10●疫病神のつぶやき(7)…これぞ名案! 2020で開幕だぜ?
吾輩は疫病神である。
つい先日にバハハーイとお別れしたが、またぞろ戻って来た。
なにぶん疫病神であるからな。精力絶倫である。
吾輩の新型コロナウイルスも、陰性化したのにぶり返すというではないか。
出戻りは、吾輩の生活習慣なのである。
ともあれ3月11日。
ついにWHОがパンデミック宣言を出した。
ようやくのことである。T事務局長はこれまで幾度となく“パンデミックにもう一息、もう一歩、もうチョイ”と繰り返しながら、出そうで出ないパンデミ宣言だったので、このままズルズルと来年まで行っちまうんじゃないかと、陰ながら心配していたのだがねえ。
マスコミの取材があるたびに、“出すぞ出すぞ”とほのめかしながら、一向に出さないところは、まるでウソップ童話で“オオカミ出たぞ”とデマを流して喜ぶ“オオカミ少年”であろう。
吾輩、WHОはてっきり“ウルフ・ハウリング・オッサン”の略だと思っていたわいな。
“オオカミの遠吠えおじさん”のことである。
そんなわけで、いまさらパンデミック宣言が出ても誰も驚かないのだが……
同じ11日付けで、ウォールストリート・ジャーナルが興味深い報道を流した。
……2020年TK五輪・パラリンピック組織委員会の理事の一人が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で今夏の五輪開催が難しくなれば、最も現実的な選択肢は開催を1、2年延期することだとの見解を示した。
……ということである。
ほう、N国の膝元から延期説が飛び出したか……と思っていると、すぐさま同組織委員会のM会長が、この発言者の理事に電話して叱りつけ、本人も詫びていた……と報道された。
しかし、肝心のIОCからは、お叱りの報道がない。
それはそうだろう。こんな大それたことを、しかもこの時期に、IОCを差し置いて一理事が勝手に発信できるはずがない。やらかしたらクビものである。
すべてIОCの了解のもとで一理事が発信し、M会長もIОCの了解のもとで叱ったのであろう。M氏にも一応メンツがあるからね。
ということは何者かによる「1~2年延期」の根回しが、N国内にも及んできたということだ。
それでは「中止」の可能性は否定されたのか?
間違いなく、中止はありえない。
翌12日、G国のオリンピアで聖火の採火式が挙行されたからだ。
聖火を点けてしまった。
いったん点けてしまったら、勝手に消せない。
何しろ聖火だもんね。神様のアポロンにもらった御神火だ。
オリンピックをやらずにフッと消してしまったら、大天罰が落ちるゾ。
ということは「中止は絶対にありえない、天地神明に誓ってありえない」と、IОC会長が宣明したに等しいわけだ。
しかし同じ採火式で、IОC会長は「WHОの勧告に従う」と述べた。
五輪開催について、WHОの影響力を重視する、ということだ。
WHОは前日にパンデミック宣言を出したばかりだ。
疫病の世界的流行を認めたことになる。
パンデミック宣言を出したまま、WHОが「オリンピックだけは開催オッケー!」と太鼓判を押せるはずがない。
パンデミック宣言が生きている限り、オリンピック開催……正確には、選手による競技会……は不可能である。
パンデミック中は、オリンピックはペケである。
しかして、パンデミック宣言は簡単に引っ込められない。
前回、2009年の新型インフルのときは、パンデミ宣言を出してから、終息を宣言するまで一年二か月を要している。
ということは、IОC会長は「WHОの勧告に従う」と声明した時点で、この7月の開催は不可能になった、と、言外に断言したってことじゃないかね?
ただし一年も過ぎて、来年の夏以降なら、終息宣言が出せることだろう。
これで、「中止は無い、しかし延期はあり得る」のニュアンスが固まったと、吾輩は考える。
では延期として、それは一年延期なのか二年延期なのか?
