Ⅱ ⑸ ワフウナベ




今日の昼過ぎにフランスを発つ。


ホテルで迎える朝。

珍しく俺が先に起きた。


あ、珍しくもない。先に目覚める事は多い。

けどいつもハミンを抱きしめてまた寝るから

結局ハミンが起きる時に

俺を起こすってだけだ。


今日は何となく、

そのままハミンを眺めてる。

俺が今までつけてたネックレスが

ハミンの首で光ってる。


『テヨンのものってタグ付けてるみたい』


いつもの笑顔で俺におどけて見せる。



それでいいの?

俺のものって。

調子に乗って

全世界にアピールしちゃうかも。



嘘。

知ってる。


ハミンは世間に知られたくない事。

世間に限らず、

身近な人にも知られたくない事。




俺が変わってるのかな。


恋人に男も女も関係無い。



…………ハミンは違うもんな。









「……ん、……おはよ…」


ハミンの目が少し開いてはこっちを見て、

また少し開いてはこっちを見る。


「おはよ。ハミン、愛してるよ。」


「……うん、僕も…」


寝起きのハミンも可愛いくてしょうがない…



「……どうしたの?……珍しい…

…何かあった?」


「いーや?…とりあえず今日帰るけど、

何かやりたい事ある?」


「……テヨンは……?

お父さんの所行ったの?

…僕も連れてってよ…」


「……行ってない。

朝ご飯食べたら行こうか。」



近くのカフェで朝食を済ませ、

サックスを片手に車に乗り込む。

父の墓地までは1時間もかからない。

運転する俺の隣で

流れてくる音楽を口ずさむハミン。


「…ハミンって、歌とか何かやってた?」


「えー?何も?

音楽の授業も好きじゃなかったー

カラオケもそんなに行かないしー」


「へー、今度カラオケ行こうか?

あ、今度俺とスタジオ行こうか。

レコーディングする時、ハミンも来て?」


「ああー、見学ねー。うん。行く行く。」



歌って貰おう。

そして録音してしまおう。

こっそりコーラスで使ってしまおうか。


いや、世間に出さないで

俺だけの宝物にしようかな。


…ハミンの声…大好き。


セックスの時に声を聞きたくて

どうしようもなくなるし、

冷静な時でも愛しい声。



「ハミン、ハミンも声も大好き。」


「ん?」


「俺の声…」


手でジェスチャーする。

指を軽くまとめてから広げる、

投げキッスに似た、声を出すっていう…


「テヨンの声?テヨンの声は……

言わなくてもわかるだろ?

……会ってないとすぐ聞きたくなる…」


「ハミンーハミンーハミンー」


低い声、中間の声、高い声、

いろいろなトーンで呼んでみる。


いつもの様に笑い出すかと思ったら

こっちを見てただ微笑んでる。


ハミンの後ろからは太陽の光。

これを絵で残せたらどんなに幸せだろう。


ちょうど信号待ち。


少し窓を開けいるから髪が少し乱れてる。

ハミンの髪に手を伸ばして直し、

頭の後ろに手を入れ

少し引き寄せてキスをした。



スモークも貼っていない、

ミニのクルマ。

天気が良くて透き通った空気。


落ち葉の中、前を渡る歩行者のおばあさんが

僕等の方を見て笑顔だった。


「…見られてたね…」


「ハハッ、幸せを分けてあげたんだよ。

俺は他人のキスでも

見たら幸せな気持ちになる。」


「……フランスで良かったよ。」



大丈夫。

日本じゃしないよ。









途中で買った花束をハミンが暮石に置いた。


「韓国式でいいかな…」


「…そこまでしなくても…」


そういえば今日のハミンの服装は黒か…

膝をつき、お辞儀を繰り返す。


「…俺、やった事ないよ。

父はその挨拶、懐かしいかもね……

…一曲吹くから待ってて?」



父から色々教わって無かった事に

また後悔が襲ってきた。

絵の事もそうだし、礼儀、挨拶の仕方も。


涙を堪えてサックスを吹く。

…途中で少し溢れてしまった涙も

太陽の熱で暖かい。

ハミンといるからそう感じるのかな。


小高い丘にハミンと2人、

いつもより空気が澄んでいて景色が光ってる。

鮮やかな木の葉の…深緑、頭上に広がる…み空色。

風も強く吹く場所なのにいつもより穏やか。

一曲終わったら…

サックスごと抱きしめてくれた

満面の笑みのハミン。

ほんとあったかい。




「……さっきの挨拶、教えて?」


「え?…たいして難しい事じゃ……

うん。一緒にしよう。」






きちんと父に挨拶をして、

フランスを後にした。


またハミンを連れて来るって約束をして。













「テヨン!!ケータイ鳴ってるよ!!」


…無視したい、ナグからの電話。

だってハミンと夜過ごすはずなのに

ナグから呼び出された。


「…どうせ仕事の話だよ。」


「仕事の話だから出なきゃダメだろ!」


目の前で、

俺が出るまで鳴り止まないケータイの画面を

こちらに向けてハミンがずっと持っている。


「はいはい…

はい、こちらフランスのテテ。」


『やっと出た。嘘つくなよ。

俺より先に日本帰って来てただろ。

さてはハミンさんにケータイ渡されたね?』


「…そうだけど?何?メールは読んだよ。」


『そう、それの確認。今から来れるでしょ?

