16●疫病神のつぶやき(13)…“延期五輪”は誰がために?



 吾輩は疫病神やくびょうがみである。名前はコロナ。

 本日は3月25日(水)。

 かれこれ一か月、中止か延期か強行開催かと物議を醸し続けた五輪問題は、ほぼ、“一年延期”で決着をみたようだ。下記の記事を読んだ。



●3月24日(火)(参考:共同通信)

……AB首相は24日夜、国際オリンピック委員会(IOC)のB会長と電話で会談し、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、7月24日に開幕予定だった東京五輪を1年程度延期することで一致した。……


●3月24日(火)(参考:スポニチアネックス)

……(AB首相のコメントとして)開催国N国として、五輪について、(略)おおむね1年程度延期することを軸として、検討していただけないか、という提案を致しました。

B会長からは、100%同意するという答えを頂きました。そして遅くとも2021年の夏までに、東京オリンピック・パラリンピックを開催する、ということで合意を致しました。……



 ということで、目出度くシャンシャンというところか。

 「あくまで予定どおり開催」「まだ四か月ある」「この四週間で決める」などと、すったもんだのポーカーフェイスにフェイントの応酬の挙句だ。

 2021年夏の世界水泳と世界陸上も、それぞれの主催者が歓迎の意を表しているので、おそらく様々な変更は調整済みであり、TK五輪が来年夏に開催されても支障が無いように協力されるのだろう。

 聖火リレーも26日スタートの直前で中止となった。

 たぶん、来年に仕切り直しだ。


 TK五輪が2021年の夏に延期されることは、まず確かと言えるだろうね。


 おおむね、吾輩が予測した通り……

 といっても、たいてい誰もが、そうなるだろうと思っていたんだろうがね。


 AB首相は、2021年9月に総裁選を迎える。四選を目指すかな?

 B会長は、2021年9月のIОC総会で会長選を迎える。再任されるらしい。

 その直前に“延期五輪”が大成功ありきで開催されるってことになりそうだね?

 政治日程の面からも、メデタシメデタシだ。


 しかしN国国民よ心せよ。


 「中止でなくてよかった!」などと、延期されただけで欣喜雀躍きんきじゃくやくしていたら、自分たちがマスコミに踊らされるだけの愚民に堕ちてはいないか、よく自省すべきかもしれないねエ。


 考えてみよう。単純に喜べる事態なのか?


 24日夜の電話会談では、N国のAB首相の方から“一年延期”を持ち掛け、それに対してIОCのB会長がオッケーしたとされる。


 この結論は両者の事務方の根回しによって規定路線となっていただろうから、電話会談のやり取りは、一種のセレモニーと考えていいだろう。

 セレモニーだから、曲者くせものである。

 N国の側から“お願い”したのだ。だからB会長も快くオッケーしたのである。

 何を意味するか。

 “おカネはN国が出してネ”ということと推察される。

 言い出しっぺが、払うのだ。


 さてTK五輪の開催費用は、大会誘致当初は七千億円と見積もられていたのが、2020年時点では三兆円にも膨らむと報道されている。(参考:東京新聞2019.12.05など)


 これが、このたび延期されることでN国に与える経済的損失は6400億円あまりになると算出されている。(参考:2020.3.25NHKなど)


 一方、TK五輪がもたらすプラスの経済効果は“GDPを1兆7000億円程度押し上げる”とされている。(参考:同上)

 延期されたからといって、増えてくれるものではない。


 ということは、差し引きざっくりと収支二兆円ほどのマイナスということになりはしないかね?


 TK五輪で直接的な主催者や関係者は潤うだろうが、国全体としては赤字になるのだ。

 ほぼ二兆円。

 そのうち6400億円は、今から新たに発生するコストである。

 この種の見積もりはたいてい増えるので、一兆円を超すかもしれない。

 だれも肩代わりしてくれない。おそらくN国国民の自腹であろう。


 せめてこの6400億円が、新型コロナウイルス対応策に回せていたら……


 いまさらそんなことを悔やんでも仕方なかろう。

 しかしこれだけは確かだ。


 この国はオリンピックを救うために、新型コロナ対策のいくらかを犠牲にしていくのだよ。


 それが国家の選択ならそれも良しだろう。

 しかし新型コロナ対策は十分と言えるのか?

 イベントの“自粛”、移動の“自粛”、全国的な休校措置、そして四月の学校再開のガイドライン、それらすべてが、“要請という名の実質的な強制”でありながら、具体的なリスクヘッジは、ことごとく現場に丸投げされてはいないか?

 “生徒全員にマスク着用”とペーパーに書いてあっても、現在、店頭のどこにもマスクはなく、文科省が支給してくれるはずもない。

 どうするのかと聞いたら、“マスクは自作してください”と言うことだとか?

 この点に関しては、“帝国臣民は竹槍で本土決戦せよ”と叫んでいたあの時代と大差なかろう。


 ことほどさように、“現場でなんとかしろ”という“要請”だけで国家ぐるみの防疫を遂行していくとしたら、例のオーバーシュートなるものが出現した時、まず犠牲となり総崩れとなるのも、現場の一人一人であることは想像するに難くない。


 そう、問題点は、結果に対して“誰も責任を取らない”仕組みにある。

 責任が明確な指示命令ではなく、“要請”と“お願い”で作り出す“自発的な強制”。

 何かとよく似ている。

 その昔、戦局が行き詰まった果てに、最初の特攻隊が零戦を駆って、フィリピンはマバラカットの基地を飛び立つに至ったプロセスが、それだ。

 特攻を生み出した上官は部下に、あくまで“強制ではなく要請”をしたのだよ。


 では今、新型コロナウイルスの矢面やおもてに立って命を削る人は……

 21世紀のカミカゼ特攻隊になりはしないか?


 旧式のポンコツ戦闘機に爆弾をくくりつけて、“自発的”に体当たり攻撃に向かうしかなかった状況が、一歩間違えば明日の現実となるかもしれない。


 なんとなれば……

 今、新型コロナ対策は、明らかに手薄なのだ。

 (手厚ければ、マスクや消毒液や防護服の不足はすでに解消されているだろう。もう二か月になるのだよ)


 そこをさらに、“延期五輪”に食われようとしている。


 これはギャンブルだろう。

 来年夏まで、国内、とくに首都圏でオーバーシュートが発生せず、TKロックアウト……じゃなかった、これはゲバ用語だったな……ロックダウンを発動せずに済むだろう……という楽観的な賭けに出ているのだ。


 しばらくは薄氷を踏む思いで、この国の人々は生活していく。

 いや、薄氷を踏んでいることを忘れて、人々は日々を明るく過ごしていく。


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