そこで次の、ロイター通信の報道だ。
……A国のTR大統領は12日、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、TK五輪は1年延期すべきだとの考えを表明した。無観客での開催は想像できないとした。
……ということである。
さてA国のTR大統領は、なにかにつけて自分の欲望に正直な発言で知られるが、ことIОCは大切なビジネスパートナーであって商敵ではない。
だからIОCの顔に泥を塗ることはしない。
ならば「一年延期」の発言はIОCも了解済みのことであろう。事実、IОCからはクレームや訂正を求める報道がない。
そしてもう一つは、この発言の翌日、TR大統領はN国のAB首相と電話会談をする予定であったということだ。
TR大統領にとってAB首相は忠犬、いや忠実な下僕、いや“
AB首相の顔にわざわざ泥を塗るようなことは、しない。
たまにはあるだろうが、ご本人、悪気はなさそうだ。
ならば「一年延期」の発言はAB首相も了解済みのことであろう。
事実、N国政府から「あーびっくりした驚いた、どないなってんねん」のドタバタぶりは聞こえてこない。
どうやら、「一年延期」あたりで落としどころが探られているように見える。
そのことをIОCもAB首相も迂闊に発言できないから、TR大統領にポロっと漏らしてもらったのだろうと、吾輩は感じたね。
そうか、「一年延期」か……
ちょうど一年後の夏にはA国で“世界陸上”の大会が予定されていて、種目も五輪とずばり重なるので、問題はあるが、両者天秤にかけると、もちろんオリンピック開催を重視することとなり、世界陸上は中止か日程変更の調整がなされているのであろう。
同じ月に同じ種目で世界大会をするのは無意味っぽいので、世界陸上の方が何らかの形で妥協することになるだろうと、吾輩は思う。
一年延期、でいいだろう。
AB首相も、断固絶対に“一年延期”を希望していることだろう、と思う。
自身が首相であるうちに開催できるからだ。
ということでTR大統領は、AB首相に恩を売ったわけだ。
TR「どうだSゾー、おまえが思っている通りのことを言ってやったぞ」
AB「ははっ、ありがたきしあわせ」
という関係になったことだろう。メデタシメデタシである。
まあこれで、キマリだな……
そりゃあそうだろう、ここ二週間で世界の雰囲気がガラリと変わったもんな。
「オリンピック? 何言ってやんデエ、こちとら、それどころじゃネエんだヨ!」
疫病の惨禍だけではない。
収入を失い、経営直撃で倒産し、解雇に雇い止めに内定取り消しまで重なって、あっというまに日干しにされた一般庶民は五輪どころでないのである。
病魔に重なる経済崩壊で、今日明日を生き延びられるかどうかの瀬戸際に立たされているのだ。
オリンピックなんか金持ちの道楽じゃネエか。やめちまえ……
無数の庶民が、そんな気分になりかかっていることだろう。
このまま二か月三か月したら、全国的に「オリンピックいやーん」の声が蔓延しかねないぞ。
テレビで聖火の採火式を見た。
G国国内の聖火リレーも急遽中止になった。
それどころじゃないからだ。
普通、開催国のN国を思いやって、リレーくらいしてあげたかっただろう。
しかしG国には、その余裕すら、無いのだ。
余裕があったら、絶対にやっている。
五輪を延期するかどうか、結論はいつ出るのだろう。
「開会二か月前の五月」というのが定説だが、参加各国とも……
「ンなギリギリまで引き伸ばすくらいなら、さっさと決めちまえ。ウチは大変なんだ、病人と死人で、国民はとっくにスポーツ気分なんかじゃないんだ。先にこっちからボイコット表明するゾ!」
てなことになりかねないだろう。
各国が自主的に撤退したらたまらない。
どこかがやりだしたら総崩れだ。
遅くとも年度内、N国国内で聖火リレーが始まる3月26日までに公式に結論が出るだろう。
3月14日(土)夕刻のN国AB首相の記者会見で、具体的な表明があるかもしれないね。
さて「一年延期」がほぼほぼキマリと受け止めるとして、問題がもうひとつ。
「きっちり四年に一度の開催でなくては、五輪の趣旨に反する」
という、原理主義的ともいえる主張である。
これはこれで正しい。
オリンピックは神様との行事でもあるからだ。
聖火の採火式が女神様のヘラ神殿で行われ、太陽神アポロンの火を授かることからして、ありゃ完全に神事である。
ちょいと横道だが、テレビを見て驚いた。
最初の最初に聖火を受けるトーチの着火剤が、どうみても映画の可燃性フィルムにしか見えなかったぞ!
これは新発見であった。
何の映画だろう。何でもいいというわけにはいかない。
もしかして、史上初の聖火リレーを記録した、レニ・リーフェンシュタールのあの映画なんだろうか? それとも?
吾輩、とっても気になる映像であった。
ともあれ、オリンピックは神事でもある。
疫病なんぞに負けて、開催を延期するのはいかがなものか?
その主張にはうなずける。
だがお任せあれ。吾輩には解決策がある。こうするのだッ!
“開会”は今年にやって、“開催期間”を来年夏まで延長すればよいのである!
なんだ、簡単じゃねェか。
聖火をN国へ運び、聖火リレーは予定通りに行う。
聖なる炎が全国を回る。
これは、全国にはびこる疫病神を退散させる、お払いの儀式だ。
そして7月の開会式の日、新国立競技場で聖火台に点火する。
この時、開会式のセレモニー部分だけを挙行するのだ。
それだけなら無観客で、テレビ中継すればいい。
陛下の御臨席を仰ぎ、“開会宣言”を戴く。
つまり、予定通り“2020年に開会”するのだ。
ただし、そのあとの“開催期間”は一年間延長することになる。
開会宣言の直後で開会式をいったん“中断”し、その一年後、2021年7月に“再開”するのである。続く選手入場その他の御祭り騒ぎは、2021年の同じ日まで、おあずけとするのだ。
“開会は2020年7月、そして閉会は2021年8月”となる。
これなら“四年に一度開催すべし”という主張との矛盾は解消される。
史上最長の開催期間を誇る大会として、ギネスに載ることだろう。
開会式の中断から再開までの一年間、聖火は宮城県に貸出中の旧聖火台と、TKはお台場あたりに仮設の記念聖火台を作って、二か所で灯し続ければいい。
震災からの復興と、疫病からの復興をまとめて願う、シンボリックな“お灯明”となるであろう。
全国から信者が集まり、賽銭箱にはじゃんじゃん御寄附が……
という経済的効果も見込める。
しかもそうすれば、この大会は、疫病に屈服した不運な大会ではなく、“人類の不幸と闘う特別な大会”として演出できる。
ケチのついた落ち目のイベントでなく、スペっシャルな慶事に変身できるのだ。
グッタリ萎えた国民の気分を再び盛り上げてくれること間違いなし、である。
N国政府よ、TK都よ、今からでも遅くはない。
災い転じて福となしてみせるであるぞよ。
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