今回テテがメインじゃないから、

いろいろ確認して欲しい所があるんだよ。』


「…今日じゃなきゃダメ?

明日の昼間は?

今からハミンと鍋の予定なんですけど。」


『先方が…うーん…

今日中に確認しなきゃ間に合わないな。

少しなら遅れてもいいから

鍋食べたらすぐ事務所来て?

実際に俺がリズム確認してGO出すから

サックス忘れるなよ!?』


「うん…じゃあ鍋食べたら行きまーす…」


座ってるソファの横にケータイを投げ、

ハミンを呼ぶ。


「ハミーン!俺、鍋食べたら仕事行くー!」


キッチンかな?

電話を渡すとすぐ部屋を出て行った。

鍋の用意してるかな。


「なーにーーー?!聞こえなーーい!

鍋食べれないのーー?」


すぐにキッチンへ向かう。

自分でもこういう時は速いと思う。

家の中でも走るから。


「ハミン!鍋食べる!

その後仕事行く!

ハミンも行く?ハミンも行こ!」



キッチンの流しで白菜を洗いながら

こちらを見て頷くハミンへ近づく。


しょうがないな、って顔で

何度も頷いてる。


ふっ……ホント可愛い。


前はよく俺の言動に困った顔してたけど…


ハミンの横にピッタリ張り付く。



「…時間大丈夫なの?

鍋食べたら僕も一緒に行くの?」


「時間は鍋食べてからでいいって。

関係者がいるだけのスタジオだから。

いい?行こ?」


「付き添いね。わかったよ。行くよ。」



…鍋食べてからって言ったけど…


「ハミン、」


呼ぶとこっちを向いたハミンの顎を持ち上げ

キスをする。

もう片方の手で水道の水も止める。


唇が塞がれて文句も言えないんだろうけど

そのまま受け入れてくれる。

お互いの唇を唇でただ噛むように味わう。

キスを繰り返し…


耳元、首筋にも移動して

唇で…音をたてたり甘く噛んだり。


「…あっ………」


……可愛い声。珍しい。

耳を刺激した時しか

声出さないで我慢するのに。


緩んでしまう口元を舌の動きで隠しながら

ハミンの顔を覗いたら

赤い頬と潤んだ瞳、

恥ずかしそうに困った顔。


あーーーーー可愛い…

声……恥ずかいの……?


赤い頬を撫で、

頬より赤い唇がセクシー過ぎて吸い付く。

片手でハミンのズボンを下げ下着越しに煽る。

ハミンの手は水でビショビショ、

どうしていいかわからないのか彷徨ってる。


耳元で舐めるように囁く。


「手どーする?触りたい?」


俺以上に余裕の無さそうなハミンの手元に

タオルを取ってあげる。

どうにか拭いた手が俺の身体に

服の隙間から直接肌に

腹、胸…動く手。


「つ…めたっ…」


俺も負けずと煽る。


「ごめっ…んっ……ぁっ……」


「…っ……」


触りたい?って煽ったのは俺だけど…

いざ…

遠慮がちに触れてくる手の動きを

冷たさでより感じてしまう。


自分でも声が出そう。


キッチンの棚からオイルとゴムを用意する。

オイルも冷たいな…


指に絡ませる。一本、二本と。

ハミンを後ろから触る俺と、

どうにかいつもの様にカウンターに手をつき

ギリギリ立っているハミン。

目を瞑ってどうにか…


「………あっ…あっ…やっ…っ」


俺の指は気持ち良いみたい。


「……声ヤバイ……

ハミンの声……ちょーキレイ…

ちょースキ…」


返事も出来ずに

漏れる声もそのまま。


「……やっ…あっ…テョ…!あっ…」


あぁ…俺のがいいんだった。


少し手加減して俺のを準備する。



1日に何度もする日もある。


今日も…今も…

ゆっくり…から一気に動く。


「あっ!…っ………ん…」


ちょースキって言ってるのに

我慢する声。


それともわざと?

どっちにしろ

いつもより鳴くハミンに興奮して

時間も気にせず…腰を動かした。


今回も立ったまま。








「腰痛い。」


「自業自得。」


「……鍋まだかなー?」


「自業自得。」


「…ハミンって日本に住んで5年?

よくそんな日本語知ってるね…」


「チャオプチャドク。」


「え?」


「韓国語で自業自得。

ことわざは同じくあるんだよ。」


「へーー!ハミンって頭良いよね!」


「…覚えやすかったんだよ。

ほら。食べれるよ。」


ハミンがササッと用意したのは

さっぱりした味の白菜と豚肉の和風の鍋。


「ありがとー。頂きまーす。

とてもとてもハミンに感謝しております。」


「…あぁ、お母さんが言ってた

感謝しなさいってやつね。」


「うん。美味しい。

ハミンが作るご飯、

ハミンと食べる物は美味しい。」


「…ありがと。

後で腰、マッサージしてあげるよ。」


「え、ありがと。

……ハミンは腰痛くないの?」


「痛いよ。重いよ。けどいい。」


「ふーーん…そう?」


少し顔を赤くしたハミン。

そうだよね。

あれだけ突かれたら腰にくるよね。





そういえばお互いマッサージした事無いな。


スタジオから戻ったら

寝る前にマッサージしよ…




…なんか…してもされても

別の方向に進みそうだな。




そうだよな。


…そうしよう。




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