8●疫病神のつぶやき(5)…プリンセスの教訓と、“何もしない”?

8●疫病神のつぶやき(5)…プリンセスの教訓と、“何もしない”?



 吾輩は疫病神やくびょうがみである。

 ここ二か月ばかりN国にも滞在し、わが分身のウイルスたちを国民の体内に養ってもらっておる。タダで民泊させてもらうようなもので、感謝感激であるぞ。

 世間では何かにつけて、自分の責任を棚に上げて「コロナが悪い」とのたまう御仁ごじんが目につくが、それはまったくもって遺憾である。


 コロナウイルスの大きさは0.1ミクロン以下とされている。

 脳みそすらカスほども無い我が分身たちなのだ。

 だから悪意は全くない。そもそも意識など持ちようもない。

 勝手に擬人化しないでいただきたい。ウイルスに失礼であろう。

 ウイルスはウイルスなのだ。

 諸君らN国国民は、誰かが多頭飼育崩壊をやらかして近所迷惑となったイヌネコに対して、「犬や猫に罪はない」と、美しき憐憫の情を寄せるではないか。

 我がウイルスちゃんも、そのように可愛がって欲しいものである。


 悪いのは、吾輩の怖さを知りながら「たいしたことはない」と過小評価して対応策を怠り、無策に溺れ、その無策を隠したがる、ある種の人間たちであろう。


 そこで『日本沈没』である。

 半世紀前、1970年代はじめの一大ベストセラーで映画化された、小松左京先生の超有名SFのことである。

 ちなみに本稿も筆者の弁によると、図々しいながらSFの超下座ちょうしもざの端っこに座らせてほしいと願っているそうだ。

 だから『日本沈没』である、どうだ、SFらしくなったであろう。

 原作も映画もとびきり傑作だ。とくに1973年の映画はもちろんCGが使われておらず、その特撮は心酔もの。地震と津波で東京が壊滅する業火の地獄と、総理大臣の丹波哲郎氏の諦観する表情が重なる画面が印象的、後年の『ノストラダムスの大予言』や『大霊界 死んだらどうなる』にも連なる、霊的なおどろおどろしさすら漂うのだ。


 この映画、吾輩が感嘆したのは、地殻変動で沈没してゆく列島の国民を救うべく、国外への脱出計画を講じる丹波総理が、その政策に、もう一つのアナザーな大方針を示唆される場面である。

 “日本国民を一人でも多く救う”のが現在の政策。しかしてもうひとつは……

 “何もしない”。

 すなわち、国民を救うか否かにおいて、“作為”する政策と、“作為的な不作為”の二つが天秤にかけられるのだ。

 これを観たとき、おおっ、と吾輩はショックを受けた。

 “わかっちゃいるけど何もしない”……という“作為的な不作為”も、政策の一つなのだと。

 まさにノストラダムスの大予言的な、思考の大転回であった。


 これまたN国の政策の、ある意味歴史的な常套手段であるともいえよう。

 先の大戦で東京空襲を経て国土が焼け野原になっても、なおポツダム宣言を“黙殺”した政権幹部がそうではないか。

 “本土決戦”さえすれば、すべてを挽回できる、帝国は勝てると豪語してな。

 敗けると知っていて何もしない“作為的な不作為”。

 ンなこと言いながら原爆落とされて“次は東京か”となった途端に大慌て、手のひら返しで無条件降伏したんだが。

 こンときの“本土決戦”を“オリンピック”と置き換えてみたまえ。

 “ポツダム宣言”を“疫病神”に、“原爆”を“IОC、もしくはA国”に。

 なんかこう、今とビミョーに似てやしないかね?

 そういや当時の連合国、米軍の日本本土上陸作戦、マジで“オリンピック作戦”という名前だったのさ。


 “知ってて、わかってて、何もしない”のも、立派な政策のひとつらしい。

 これは、ご教訓である。

 気を付けよう。なにも政治家に限ったことではない。

 町内会レベルでも、この種の空気感と弊害はゴロゴロしているであろう。

 しかし、こと感染症対策でそれをやられてはたまらない。

 聞けN国国民よ、起てよ国民よ!

 各国から入国規制をかけられて鎖国化するこの国は、スペースコロニーに似ている。

 頭文字Gのあの名作ロボットアニメでも、描いていないような気もするが……

 (※『カウボーイビバップ』の映画版で扱っていたかな?)

