5●疫病神のつぶやき(2)…“本年7月開催”は無理筋か?
5●疫病神のつぶやき(2)…“本年7月開催”は無理筋か?
TK五輪は延期されるのか?
そこで仮定してみよう。
ただしあくまで、物事を推理推測するための仮定であり、“断定ではない”ことをお断りしておく。
N国は現在、オリンピックの開催時期を、7月下旬に定められたままである。
この日程はN国の都合では、全く変更できない。
すべて黒幕様の御意志である。
N国政府もTK都も、IОC会長様のお声に載せて伝えられる、黒幕様のお言葉に、「御意」と平服することしかできない。
この関係を前提としよう。
とすれば現在、N国政府にとって、「今年7月開催」は絶対の命題である。
もう、ただひたすらにこれを遵守するしかない。
だから、IОCの一委員から「中止かな? 一年延期かな?」みたいに揺さぶられたら……
「いいえ絶対7月にやります! 手を打ちます、全国的休校、イベント自粛!」
と、即決で反応するしか無かったのかもしれないのよ、のう。
これがIОC会長ご自身から、たとえば「延期!」と天の声をもらったら、N国政府は「ハハッ御意!」と畏まって、そうなってしまっただろう。
ところが会長でなく一委員が喋ったことだから、N国政府の立場としては「いやーそれも結構ですな、延期しましょう」なんて口が裂けても言えなかった……はずである。
IОC、なかなか抜け目がない……いや失礼、そつがない。
そうやって、N国政府とA首相の“本気度”を試したのであろう。
しかしおそらくその裏で、IОCは黒幕様と密談して、“一年延期”の“可能性”をしっかり協議しているはずであろうことは、容易に想像できる。
表向きは“本年7月開催”を鉄則としつつも、その裏側では状況次第で、“一年延期”もあり得るかと、事前に根回しをかけておくのが、オトナの常識というものであろう。
なにしろ、相手は疫病神の吾輩である。
吾輩が本気を出して世界に猛威を奮ったら、“本年7月開催”が吹き飛んでしまう。
そのとき“一年延期”の代案を出せなかったら、“中止”の憂き目に遭ってしまう。
“中止”だけは絶対にあってはならない。ありえない。
もちろんであろう。
N国政府にとっては、巨額をかけて売りさばいた高額チケットを払い戻す事態など、二万%ありえないに決まっておる。
それに黒幕様も、巨額のスポンサー料を払って確保しているTV放映がフッ飛んでしまうなど、こちらも二万%ありえないに決まっておる。
だから“中止”はありえない。ずぇぇぇぇぇぇったいにありえない!
そこで次善の策として、“一年延期”がひっそりとシミュレーションされているはず……と考えるのが妥当であろう。
それも、かなり具体的に磨かれたプランとして。
そうでなければ、IОCの委員が発言するとは思えない。
ちょっとした思い付きで、無責任に吹聴できる言葉ではないのだからな。
そこでひるがえって、N国の立場に身を置いてみよう。
ホンネのところ、どう思うかね?
“今年の7月開催”と“一年延期”。
これを天秤にかけるとしたら……
賢明なる諸君のことだから、すぐにわかるだろう。
“一年延期”の方に、多大なメリットがあることを。
比較してみる。
断固初心を貫いて、本年7月に開催したら、どうなるだろう?
疫病神の吾輩の魔力は、7月ともなれば、かなり衰えているだろう。
震源地となったC国や、K国やN国では、3月か4月にピークを脱して、ウイルスはほぼ封じ込めに成功していると考えたい。
オリンピック開催地のN国は、ほっと一息つくところだろう。
たぶんN国国内では、“まあだいたいだいじょうぶ、みたいな”宣言が出されていることだろう。
しかし安心などできないのだ。
欧米の感染ピークは、後ろにずれこんでいる。
7月時点では、まだ、感染流行の尻尾が残っているかもしれない。
気候が暑くなれば、吾輩の威力は減衰するという者もいる。
しかし、南半球はこれから冬となる。
南米やオーストラリアではどうなっているのか?
