9●疫病神のつぶやき(6)…エコノミック・ウイルス?

9●疫病神のつぶやき(6)…エコノミック・ウイルス?



 吾輩は疫病神やくびょうがみである。名前はコロナ。

 吾輩のおかげで、N国国民の醜い姿もあぶりだされた。


 いわれなき風評被害やデマの類。

 職場での変な圧力で“コロハラ”なる言葉も生まれた。

 海外旅行中のN国人が現地でウイルス呼ばわりされ、迫害される。

 言っとくが、コロナには何の罪もないんだからね。

 そしてモノ不足。

 ウイルスとは関係なく店先に行列を強いられる人々。

 ウイルス並みに蔓延するボッタクリ転売屋。

 これも社会の病理だろう。


 倫理観などお構いなしで自己の利益を追求する人々。

 かつてN国国民は世界からエコノミックアニマルと蔑まれたが……

 いまや疫病神の吾輩まで食い物にする詐欺師やボッタクリ転売屋は、エコノミックウイルスと呼ぶにふさわしかろう。

 疫病で儲ける。死者が出ているのに儲ける。

 その狡猾さ、恐るべきである。


 このままいったらどうなるか。


 先の章で述べたように、N国列島は海に浮かんで動かない超巨大クルーズ船でもある。

 3月初旬の現在、あのプリンセスの二の舞が演じられつつあるような……

 劇場やスポーツジムといった集団活動型の施設は事実上閉鎖された。プリンセスと同じだ。

 人々は自宅にこもりがちになる。各家庭はプリンセスのキャビンと同じだ。

 しかしPCR検査は、遅々として進まない。


 症状を自覚して最初に医者にかかってから二十日近く、計八回の受診を経てようやくPCR検査を受けられ、陽性と診断された例がある。(中国新聞デジタル3月7日)

 三週間も、いわば“隠れ陽性者”にしてしまったわけだ。

 このようなケースの場合、感染はどのように広がるのだろう。

 検査ができるまでは診断が出ない。

 だから本人は職場を休めず、家族も買物などの外出はするだろう。

 まず、同居家族が罹患していないか、心配である。

 さらには本人の通勤経路、そして職場の同僚、家族の買物先、そして接触可能な他の親族へと感染が広がっていく可能性がある。

 職場で感染した人がいれば、たちまちその家族に累が及ぶ。

 “家庭内隔離”なんて口先では言えても、それができるような豪邸に住んでいる人がどれほどいるだろうか。

 アパートや小規模マンションでは、隔離などまず絶対に不可能だ。


 一家族程度の感染は、多分“クラスター”とは呼ばないのであろう。

 しかし“クラスター”未満の小さな規模の感染でも、それが同時に無数に発生したとしたら、ネズミ講的に増える恐れがあるのではないか?

 それって、国内のパンデミックじゃないか?


 最初の段階でPCR検査を受けられ、診断が出ていれば、本人も家族も自己防衛し、行動を自粛して、さらなる感染拡大を防ぐように留意しただろう。


 なぜ、さっさとPCR検査をしないのか?


 吾輩には解せない。

 最初にかかったクリニックの医師が「必要」と診断すれば、その判断を尊重して検査すればいいではないか。

 それをしないのは、町医者は藪医者と決めつけるような印象が漂って、好かん。

 これでは“目に見えて悲惨なほど重症化しなければ、検査してもらえない”ことになる。

 あのクルーズ船で起きていたことと同じではないのか?

 おかしい。

 まるで、検査を遅らせて、感染者の“実数”を増やそうとしているようにしか見えないゾ。

 何故だ?

