Ⅱ ⑹ パンケーキ




「え、今のここで歌うんですか?」


あえてテヨンには聞かず、

隣の南雲なぐもさんに確認する。


テヨンに押し込まれた録音部屋。

なんで僕がここで歌わなきゃならないんだ。


「え?!恥ずかしいし、無理ですよ…

わ、僕の声…変…

…えーー……」



イヤホンもかけられ、1人にされた。


ガラス張りの部屋からテヨンが笑いながら

手をマイクにして口をパクパクしてる。

あ、歌ってるのかな…歌えって事?

…全然聞こえない。


はーー……

南雲さんも助けてくれないし、

さっきの歌なら歌えそうかな…

少しだけ諦めて歌ってみる。


いつでも、どこでも…

こうして僕に刺激を与え続ける

テヨンを睨みながら。





「ハミンさん歌上手い。

好きならプロになれるレベルです。」


「はぁ…」


「…けど好きじゃないと

仕事には出来ないですからねぇ…

好きな事を仕事にするのも大変ですけど、

続けて上を目指す努力が出来るのは

結局好きだからですし。」


通路のような休憩場所、

コーナーにソファが置かれていて

ドリンクバーのような物も置かれている。


「…はい。わかります。

僕も好きな事を仕事にして実感してます…

毎日努力の日々です…」


「うん、凄くわかる。

俺も毎日努力の日々なんですよー。

ハミン。一緒だね。」


真面目な話をしている横で、

普段より高い声…

ふざけた口調のテヨンを睨む。


夜ご飯を食べてからスタジオに着き、

小1時間テヨンと南雲さんが

真剣に音を出したり聞いたりしているのを

そっと見学していた。


その後僕を録音部屋に閉じ込めて

からかわれたけど…

紙コップに自分の紅茶と

僕に暖かいコーヒーを運んでくれたから

素直に受け取った。

ありがとうの笑顔も添えて。


「……南雲さん、

テヨンは昔からこんな感じでした?」


「…はい。

俺も努力してる所見た事ないです。」


「えーー?俺だって毎日努力して

吹いたり描いたりしてるんだけどー…」


…確かに毎日してる。

楽しそうにしてるから

努力って言葉が合わないだけで…


「……テヨンはホント…

凄い才能だよ……」


「……見た目も惹きつけるけど、

それだけじゃない。

愛されるキャラクターが滲み出るのは

ホント持ち前の性格がこんなだから…」


「おーーっと!ナグ!

ハグしたいけど、この距離移動してまでも…」


僕を挟んで座ってる程度で

数歩歩けばハグ出来るけど、

まぁそれ程じゃないか…と

早々に諦めるテヨン。


「俺も遠慮しとく。

…明後日は朝 早いからね?

◯テレビ局入りが5時だから…4時とか…

迎え行かせようか?」


「ん?お迎え?お願いしますー。」


「…◯テレビ局?僕も明後日◯テレビ局。」


「ん?ハミンも?じゃあ一緒に乗ってく?

