7●疫病神のつぶやき(4)…次なるモノ不足を防げるか?

7●疫病神のつぶやき(4)…次なるモノ不足を防げるか?




 吾輩の疫病とあいまって、N国国民を翻弄しているのが、モノ不足。

 さいたるものはマスクと消毒用アルコールだ。

 どちらも店頭から掻き消えて、はや一か月。

 とりたてて高額商品でもない日常的な品目が一か月も消え失せて、しかもいまだに入荷の見込みが立たんとは……


 疫病神の吾輩でも、これまでの生涯で初めての事件である。

 昔々のオイルショックのトイレットペーパー騒動でも、欠品期間がこれほどではなかっただろう。


 これは、もう一つの国難である。

 “モノがない”点に関しては、未開のジャングルの奥地と同じである。

 75年前の戦中戦後のあの貧窮の時代と変わらない。

 これでよく、先進国を自称できるものだ。

 それに加えて……


 市中にありふれたドラッグストアどころか、なんと医療機関までが、マスク不足に苦しんでいる。(千葉県柏市の医師会、3月5日:読売新聞オンライン)

 これでは患者数のオーバーフローによる医療崩壊よりも先に、マスクと消毒薬の欠乏で医療が崩壊するではないか。

 まず手術が不可能になる。

 吾輩のウイルスのみならず、あらゆる病気への医療が滞ってしまうのだ。


 こうなると、流行るのは呪術である。

 病魔退散をシャーマンにお願いするしかなかろう。

 この国は卑弥呼の時代に逆戻りだ。


 疫病神の吾輩としては、N国民にくれぐれもご同情申し上げる次第である。

 これでも文明国なのか?


 トイレットペーパーなど紙類も、デマの狂乱でいったん店頭から消えたが、3月5日現在、回復の兆しはちらほらと見える。

 その理由として政府は「紙類はほぼ国産だからダイジョーブ、ご安心を」と保証する。

 国産だから?

 ンなこと、初めて聞いたぞ。

 てェことは、マスクと消毒用アルコールは?


 “日本衛生材料工業連合会 調べ”のデータを参照した。

 マスクの、2018年度の生産量:約55億枚。

 要するに全国で、おおむね年間55億枚を消費しているということだな。

 月平均で5億枚弱。

 ただし高温多湿の夏にはマスクつけて歩けないので需要が減り、おそらく一年でも今頃、2~4月あたりが、インフルエンザの流行に花粉症が重なって需要が大きくなるだろう。

 今年はそこに新型コロナウイルスの特需が上乗せになった。

 素人目にも、この3月は、従来の5億枚の二倍は必要になるんじゃないか……と思えるわな。

 それでも一か月に、国民一人当たり十枚ポッチである。

 N国政府は2月半ばに「週に一億枚生産」する! と胸を張ったが、月産4億枚では、もともと足りるはずのないショボい数字だったと思われる。

 政府のマスク備蓄が700万枚あまりといっても、不足解消には雀の涙だ。

 需要は月間5憶枚から、ひょっとするとその数倍に膨らんでいるやもしれぬ。

 もう一刻も早く、医療機関への供給を確保しないと、マジ医療崩壊ではないか。

 こんなことがリアルになるなんざ、思ってもいなんだわ。

 マスクがなくて手術できない事態なんて、あまりに情けなさ過ぎて、吾輩、涙がちょちょ切れるであるぞ。


 率直に言おう。

 マスク不足で医療崩壊するって、マヌケすぎやしないか?


 それというのも。

 そもそもN国政府の見通し、最初から甘すぎねェか? ということである。


 しかも……

 “日本衛生材料工業連合会 調べ”のデータによると、国内生産量は全体の二割。

 なんと八割が輸入だったのだ。

 その大半をC国で生産し輸入しているという。

 そうかなるほど……


 「週に一億枚生産」できたとしても……

 その数字は、N国にあるマスク生産メーカーの本社が出す数字である。

 帳簿上は、月産4憶枚以上になるかもしれんが……

 それはタダの数字にすぎない。

 現物はC国の子会社もしくは関連工場で作られ、C国国内で山積みになっていたのだ。

 これを、C国が黙ってホイホイとN国へ輸出させてくれるだろうか?

 3月5日現在、N国の感染者数は千人を超しているが、C国では死者数だけで三千人を超している。事態の深刻さはケタ違いだ。

 C国にとってもマスクは、喉から手が出るほど欲しいブツなのだ。

 かたや、N国内の店頭のマスクの棚はどうなっているのか?

