第十六話 過去

 前世での話をしようと思う。


 前世では私は大阪出身、大阪生まれだ。

 その為、油断していると関西弁が出てしまう。

 そうすると、不審に思われるし、私も、言葉は標準語で揃えたいので、いつも標準語で話している。


 今の人生では両親は離婚していないが、前世では、小さい時に両親が離婚した。

 母親側に預けられた為に、私は父の事をあまり知らない。が、不思議な人で、社交的だった父は嫌いではなく、むしろ好きな方の部類に入った。

 だからなのか、死んだ時に私は家族について、いじってほしい。という願いをした時に、両親を離婚させないでください、とお願いしたのだろう。その時に、夫婦円満で、他には、美男美女で、お金持ちで、と付け加えた。


 そのおかげか、今の人生は豊かで、とても楽しい。いつまでも続けばいいのに、そう思う。


 ふと、考えてしまうことがある。

 もしも、この状態を維持するためになら、私はどんなことでもしてしまうのではないのだろうか、と。

 それが、到底許されることのないことだったとしても。














 私は過去にすがりつき、未来を歩まない愚かな人物だ。皆が前を、未来を見て歩んでいく中で、私だけが後ろに下がっていく。

 だって、過去は美しいから。知っているから。今の私を「形成」するものだから。

 だから私は、あの時「現実世界」を選んだのだろう。

 知らない世界より、知っている世界の方がいい。

 そんな気持ちで選んだ。

 と言いたいところだが、実はこれ以外にも理由がある。

 その理由は、また、いつか話す時が来れば話そうと思う。















 蝉の声が聞こえる。風鈴の声が聞こえる。

 祖母の話が終わると同時に考え事も終わるとしよう。

 父たちはどうしているだろうか。

 もうすぐ戻ろうか、と思った時に祖母に話しかけられた。

「これは・・・あまり真剣に聞かなくてもいいけれど、一般論が全て正しい訳じゃないわ。未来に向かって歩こう、という考えがあれば、過去に向かって歩こう、と思ってもいいかもしれない。って何を言ってるのかしら私は。忘れて。」

 だが、その「忘れて」という約束を私は聞き流した。

 どうして、私の考えが分かったのか。

 どうして、過去に向かうことを良し、というような発言をするのか。

 そう、まるで・・・

「もうすぐ戻りましょうか。」

 思考を遮られる。これ以上は突っ込まない方がいいのかもしれない。


 そして、戻ろうとすると、誰かに服を引っ張られた。

 そして振り向くと・・・さっきの座敷わらしがいた。

「どうしたの?」

「これ、あげる。」

 そして渡されたのは風鈴の形をしたペンダントだった。

 かなり大人っぽく、とても綺麗だと思う。

「いいの?これ。」

「いいの。じゃあね。」

 そして座敷わらしは走って行ってしまった。




















 あの人物は危険だ。

 あのペンダントを渡した瞬間、手が触れ合ったが、恐ろしいほどの邪気がこちら側に流れ込んできた。

 座敷わらしとして何百年も過ごし、たくさんの人々を見てきたが、あの人物はこれまで出会った人々の中で、いちばん多くの邪気を持っている。

 しかし、と思う。手が触れ合うまで、あの少女の邪気は特段多い、というわけではなかった。むしろ少ない部類に入る。

 何故だろうか、と考えてみるがわからない。

 まあ、とりあえずペンダントは渡せたし、良しとしよう、そう思う。


 あのペンダントに関しては、屋敷の廊下に不自然に置かれていた。

 なんだろう、と思い拾ってみると、頭の中に「少女に渡しなさい」という命令が流れ込んできて、先ほどのことに繋がる、ということだ。


 謎が多く残るが、これ以上詮索するのはあまりよくないかもしれない。

 座敷わらしとしての勘がそう警告している。

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