早いけど。一緒に行こうよ。」









「……ん……んっ……ぁ……ぁ……」


いつも寝ているキングサイズのベットの上。

テヨンの妖艶な手によって

僕の身体が快感の渦へ…とか…

思考までも甘い気持ちで

落ちようとしていた。


「……ハミン…声……」


「……ん……だって…気持ち良…」


「……え?俺がもっと気持ち良くしてる時は

声、我慢するくせにー…」



約束していた寝る前のマッサージ。

腰が痛いと言っていたテヨンに僕がした後、

僕はいいと断っても

半ば無理矢理されているマッサージ。


されたらされたで気持ちいい。

掌全体に少しだけ体重をかけながら

一定のリズムで腰を押されるだけで

声が漏れてしまう。


「…それと…これとは…んっ…」



エッチの時

前ほど声を殺さなくなった。

自分で自分の声、喘ぎに抵抗があったのが

大分慣れて来た感じなんだけど…


耳朶を濡れた暖かいもので包まれる。

そして耳の穴へ音を立てて進んでくる舌。

…クチュ…

テヨンの舌で全身一気に舐められてるような

大きな音がリアルに伝わり

体の奥に刺激が走る。

そして腰を引き続き押されると…


「……んっ……あっ……」


少し高くなってしまう声。

自然と溢れ出るのが止まらなかった。






「テヨン……起きなきゃ…」


まださっき眠りについたような感覚。

アラームを止めてテヨンに声をかける。


僕の脚に巻きつくテヨンの脚

頭の下にあるテヨンの腕はそのまま、

胸に回されてる腕を揺する。


「…テヨン…テヨン!起きるよ?」



収録当日。


僕のテレビ局の入りは9時。

5時のテヨンに付き合わなくてもいいけど

テヨンは8時台の報道番組で

男性アイドルのパフォーマンスと一緒に

サックスを伴奏するらしい。


しかもそれを僕は見学してもいいらしい。


……テレビ局で噂になったりしないかな。

恋人関係を悟られないように

最大の注意をはらわないと。

…南雲さんも来ると言ってたし、

ホンミ先輩も来るかもと言ってた。

大勢で見たら…

何ならアイドルのファンだと思われれば

大丈夫かな。



脚を抜き、身体をどうにか剥がして

ベットから出ようとすると掴まれる手首。

…何度手首を掴まれても

人一倍大きな掌の恋人にドキッとする。


「……ハミン……ベットから出る時は…

どうするんだっけ…?」



テヨンのワガママ。

'1人でベットからこっそり出ないで'

'出る時はテヨンを起こしてから'

そして…

'キス'



仰向けで寝ている上からキスを落とす。


「…ン、おはよ…」


目を瞑ったまま、緩む口元。

まだ暗い部屋、薄っすら見える彼の寝顔は

いつも子供みたいだ。

…夜は別人のような大人の男の表情をする、

この顔に散々抱かれたんだよな…

抱かれてる最中、

目を開くとテヨンの顔が目の前にあって…

それだけでもまだドキドキした。

まだ…?慣れてないのか。

それとも慣れてもドキドキするのか。


…目で射抜く眼力は僕の本能を焦がして

何がなんだか分からなくなって…

思い出してはまたドキドキする。


こんなに焦がされてる僕は

テヨンと離れたら

胸の中、何にも無くなる……



「テヨン……好きだよ……」


テヨンの頭をよりベッドに沈める様に

さっきのキスより深く

唇を押すように重ねると、

ゆるっと舌が僕の舌を受け入れて

密度が増す。


時間は3時くらいでまだ余裕がある。


「……ん、……ふふっ……んー」


キスの合間に…笑い出してる…

漏れる声が可愛い。

このまま襲ってしまおう。


唇を重ねたまま、

脇腹や胸に手を滑らせて素肌の感触を探る。

…僕みたいにいろんな所が

感じやすかったらいいのに……

全身が硬めのゼリーみたいに

プルプル美味しそうで噛み付きたくなるし

感じないとわかっていても

僕なりに感触を楽しんでいた。


「………ん、んん…ふっ……んー……」


笑いながら少し感じてるような

甘い声が漏れてくる。

もっと…感じてるのが見たくて下を弄る。


「んんー……ん?

…おお?……ふふっ…

またハミンのに入れちゃうけど…?」


唇と唇が微かに触れてる距離、

掠れた低い声で囁いてくる。


「……ん。少しだけ…入れちゃう?」


唇を舐めとりながら囁き

少しテヨンの顔を盗み見ようと距離を作ると

両手で顔を包み込んで来たと同時に

貪られるようなキス。

その下からの勢いで身体が一瞬浮き上がって

僕が背中からベットに沈んで押さえ込まれる。


キスを遊ぶように繰り返し、

唇も手も脚も…全ての感覚が

テヨンの動き1つ1つで

くすぐったいのを通り越して甘くなる。


「……もう……ぃ…れて……」


「……少しって……

少しじゃ済まなそう……」


オイルを付け、指でほぐさなくても

すっかり慣れてる僕。


テヨンもそんな僕の気持ち良い場所を

刺激する事にすっかり慣れてる。






少しの時間…軽く意識が飛んでいた僕は

意識が戻ってもボーっとする頭。


寝ぼけたまま、朝ご飯を作った。


焦がしたパンケーキは

僕がテヨンに食べさせて貰った…?

イヤ、僕が楽しく『あ〜〜ん』ってやったら

テヨンは笑いながら食べてたような……

ちゃんと美味しかったかな?

