第九話 日常

 幼稚園、それは教育機関である。

 小学生未満の子どもたちが通う機関であり、礼儀などを学ぶ。

 これだけ見ると堅苦しいが、実際は遊びが多めの、楽しいところである。友達にも会えるというメリットがある。

 しかし、私の精神は周囲を大きく上回っている。さらに、そこに追い打ちをかけるかのように、他の生徒があまり話しかけてこない。

 恐らく、親から「あまり関わるな」と言われているのだろう。万が一、無礼を働いてしまったら・・・と心配しているのだろう。

 その他にも思い当たる節がある。

 私が礼儀や言葉使いをしっかりしすぎているせいだろう。

 外では、礼儀作法などを完璧にする。そう決めているため、変えることはできない。


 その為、私がもっぱらしていることがある。

 能力の検証だ。

「反射まで操れるか」

「虫や菌を防ぐバリアは何秒で出現できるか」

「身体能力の向上の異常モードはさらに高みを目指せるか」

 このようなことを行ってきた。

 途中、人体実験のようなこともしたが、怪我人や死者は出ていないので見逃してほしい。


 さて、ある時、遠足があった。

 その日は、私にとって忘れられない日になった。














「はーい、それじゃあ、みんな!遊びに行くよー列を崩さないようにね!」

 まだ若い、二十代半ばの若い、ポニーテールの先生が言う。担任の先生だ。

「はーい」

 みんなが返事をして、大体とはいえ、列を作る。もちろん、私も入っている。他の先生はびっくりしている。

 何故、出来るのか。

 もちろん、他人の心理を操る能力だ。

 しかし、脳がまだ未発達のせいか、うまく操るのが難しい。

 まあ、練習あるのみだろう。

「それじゃあ、出発!」

 そして、歩き出す。今日行くところは、大きめの公園だ。徒歩で十五分くらいだろう。

 他の人たちは行ったことがあるだろうが、目がキラキラしている。みんなで行くのがとても新鮮なのだろう。

 どちらも同じだろう、そう思っている私から見ると少し羨ましい。

「あっ、」

 声が聞こえて、前の方を見ると、女子の一人がこけていた。

「大丈夫?」

 心配をする、がこれは自分に課した仕事だ。

 私は、礼儀や言葉使いを完璧にするだけでなく、優しさを積み重ねることも仕事にする。

 この子には、私を引き立たせる材料にするつもりだ。

 汚いかもしれないが、よしとしてくれると嬉しい。この子にとっては、心配されるのだから。

 そんなことを繰り返していると、近くの公園が見えてきた。

「わぁーい!」

 そしてみんなが駆けていく。元気なのはいいことだ。















 この時はまだ平和だった。

 まだ・・・

 帰り道。まだ陽は傾いていないが、もう帰るらしい。駄々をこねていた子もいたが、能力で無理やり帰らせてきた。

 今思えば、やらない方が良かったのかもしれない。


「キキキキキーッ!」

 突然、音が聞こえてきた。

 周りの人は気づいていない。私の能力が異常なせいだろう。

 車の音、直感的に察した私は、すぐに車道側から離れる。

 周りの人は、ペチャクチャ話しているせいか、私が移動したことに気づいていない。

「・・・車が・・・」

 通行人のおばさんがびっくりしたように、怯えたように車道側を指したのは数十秒後。

 ふと、振り返ってみると・・・














「真っ赤な車」が走っていた。

 それだけ聞いたら、別になんともないじゃないか、そう思うだろう。しかし、場所だ。

「車の中」が真っ赤になっていた。

 いや、真っ赤というよりは、黒っぽい赤と言うべきか。まるで、「血」のような。

「は?」

 直後、車が道路から逸れて、民家の壁に激突した。

 その衝撃で窓ガラスが割れた。

 そして、出てきたのは・・・血。

 窓ガラスの隙間から垂れてきた、と言うべきか。

 この時、車と私たちの距離は百メートルあるかないかぐらい。はっきり、とまではいかなくても、かなり見える。

「大丈夫ですか?」

 近くの通行人がドアを開けようとしている。

 血を一風変わったデザインと勘違いしているのだろうか。

それとも、あり得ない事態に思考が停止したのか。

「は・・・血・・・嘘だろ・・・」

 強化された聴力と視力ははっきりと見てしまう。

 通行人の怯えた声と、たくさんの血。

 車外に出てくるたくさんの「人だったもの」を。

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