


「僕が生徒さんと

何かあるんじゃないかって?」


……よくある付き合いたての

周り全部にヤキモキする気持ち…

こんな事あったな…

昔彼女に言われてうんざりしてた

自分を思い出す。



「…みんな料理も出来るし、

ハミンと話も合うだろうし、

何より可愛い女の子だし…」


目の前の…目を合わせず

あらぬ方へ向いたままオドオドと話す恋人。

僕は真っ直ぐに力強く見つめる。


「テヨン。可愛いね。」


テヨンがこっちを見た。

少し怒った顔で。


「…何が?

ハミンに彼女がいるとずっと思ってたし、

実際付き合った事あるのは女の子で

女の子が好きでしょ?!」


「…だからって…

テヨンが心配する事は全く無い。」


「……そうかな…これから気持ちは

変わるかも知れないのに…」



自分だけが

不安になってると思ってた。


過去と未来、

傷付かない為に諦めて望まないと思っても…


テヨンが僕の過去を気にして、

未来を望んでくれたら…

とても嬉しい事。


僕も望んでいいんだろうか…



「…こんな僕にしたのはテヨンだけど…

僕はどんな可愛い女の子より

テヨンが可愛いし、

どんなカッコイイ男の人より

カッコイイと思う。」


「……ありがと。…愛してる?」


「うん。とっても。愛してる。」


「…余裕だね…」


……今朝と同じ事言ってる。

余裕なんて無いのに。


借りている料理スタジオは

駅の中でガラス張り。

通行人が沢山通って、

視線がこちらに向く事も多い。


…キスしたい。

テヨンに早く触れたい。触れられたい。



「今日はもう帰ろうか?

…余裕なんて無いの知ってるでしょ。」


「…お互いサマなんだけど。」



…意味ありげに微笑み、

口元が片方あがる。

何か思い出してる?今朝の事?昨夜の事?






僕はまた 現実から足早に


ふたりの住処へ帰る事にした。





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