 断言はできないが、どうなんだろうかねェ。

 そろそろ、なんとかしてほしいモンだがねえ。


 そして、消毒用アルコールの主原料となるメタノールであるが……

 ある企業の「平成28年度エタノールの世界需給に関する調査役務請負 報告書」によると、“原料となるエタノールは、その全量を輸入しており(中略)。 さらに、中国における需要は増加傾向にあり、他国からの輸入量が拡大傾向にあることから、我が国のエタノールの供給確保は一層厳しい状況に置かれつつある。”とある。


 消毒用アルコールの主原料は、ほぼすべて輸入だったのだ。

 そら、無くなるわな。

 世界各国で取りあいだぞ。

 お値段も高騰していることだろう。

 いずれ店頭に商品が戻ってきても、昔の値段で出てくれるとは思えない。


 しかしねェ……

 なんでこのことを、最初から上手にアナウンスしないのかねエ、N国政府は。

 判り切っているのにダンマリ決め込むのはズルイんじゃね?

 2月初めの時点で不足を認め、同時に“転売規制”をかければいいじゃないか。

 すでに1月半ばに、C国の常連観光客インバウンドの皆様が爆買いして持ち帰られていた時点で、価格統制に動けたと思うんだがネ。


      *


 で、ご教訓である。

 政府の対応が遅いとき……

 モノ不足は、まずはこういうブツに起こるものと心得よう。


  必需品であること。

  消耗品であること。

  代替品がないこと。あっても限られること。

  国産比率が低いこと。


      *


 そして、このまま民生用のマスクと消毒用アルコールがスッカラカンのまま一週間、二週間と過ぎていったら、どうなる?


 由々しきことであろう。

 “マスクと消毒用アルコール”は、一般庶民が防疫を行う、ほぼ唯一の手段である。

 吾輩が思うに、マスクに並んで消毒用アルコールの欠乏が、さらに怖いであろう。

 政府が指摘するように、屋形船やスポーツジムやライブハウスといった、感染の可能性が高い場所への出入りは控え、大規模イベントも観客なしとなった。

 そっち方面の感染の危険性は減った。

 しかし一方、人は家庭で多くの時間を過ごすようになる。

 家庭内感染の危険は衰えていない。

 家庭内の発症と感染を防ぐには、消毒が不可欠だ。

 とにかく、外から家の中に持ち込まれたウイルスをすみやかに殺すことが大切なのだからな。

 消毒用アルコールの無くなった家庭は、疫病神である吾輩が容易に入り込める、絶好の民泊先となる。

 気持ちよく滞在させてもらうとしよう。


 それでも効果的な消毒ができないと、恐るべき事態は……

 家族全員の感染。いわば家庭内パンデミックだ。

 子供の症状は軽くても、親が感染して隔離されたら、家庭崩壊だ。

 精神的はもちろん、物理的な崩壊である。

 隔離期間が長引いたら、家庭は経済的にも崩壊する。


 かといって、市販の風邪薬のCMのように“早めの予防”をすることができない。

 家族のだれかが罹患する事態が、続出したらどうなるか?


 「軽症者は家にこもって四日間ほど様子をみる」のが原則とされている。

 ンなこといっても、37.5度以下の軽い熱だけでは、そうそうPCR検査してくれるはずもなく、吾輩の仕業かどうか、わからない。

 何が原因かわからないまま、咳とクシャミ、発熱、悪寒、倦怠感に身体の痛み、そういった“風邪っぽい症状”を抱えながら、家の中で数日間、いやもっと静養を強いられる人が、増えていく。

 これは統計に現れないだろうが、とんでもない数になるかもしれない。


 もしも、万が一、そうなったとしたら……

 恐るべき種類のモノ不足が生起するかもしれない。


 “風邪っぽい症状”を抱えながら、家の中で、苦痛に耐えて過ごす人にとって……

耐え忍ぶための必需品であり、使えば確実に減り、違うモノで代替できない、ある種のブツが欠乏したとしたら、物凄く困ったことになるのは、明らかだ。


 吾輩は疫病神である。

 しかし諸君たちN国国民の不幸を願うものではない。

 結果的に不幸をもたらしてはいるが、神様なので悪気は無いのだよ。

 そこんところ、わかっていただきたいねえ。


 だから願うのだ。

 これから、家庭内で我慢する“風邪っぽい”症状の人を、ある種のブツの欠乏で苦しめることは、絶対にあってはならないと。

 今から警告しておく。

 そんな事態になったら、一種の社会崩壊だぞ。人災だぞ。

 すでにマスクと消毒用アルコールの先例があるのだ。

 教訓に学び、N国政府は対策を講じるがよい。

 二度あることは三度あると言うではないか。


 第一にマスク、それだけでなく第二に消毒用アルコール製品の価格統制(転売規制)を実施することはもちろん……

 第三の品にも今から転売規制を強化して、先手を打った方が、N国民の不幸を少しでも和らげるのではないだろうかね?




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