 PCR検査をしぶることで、データに現れる“見かけ上の感染者数”は実態よりも少なく抑えられる。

 しかし検査が遅れると、自分が陽性とわからぬまま、感染の機会を広げてしまう。

 実際の感染者が、そうとわからぬままに着々と増えてしまうだろう。

 クルーズ船の乗客乗員は三千七百人ほどだった。

 これがN国国民一億二千万人に、今はスケールアップしているのだ。

 疫病神の吾輩ですら、背筋が寒くなるぞ。

 検査が遅れると診断が出ず、患者はより重症化する。

 この列島は、知らぬうちに重症者量産装置になりかねない。

 数字に表せるのに表さず、目に見えない恐怖をわかりながら、目をつむって生きる。

 はてさて、奇妙な国民よのう。


 だが喜べ、N国国民よ。

 皮肉な意味で、悪いことばかりではない。


 N国民は、モノを大事にすることを知った。

 一枚のマスク、一滴の消毒用アルコールを大事に使うことを学びつつある。

 マスクは自作する人もいる。賢明だ。

 アルコールは酒屋のスピリッツで代用する人もいる。呑兵衛だ。

 オキシドールを使うか、塩素系洗剤を十分に薄めることで、ドアノブや手すりの消毒に使う人もいる。


 二月初めには、道端に捨てられたマスクをよく見かけた。

 最近はそれがなくなった。物を粗末にしない。よいことだ。

 一枚のマスクを長持ちさせようと、吾輩も試してみた。

 吾輩の個人的感想としては、煮沸がよさそうだ。

 地獄の釜でグツグツとマスクを煮る。ダシは入れるなよ。

 二十分くらいかけて、じっくりと煮込む。

 そして干す。臭いが無くなり、着け心地は悪くない。

 生地が傷んでフィルター機能は落ちるだろうが、見かけは問題ない。

 医療用ではない安物マスクだ。

 どのみちウイルスは防げないのだから、伊達マスクでよかろう。

 勤倹節約のライフスタイル、見直すべし。

 それぞれの工夫と試行錯誤で、できれば楽しんで乗り切りたいものだ。


 さて吾輩には理由がさっぱりわからんが、円高傾向らしい。

 ナイスチャンスだ!

 マスクと消毒用アルコールに医療品、緊急輸入されたし。

 高値でも確保すべきだぞ。医療崩壊を防ぐために。


 軽症者は医者にかからず家にいなくてはいけないようだ。

 それも、吾輩のウイルスでなく、他の病気でもそういうことになる。

 原因がわからないからねェ。医者に診てもらわないんだから。

 てことは……

 総合的にみて、国家の医療費抑制に貢献することになるわな。

 誰かさんが喜ぶことになるだろう。


 もっとも、残酷な側面としては……

 若者の死亡率は1%以下。しかして80代になると20%ほどにもなる。

 N国国民が総員罹患して、この数字がそのまま反映されたら……

 悪いけど、国家の年金財政に貢献する結果になるわな。

 あってはならないが、誰かさんが喜ぶことになる、かもしれないねェ。

 そうならないためにも、早めの水際対策が大事だったんだけどね。

 どうして一か月前の2月初めにやっとかないのかねえ、全面的な入国規制。

 すでに吾輩の分身がクルーズ船以外のルートからやすやすと大量入国して、サイレントに感染を広げているかもしれないゾ。

 この“手遅れ感”は、まんま、何とかプリンセスの再現だよな。


 それと、全国的な休校措置等で育児のために仕事を休んで減収となった労働者に対する所得補填を、N国政府は考えているという。

 要するに、給与の何割かを税金から差し上げます、というありがたい措置だ。

 しかし、気を付けよう。

 国からおカネが配られるのは労働者に直接ではなく、労働者の雇用主に対して支払われ、つまるところ雇い主を経由して労働者の手に届く……という仕組みらしい。そんなことを小耳に挟んだぞ。

 ということは……

 国に給付を申請するのは、労働者でなく雇用主ということになる。

 雇用主の中に、給付に該当する労働者の員数や、休職した期間を水増しして請求する者が、たぶん現れるだろう。差額はネコババである。

 申請して給付金をもらった途端、労働者に渡さずに倒産するケースもあるだろう。たぶん労働者は一銭ももらえず泣き寝入りとなる。

 独立営業のフリーランサー、これは華のアナウンサーばかりでない。細々とやっている塾やピアノなどの講師、結婚式の司会者やカメラマン、メジャーではないアーティスト、個人事業主とみなされるフリーターなどは、3月8日現在、この制度の埒外らちがいだ。別途、国から少額のおカネを“貸してもらえる”だけのようである。(その後、被雇用者の半額程度の保障がなされるということになったらしい)

 置かれた状況が最も深刻化する人々が救われない事態を、N国国民は警戒すべきではないだろうかね。

 洒落抜きで、コロナウイルスで死ぬ人よりも、コロナ不況で死を選ぶ人の方が多くなるかもしれないのだよ。


 さて、チョイと不確定な要素としては……

 家に引きこもって退屈な防疫生活。

 人類、暇になると子作りに励む。

 国民が能天気だと、来年の出生率、上がるかもしれないねェ。

 しかし子作りは濃厚接触。防疫的には危険行為。

 国民が慎重だと、来年の出生率、下がるかもしれないねェ。


     *


 吾輩は疫病神、人類にとって災厄である。

 しかしそんな吾輩ですら、私利私欲のために利用する輩がいる。

 エコノミックウイルス。

 そいつらに身ぐるみ剥がれる前に、退散したいものだ。

 そんなわけで、アデュー、アフィダゼーン、アリベデルチ!

 吾輩が去るころ、N国国民に希望が甦ることを切に願う。

 それまでは、セルフでサバイバル、がんばろう。

 今日のところはとりあえず、バハハーイだ。




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