もしも、五輪参加国のいずれかに感染流行が残っていて、WHОが国際的な安全宣言を出せなかったら、7月開催は、ヤバくなる。
そこへ、人種的偏見がかぶさると、もっと厄介だ。
疫病神の吾輩の故郷は、C国。これは間違いなかろう。
すなわち感染の責任者は“黄色人種の国”だと、欧米からは見られているのだ。
黄色人種が先に病魔の手を脱してオリンピック開催に浮かれる一方で、我々白色人種はまだウイルス相手に苦しんでいるのだぞ……と恨まれたら、開催そのものにケチが付くであろう。
国ぐるみの参加ボイコット、とくに有名プロ選手の個人的な参加回避が相次ぐやも知れぬ。
そのような“気分”に支配される中での五輪開催は、とっても不気味である。
それでも開催すれば、N国の国民自身にとっても、“強行開催”と受け止められてしまうだろう。
かりにWHОの安全宣言が出るとしても、5月あたりでできるだろうか?
7月ギリギリになってしまったら、効果は薄い。
かりに選手は参加してくれたとしても、ボランティアはどうか?
“群れるな、騒ぐな、出掛けるな”のイベント自粛ショックを散々当てられたN国民である。
素直に出勤してくれるのだろうか?
クソ熱い夏である。マスクなんかできないしねェ……
それに観客や開催日前後の観光客の問題がある。
3月初旬現在、世界各国がN国民に渡航制限をかけようとしている。
制限をかけられ、それが解かれるのはいつのことか。
5月以降にずれ込んだら、オリンピック期間にN国を訪れる観光客に少なからず影響が出るであろう。
航空機や宿泊のキャンセルが相次ぎ、やってくるのは閑古鳥だけかもしれぬ。
かりに来たとしても……
観光客の一部は、クルーズ船でやってくる。
一部といっても万単位の人数になろう。
オリンピック期間には、巨大クルーズ船が続々と横浜あたりに停泊し、そのままホテルシップとなって、客人が逗留する。
クルーズ船だぞ、一隻で数千人だぞ……
何かあったら、どうするんだ?
吾輩のウイルスは、高温多湿の環境に弱いらしい……とされている。
ただし、高温多湿はクルーズ船の
船内はかなり気密化され、快適な冷房のエアコンで温度と湿度が低く抑えられている。
密閉度は巨大宇宙船みたいなものだ。
要するに、ほぼ密閉されている以上、船内環境は夏でも冬でもほぼ同じなのだ。
ウイルスは冬に流行ったから、夏には流行らないとは、誰にも断言できまい。
船内の大気環境は一年中、吾輩が大好きな晩秋と大差なかろう。
N国のウイルスが誰かの体内に生き残っていて、入り込んだらどうなる?
さらなる問題は選手村だ。
高層マンションの選手村は、まんま、
気密度が高く、快適な冷房のエアコンで温度と湿度が低く抑えられる。
あの、何とかプリンセスを垂直に立てたようなものである。
7~8月のクソ熱いTK、窓など開けられるものか。
そこでN国のウイルスが誰かの体内に生き残っていて、入り込んだらどうなる?
よその国から誰かが持ってきても同じである。
そうなったら大惨事だ。
オリンピックとパラリンピックでパンデミックである。
ことほどさように、今年7月の五輪開催はハイリスク。
それでもやりたければ、吾輩も反対するつもりはない。
しかし普通、3月はじめの現時点では、相当に
IОCのブレーンも、そして黒幕様も、その点は十二分に吟味なさるはずだ。
もしも開催中に、“クラスター”怪獣が現れたらどうなるのか。
ただの“中止”よりもはるかに恐ろしい事態……“途中で中止”の悲劇である。
これはN国だけの問題では済まされない。
真に打撃を受けるのはIОCであり黒幕様だ。
だから物凄く真剣に検討されているはずである。
“一年延期”の可能性が。
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