僕は味も覚えていない。


迎えに来てくれたクルマの中、

テヨンに寄りかかり眠ってしまい…

テレビ局に着いてやっと頭も起きた感じ。



「……僕、寝ぼけてたよね?

ふわふわしながらここまで来た…」


「ん?目が覚めた?

そうだねー…これからお仕事で、

俺が先だから……

ハミンはお利口さんに待っててね?」


「……なんだよ、お利口さんて…

僕だってこの局知ってるから大丈夫だよ。」


「……まぁね。けどさ……

まぁ後でね。」



テヨンは控え室に着いてすぐ

男性アイドルの所へ、

挨拶や打合せに行ってしまった。


…生放送で…失敗は許されないし…


…こんな大変な時に

朝からサカり、連れて来て貰い…

お世話してるんだかされてるんだか。



テヨンを知れば知る程、

才能や人気にビックリする。


何も知らないで出会ったせいか、

知れば知る程、好きになる。



…こんなに好きになる自分にもビックリだし

今は沢山愛されてるって実感出来るけど…

人の気持ちの変化…

テヨンの愛情が他の人へ向く事は疎か、

少し愛されてる量が減るだけでも怖い。


…僕がワガママになってるのかな……




本番前のスタジオは生放送のCM中。

男性アイドルの登場で賑わう中、

テヨンは首からサックスを下げ

決まった位置に立ちながら

挨拶を繰り返していた。

南雲さんと並んで静かに見守っていると

こっちに気づいたから軽く手を振り合った。



本番が始まると

見た事が無い真剣な表情。

…もしかして少し緊張してる…?

もしかしてじゃないか…

テヨンでも緊張するのが普通だよな…


男性アイドル達の後ろで佇んでいる姿は

カメラを向けられていないのが

勿体無いくらい…



音楽が始まると同時に

テヨンのサックスを吹く姿が

モニターに映る。

そしてダンスや歌のパフォーマンスで

盛り上がっている時は軽く音に乗り…

最後にまたカッコよく

テヨンのサックスで締められ

音楽が終わるとテヨンの紹介もされた。


男性アイドル達からすると、

テヨンはジャンルは違うけど

大先輩的な立場らしい。

…伴奏っていうか、

これは特別なfeaturingっていうやつか。


ホント僕はいつも気付くのが遅い。



近くで見れなかったフェスの

パフォーマンスは皆が惚れる格好良さだし、

アイドルと並んでも引けを取らないどころか

……

何で僕と恋愛してるんだろ?

僕はいつか傷つくはず…

ってまた振り出しに戻ってしまう気持ちを

どうにか奮い立たせる。






「ハミ……」


僕はテヨンの控え室で

ホンミ先輩と待っていた。

更に先輩が連れて来たミュージシャンと。


「おつかれ!テヨン…」

「「お疲れ様ですー」」


テヨンは、僕だけがいると思った部屋に

他の人がいたからか少しビックリした様子。


すぐにホンミ先輩がテヨンに挨拶をして、

ミュージシャンの紹介後

楽しそうな会話が始まった。


あの時のライブに行ったとか、

テヨンの友人と知り合いだとか…

全くついて行けない話題。


それでも楽しそうなテヨンを

少し離れて笑顔で見ていたけど…


なんとなく…テヨンの手が

ミュージシャンの肩に乗ったり…

横から腰に手を当てて部屋から出て行った。



……?


僕の方なんて見てなかった。


何なら少し獲物を狙うような目つきを

他の男の人に向けながら…




「…あ、どこか行ったねぇ?

すぐ戻ってくるかな…

おっと、ハミンもう時間じゃない?」


「…そうですね…

そうそう…テヨンが戻ったら行こうと…」


「…うん。…お前達あれからずっと

一緒に住んでるんでしょ?

……ハミン、彼はあんな感じだと…

ツラくない?」



あんな感じ。


そうだよな。

やっぱりおかしいよな…



今度はテレビ局で僕の仕事をした。

生放送では無くて良かった。

…料理の手順を何度も間違える。

…食材を入れ忘れたり。


嫌な方向へ考えると止まらなくて……

考え過ぎてNGばかり出してしまった。





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