Ⅲ ⑷ ポトフ(後編)



車の後ろに荷物を置いて運転席に座ると、

助手席からさっき途中のカフェで買った

ホットココアを手渡される。

さっきからニコニコなハミン。


「今日はどうしたの?

買い物ついてくるとか、

僕の買い物してくれるとか…」


「んー?

買い物デート?してみたかっただけ。」


「そっか。…ありがと。…手も繋げたしね。」


「え?ああ、人混みでだけね。」


「けど…凄くデート感。」


人混みじゃないと手を繋いでくれなかったのは

ハミンなのに、

人混みで手を繋げたと喜ぶハミン。

風邪気味だとキスはしないけど、

ハグはしてくるハミン。

以前公園でキスしたら怒られるだろうと思って俺からはしなかったら、してくれたハミン。

その分別というか、感覚、

分からないような、凄く凄く分かるような。

とにかくハミンの臨機応変な感覚には

戸惑わされる時もあるけど、

愛を感じれるから大好きだ。


出会った当時、自分には恋人がいるという

ハミンの発言だったり、

ハミンが結婚するなら俺は愛人にでもなる

という俺の発言だったり、

お互いここからはNGって線に

気付かない時もあるけど、

それでもハミンとなら分かり合える気がする。


「…昨日、僕、鼻水出てたでしょ?」


「んん。」


「自分では鼻水だけだし大丈夫!って思って、

もしかして熱あるかもな、

けどあっても休めないしな、って、

自分を奮い立たせて、出来る限り無理して。

けど、昨日の夜、テヨンがご飯だったり

薬だったり、助けてくれたでしょ?」


「ふふっ、うん。」


「…夜中にタオルで拭いてくれたり…」


「あ、気付いてた?」


「うん。…ちょっと熱出ちゃったし、

調子悪いと、うなされるって程じゃないけど

頭の中とかモヤモヤして嫌な感じで…

そんな時にテヨンが僕をみてくれて、

テヨンのおかげでこんなに元気になれた。」


「…そんなに言われると、

看病しがいがあるね。」


「……ほんとに、ありがと。

大人になると、ちょっとの体調不良でなんて

甘えられないけどさ…」


「俺は、ハミンに甘えて欲しい。

調子が悪い時は甘えて欲しいし、

機嫌が悪い時は当たって喧嘩してもいいし、

悲しい時は愚痴って発散したり…」


「…そう言ってくれるだけで、

ほんとありがと。」


「ほんと、実際、そうして欲しいんだけど。」


「……僕にもそうしてね。」


車の中も暖まり、

ホットコーヒーで温まったハミンの手が

軽くハンドルに乗せていた俺の左手を包んだ。


「……キス…」


微かなハミンの、声と唇の動き。

俺の願望が聞こえたけど…

聞き間違いじゃないよな。


薄暗い立体駐車場に停めている車の座席。

フロントガラスからは数台の停車中の車と

たまに歩いて通る駐車場の利用者が見える。

…薄暗いけど、外から普通に見られてしまう。

それでも、ハミンに見つめられたら……


ゆっくり、唇に唇を重ねた。


数時間ぶりに、ハミンの唇の感触を確かめる。

更に舌で奥を弄ると、コーヒーの苦味。

…今じゃこんなにコーヒーを美味しく感じて

もうコーヒーも普通に飲めるかも、

なんて思う…


「…ッ…ほら、行くよ。」


唇を離したらキスした事を怒られるかも…

と思ったけど、ハミンは笑顔だった。


ハミンを、ホンミさんの事務所へ送った。

…離れ難かったけど、

俺も家での仕事が残っているから

大人しく帰り…ハミンの帰りを待つ事にした。




家で1人でする仕事、

フランスやNYの雑誌のコメント、

写真のチェック。

頼まれていたバンドの

間奏のサックスメロディ作曲。

仕事はあっという間に終わって、

なんとなく絵を描くこと数時間。

夕方で暗くなってきたから外灯、

玄関などの電気を付けて回る。

1人で住んでいたら家の灯りなんて気にしない。

誰か来た時の為とかいうけど、

俺はただハミンの帰りを待っているから

灯りを付ける。


……早く、ハミンに会いたい…

……'元気になったら'が今夜、許される…


リビングのソファに座った瞬間、

ハミンの声がして立ち上がった。


「ただいまー!」


「おかえり!」


靴を脱いで上がって来たハミンに

玄関で抱きつく。


「…お腹空いてる?」


「ハミンは?」


「軽く食べてたから減ってない。

テヨンはお腹空いてるでしょ?お昼食べた?