 あのコロニーに疫病が持ち込まれたら、どないな悲劇になるのか、だねエ。

 円筒コロニー一本まるごと隔離病棟になってしまう。

 だれかがパンデミックSFで書きそうなネタだ。

 ともあれ、心したまえN国国民よ。

 ボーッと生きてて何も声を上げないと、この国は疫病コロニーになっちまうぞ。


 賢明な国民諸氏はもうおわかりであろう。

 N国がこれからどうなるか、明白である。

 目の前におあつらえのモデルケースがあるんだから。

 あの、何とかプリンセス。

 極東の弧状列島、N国は今、動かない超巨大クルーズ船と化しているのだ。

 だいたい同じことが、スケールアップして再現するのではなかろうか?

 何とかプリンセスでは、まず全数検査を行わず、それゆえ未検査の陰性者と陽性者の分離ができなかった。

 結果、陰性者が次々と連鎖的に陽性化、船内感染者が増大した。

 “清潔ルート”と“不潔ルート”が合体していたなど、船内隔離が不徹底だった。

 それゆえ医療関係者や検疫関係者まで感染してしまった。

 陰性とされて下船した人たちから、のちに陽性化するケースが現れ、帰宅先で感染例が出た。

 そうした方々を公共交通機関で帰宅させたなど、油断が見られた。

 全体として、飛びぬけた感染率を示してしまった。


 あのプリンセスの先例。

 あれが失敗例だとしたら、二のてつを踏まないよう、注意しなくてはならない。

 しかし吾輩は危惧する。

 あのプリンセスの先例を検証し、反省すべきは反省し、改善すべきは改善して、これから直面する“本土決戦”ではこのように対処するぞ……という前向きのアナウンスが聞こえてこないからだ。

 まあ、あれはあれでよかったんだ……とナアナアで是認していたら、もういちど同じことが繰り返される……と解釈するしかないではないか。

 どうするつもりなのであろう。

 しかし、待つだけでは、誰かが何かしてくれるわけがない。

 個人ではどうすればいいのか。

 PCR検査すらハードルが高く、そのために繰り返し医者にかかると、クリニックの待合室でウイルスをもらったり、逆にあげたりしてしまう。


 防衛策の基本はマスク。ヒトとできるだけ会わないこと。

 そして自分の手をできるだけ洗い、消毒すること。

 なのにマスクも消毒用アルコールも、店頭から消えている。

 上陸する米軍を竹槍で追い払えると信じ、本気で訓練した、あの時代そのままの雰囲気じゃないかねえ。


 別件だが3月5日になって、これまた突然のやぶから棒に、C国とK国に対する入国制限が強化された。


 もしかすると、海の向こうのA合衆国(以下、A国)でN国人が入国規制対象にされそうな風が流れてきたので、「ちょっとT大統領さん、そりゃいくら何でもご無体でしょう、こないだゴルフのパター差し上げたじゃないですか」とか泣きついたのではないかね?

 んでもってA国から「あんたらN国はいまだに感染発生地のC国や感染拡大のK国からざばざばヒトが出入りしてるじゃねェか。そんなザルみたいな規制の国は危なくて、そこからすんなりウチの国に入ってもらっちゃ困るのヨ」とか叱られたんじゃないのかえ。

 そりゃそうだ、個人のウチだって、感染の恐れある客人を中に入れて好き勝手してもらうのは、内心怖いよな。当然だ。

 が、そこに運よく、N国がC国の国家主席を国賓として招くプロジェクトの延期が決まった。

 当面、C国に気兼ねしなくても良くなった。

 こんな時の政策決定は、早い。

 即、C国とK国関連の入国制限を抜本的強化。

 これでA国が、N国に対する入国制限強化を、多少とも控えてくれるといいのだが……

 なんか、そのへんの心模様が、スカスカに透けて見えるような気もするんだがねえ。

 以上、吾輩の妄想だよ。断定じゃないからさ。ただの思考実験さ。

 もしもそうだとしても、非難するつもりはないよ。

 国内事情に外交関係が影響するのは、今に始まったことじゃないからね。


 ただし一般論として、C国からの入国規制は一か月ばかり遅かったと後ろ指刺されるのは、やむをえないだろうね。


 にしてもねえ、普段は何もしない人が出し抜けに何か始めると、巷ではあれやこれやと憶測を生んでしまうンんだよ。

 もそっと予告期間をおいて、「これは熟慮の上の深謀遠慮だよ」と演出した方がいいという気もするんだがね。それに物事を決めるときは、ちゃんと議事録を残すとかさ。


 それやこれや、吾輩が上陸したことで、N国内のさまざまな側面が、良きにつけ悪しきにつけ浮かび上がってきたようだ。





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