12●疫病神のつぶやき(9)…聖火リレーはどこへゆく?



 疫病神の吾輩より、一言付け足しておこう。

 オリンピックのことである。


 2012年のインフル特措法を改正して、新型コロナウイルス対応の“特措法”が成立した。

 それにより、N国のAB首相は“緊急事態宣言”を出せるようになった。

 しかし2020年3月14日の記者会見で、AB首相は「まだ緊急事態とは言えない」として、今のところ“緊急事態宣言”には踏み切らないことを言明した。


 そりゃそうだ。

 “緊急事態宣言”を出すことは、国内の疫病蔓延と、その解決の困難さを認めることになる。

 もちろん「この状況では、今年のオリンピックはちょっと無理ですわ」みたいな、悲観的なメッセージになる。

 そうなるとAB首相が、本来IОCにあるはずのオリンピック開催決定権を踏み越えて、しかも開催都市であるTK都をさしおいて、勝手にオリンピック開催権を返上するのと同じ現象となる。

 これはやはり、IОCとTK都の顔に泥を塗ることになる。

 だから当面“緊急事態宣言”は玉虫色のまま懐の中へ留保しておこう、ということだろう。

 納得のできる対処である。


 そこでAB首相は、緊急事態宣言を出すか否かを判断する当面の期限として、全国休校やイベント自粛の防疫効果を判定する「専門家会議の」結果が出る3月19日を挙げた。


 3月19日の専門家会議の答申いかんによって、“緊急事態宣言”を判断する。


 さてこの3月19日だが……

 かの地、ギリシャはアテネにおいて、聖火の“引き渡し式”が行われる日である。

 今のところ、聖火は“ギリシャの聖火”だが、N国へ引き渡されることにより、正式に“TKの聖火”になるわけだ。

 このとき、TK五輪は、後戻りができなくなる。

 よくよくの理由がない限り、「チョット気が変わったので火をお返しします」とはいかない。

 また、IОCもよくよくの理由がない限り、「気が変わったので元に戻せ」とは言えない。

 ここへきて、N国とTK都の顔に泥を塗るわけにはいかないからだ。


 ルビコン川を渡るシーザーのように……

 IОCはこの瞬間を境に「やっぱ中止!」とは、まず絶対に言えなくなる。


 過日、「オリンピックを中止すべきか、その可否判断は5月下旬まで」とIОCの一委員より囁かれていたが、いくら何でも、5月下旬で中止や延期とすればドタキャンに等しい。

 パンデミックの渦中で頑張って、送り出す選手を選考してきた各国は「おちょくるのか!」と怒るだろう。

 それに何よりもN国では聖火リレーの真っ最中なのだ。

 5月下旬で中止しても延期しても、N国としては只今各地をリレー中の聖火が宙に浮いてしまう。

「この火、どーしてくれるんだよオ! どこへ運べばいいんだヨ!」

 そんな、悲痛な叫びが聞こえてきそうである。

 鶴の一声がいかに大好きなIОCでも、そこまでN国サイドの顔に泥を塗ることはしないだろう。


 吾輩がN国首相なら、IОCにこう伝えるだろう。

「3月14日の今、聖火はまだギリシャの持ち物です。もしも今、“緊急事態宣言”を出せば、オリンピック中止論が盛り上がり、“国内が緊急事態だというのに、よく聖火を受け取って持って帰れるものだ”と、野党に批判されかねませんな」

 で、もしも吾輩が逆にIОCの幹部なら、N国首相にこうお願いするだろう。

「頼むから19日の聖火受け渡し式が終わるまで、“緊急事態宣言”を出すのはやめてくれ。聖火を貴国へ引き渡し、貴国の責任においてオリンピック開催を確実に引き受けてからにしてもらいたい」

 N国首相「では、聖火を引き受けてから、“緊急事態宣言”を出すことにしましょう。ただ、緊急事態宣言を3月20日以降に出したなら、その時点より国内事情は“オリンピックどころでなくなり”、オリンピックの延期はまず確実となるでしょう。一年延期か二年延期か、国内の聖火リレーを始める3月26日までに、大筋おおすじの方針をこっそりと教えてもらいたいものですな」


 そんな展開かもしれないねエ……

 なんといっても、“行先のわからない聖火リレー”は気持ちよく出発できねェもんなあ。暗中模索に五里霧中とはこのことだ。

 第一、出発式の来賓祝辞で何というんだ?

 そこでも“予定通り7月開催をめざして”と元気よく言っていいのかね?

 それとも、とりあえず出発して、先のことは走りながら考えるか?


 てなわけで、吾輩は3月19日、そして26日の成り行きに注目している。





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