ポトフ残ってる?味変えて食べる?」


「んー…」


ハミンの体を離すと、

ハミンは話しながら洗面所へと進む。

手を洗いに行くからだ。

ハミンの隣を一緒に歩いて進む。


「けどさ、我慢、したじゃん?」


「……ふっ…うん、昨日ね。……僕もね?」


目を細めて、俺に優しく笑いかけるハミン。


……可愛すぎる。

更にカッコ良くて爽やか…で、

エッチの時は蕩けてセクシー過多になるから、

もう脳内もぐちゃぐちゃだ。

言葉も出て来ない。

…お風呂、湯船ためて温めておいて良かった。


洗面所で手を洗うハミンの後ろに張り付く。

セーター越しに腰を撫でながら

ハミンの肩に俺の頬を乗せて

首筋を間近に見つめる。

そして鏡のハミンに視線を移した。


「……ッ…」


まだキスしてないけど、ハミンの腰が跳ねる。

鏡越しの視線が重なる。


「……ん?どうした?」


優しいハミンの声。

でもこの声が出せないくらい

蕩けるハミンを知ってるし、早く見たい。

鏡越しにハミンと目を合わせたまま、

撫でている腰のセーターを捲って素肌を弄る。


「……ッ、」


また、跳ねるハミンの体。

ハミンをこちらに向かせ、

鏡ではなく直接ハミンの瞳を見つめると、

吸い込まれそうな瞳。

もうすでに瞳は繋がって離れない。

…キスをする時以外は。


お互いの唇が引かれ合うみたいに重なって、

舌で奥まで繋がる。

もうこうなったら離さない。

お互い溶けた舌を絡ませたり緩ませたり

吸ったり吸われたりで

色んな感覚に溺れながら…

ハミンの服を剥いでいく。

自分の服も剥がされながら。

2人裸になると少しだけ寒かった洗面所から、

暖かい浴室へと雪崩れ込むように進む。

浴室の壁にハミンを押し付け、

おもむろにハミンの下半身を咥える。

ハミンを見上げると熱が籠る視線と重なって…

ハミンの息を整える胸の動きも視界に入り…

たまらず指で後ろも弄ってしまった。


「…ッ…」


急な沢山の刺激に堪えられなかったのか、

仰け反り顔を背けて

ようやく立っているようなハミン。

そんなハミンの両手を自分の首に回させて、

ハミンを支えるように立ちながら…

解して熱を持ったハミンの奥へと……


「………ッ……ッ…」


お互いの息遣いが浴室で響く。


ハミンの蕩ける表情と身体を堪能しつつ、

おかしくなるくらい気持ち良くなる動きを

繰り返した。

おかしくなる'くらい'というか、

おかしくなり過ぎて身体も脳も

ほんとどうにかなってしまう。

…毎日繰り返しても足りなくて、

毎日毎日、満足しながらも足りなくなって

求めてしまう。



早急に繋げた身体、

すぐに満たされてもまた押し寄せる熱。

続けざまの2度目の行為は、湯船の中。

ゆっくり楽しみ…のぼせない程度に

浴室からリビングに移動した。


ソファで2人寝転ぶのは少しだけ狭いけど、

膝掛け用の毛布の中で

2人絡まれば心地良かった。



だいぶ夜も更けたころ、

もう動けない…と横たわるハミンに

後ろから重なり腕枕していると

俺の腕を指先でくすぐるハミン。

そんなハミンの指をぼんやり眺めていると、

ハミンがポツポツと話し始めた。

この、まどろむ時間は、大好きだ。


「…僕とずっとチュウとかエッチ、

出来なかったらどうする?

…他の人と、とか…」


「他の人とはしない。

チュウもエッチもしない。

エッチしなくても欲求不満になったりしない。

エッチは俺にとって

ハミンと愛を確認し合うためだけだから。」


「………まぁ…うん、

僕も、他の人とはありえないんだけど…」


「で、こうして抱き合ったり…

チュウ出来なくても、エッチ出来なくても、

愛は確認出来るって思うし。」


「…まぁね……

僕は、…ちょっと心配。

テヨンと会う前なら欲求不満になるとか

そういう心配なかったけど…

僕の身体、テヨン無しじゃ死んじゃうかも…」


ふわふわの声…いや少し鳴き過ぎたからか

掠れ気味だけど優しい声で

伝えられる愛の言葉。

……嬉しくて死ぬ。

いや、ハミンの為に、

これから先もずっと生きなければ。


「……心配しないで。1人にしないから。

ハミンと生きるから。」


「うん……

俺もハミン無しじゃ生きれないから、

一緒だね。」


「……一緒。ずっと一緒ね。」


頭を動かし、

俺の腕に唇を当ててキスするハミン。

そんなハミンの頭に俺もキスをした。


「ホントはさ、

誰かの目を気にせずに手を繋いだり、

付き合ってることを隠さずに、

俺はハミンを愛してるんだって

宣言したいと思ってたけど、

そんなのどうでも良いって思えるくらい、

ハミンとこのまま、こんなふうに、

ずっと過ごせていけたらな、って思う。」


「……うん。」


震えた声で返事するハミン。


「……うん。」


返事を繰り返すハミンを

腕枕していない方の左腕で抱きしめると、

返事をするようなタイミングで、

何度もゆっくり頷くハミン。

そして、少しすると寝息が聞こえだした。


俺は、夢でもハミンと一緒にいたいと願って

眠りについたから、

多分寝息も2人重なっていたと思う。

多分…いや絶対。

2人の重なる寝息を聞けないのが残念だな。


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