第十話 入学

「えー今日はお日柄もよく、お忙しい中、時間を頂戴し・・・」

 ここは体育館。広い舞台に、埃一つ落ちていない床。どこかのスタジアムのように広い中。建てられたばかりなのか、傷が全くない綺麗な壁。

 早いもので、今日は小学校の入学式がある、というか真っ最中だ。二回目の。

 外を見ると、桜が満開で、風が吹くごとに花びらが散っていく。

 時間の無駄づかいと思ってしまう校長の話をスルーしながら、あの日に、一体何があったのかをぼんやりと思い出していた。














 あの後、あの悲惨な光景を見たとき、何故か、時間が止まったのだ。

 そして声が聞こえてきた。

「ああ、見てしまったのね・・・もう少ししてから見たほうが良かったんだけれど・・・まあ、どちらにしよ、いつかは「精神崩壊」させないといけないわけだし・・・事件が起こらないといいけれど、彼女なら大丈夫よね。」


 気づいたら、ベットで寝ていた。

「・・・今のは?」

 時計を見ると、次の日が表示されていた。それと、二時、という数字も。

「どういうこと?」

 頭が回らない。が、考えなければならない。一体何が起きたのか。

 考えは全部で三つ。

 一:全部夢だった

 二:事件は実際に起きて、今まで気を失っていた

 三:事件は起きなかったが、いつも通りの日々だった。つまり、白昼夢

 このうちのどれかだと思う。が、答えにたどりつくためには、昨日のことを知る必要がある。が、今は夜中なので、両親に聞くことは出来ない。明日まで待つしかないのだ。

「はあ・・・」

 夜はまだまだ長そうだ。












 そんなことを思っていたら、いつの間にか朝が来ていた。

 目覚ましのアラームで起きて、二階に降りる。そして、母親に聞いてみた。

「昨日、おかしいことってあった?」

「えっ?おかしいこと?何もなかったわよ。

 晩御飯のメニューも中華で普通だったじゃない。」

 中華?私は食べた記憶などない。

 どういうことだ?まず、二はない。事件はなかったようだから。そして、一については、今思うと、いきなり次の日になっているのはおかしいのでない。

 だとすると、三が怪しいが、私は中華を食べた記憶などないのだ。白昼夢の影響で覚えていないのだろうか。

「どう説明すればいいのかな・・・」

 コーヒーを淹れて、テレビを見る。が、あの悲惨な光景に関するニュースはなかった。


 しかし、本当に事件はなかったのだろうか。

 ないに決まっていると思う私と、怪しいと思う私がいる。

 だが、どう調べようか。少し考えると、あるアイデアが思い浮かんだ。

 対象の座標と状況などが知れる能力を使うのだ。

「対象:昨日見た事故の車の搭乗者」

 調べてみると、ヒットした。が、座標は不明となっている。事故にあって死んでしまい、あの世に行っているならば、納得できる。

 続いて、状況を見てみると、こう書いてあった。

「対象は、昨日の昼過ぎに*****によって殺された。」

 簡素な一文。そして、何者かに殺された事件性。何故か、テレビで放送しない異常性。

 放送局のほうが制限しているのか、あるいは・・・「もみ消された」のか。

 いや、あり得ないだろう。そんなことを思いつつ、念のために対象を「乗っていた車」とすると・・・何故かお店にあった。

 どういうことかと確認すると、「まだ新品で、傷一つなし」と記載されていた。

 あり得ない、その一言だ。まさか、まだ夢の中にいるのか。それとも白昼夢なのか。


 そんな中で、ある考えが浮かんできた。

「まさか・・・被害者は、もともといない存在・・・?」

 馬鹿げている、その一言だ。

 しかし、これが本当ならば、車が新品であることも、事件をテレビで放送しないのも納得できる。

 だが、座標の能力でいる、いやいた、と言った方が正しいのだろうか・・・難しい。


 その後、私はある仮説を立てた。

 まず、被害者は*****によって殺され、いない存在となった。その為、車が新品になったり、ニュースにならず、さらに、今までのことは普通になり、そんなことは起きていない、ということになった。中華の件はこの際、放っておく。

 しかし、あの声がどうも気になる。

 あの美しい、鈴がなるような声。

 聞いたことがある。が、信じたくはない。

 あの声の主がワルキューレという神だということを。

 仮にワルキューレという神だとすると、言動が気になる。

「ああ、見てしまったのね」という。

 まるで何度もやっているような。

 ぞくっと悪寒が走る。これ以上追求してしまうのはやめておこう。世の中には、知らない方が良いこともあるのだ。















 しかし、彼女は知らなかった。

 秘密のパスワードによって開く、次の文章にはこう書いてあることを。

「実行犯:三森 千花

情報提供者:一ノ瀬 雅人」

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