第八話 少女(視点変わります)

「今日、昼休みに一ノ瀬グループの屋上に行ってくれない?」

 朝の歯磨きの途中、声が直接頭に響いてきた。

 最初はびっくりしたが、今ではもう慣れた。

「依頼?」

 いわゆるテレパシーの要領で返す。

「そう、社員を消してほしいの。まだ私からは伝えてないけれど、あの男ならすでにまとめているはずだから。」


 あの男の人の第一印象は「絶対に殺しはしないだろう」である。

 事実、殺しはしていないが、協力はする、というポストに落ち着いている。アタリともハズレとも言える。

「了解。」

 うがいをして鏡を見る。そこには美しい、女の人がいる。

 目はパッチリとした二重で、鼻が高く、唇の色は口紅を塗っていないのに発色がいい。輪郭はシャープで、背の高さも百六十二といい感じだ。

 髪はロングで、黒髪がキラキラと光っている。













「最強の魔女」

 それは、わたしの二つ名。

 魔女、ということで、私にはいろいろなことが出来る。容姿をいじることも。

 前世で私は酷いいじめられっ子だった。

 ものを隠される、財布を取られるは当たり前。むしろ優しいの部類に入る。


 そう、あの日。

 私は後者の裏側でホースで水をかけられていた。

 空は曇天。今にも雨が降り出しそうだった。

「あのさあ、もうすぐ雨が降りそうだからぁ、避雷針になってくんね?」

「それいいわね!」

「ふふ、素晴らしいアイデアね!成績上げようかしら。」

 ギャルに、優等生に担任の先生。

 校長さえもいじめを認めているのではないか、という噂も立っている。

「早くしてよー。塾に遅れるじゃない。」

 優等生がスマホをいじりながら言う。

 学校の用事で帰りが遅くなる、と親に送っているのだろうか。

「はぁ・・・」

 そう呟きながら、校庭のど真ん中に立つ。

 後ろから、シャッター音が聞こえる。

「殺す・・・殺してやる・・・」

「なにこいつ、頭イかれ始めた?」

 地獄耳を持つ担任の先生が言う。

 何故、こいつらが死なない。何故?

 何千回と繰り返した問いは、未だ飽きずに出てくるらしい。

 神様、どうか私が死んだのなら、あいつらを・・・殺してやってください。












 ふと、過去のことを思い出す。

 あの後、神に「異世界転生か現実に逆行か」と聞かれた。

 私は「現実で」と言った。

 あいつらに復讐する為に。

 現在、それはうまくいっている。復讐の最中である最近はとても楽しい。

 それは、復讐が気持ちいい、と言うことだけでなく、学校の「女王」として君臨しているのもある。

「おはよう」

 何千回も言った言葉を言う。ここは校門。

 周りには男子が七割、女子が三割いる。

「今日も美しい・・・」

「昨日の宿題、やっておいたよ!はい、これ」

「スイーツ食べに行かない?奢るから!」

 宿題を受け取りながら、質問に応答したり、返事をしたりする。

 容姿、それが超絶的なものならば、学校を支配することも可能だ。前世では得られなかった特権に今でもゾクゾクしている。

「ごめんね!今日の放課後は用事があるの。

 明日どう?」

 笑顔を浮かべながら返事をすると、話しかけた女子は嬉しそうに笑っていた。

 容易い、その一言だ。

 しかし、これがいつまでも続くわけではない。

 今の私の学年は高校三年。

 もうすぐ卒業となってしまう。

 が、有名大学の推薦状が届くように魔法をかけてある。

 ステージは変わるが、女王として君臨し続けることは出来る。

 そんなことを思いながら靴箱を開けると、大きな袋が入っていた。中身は見なくてもわかる。ラブレターだ。

 さっき周りにいた一人が、先に学校に来てまとめてくれたのだ。便利である。

「今日もたくさんね・・・」

 そんなことを言いつつ、教室の方に移動しようとすると、一人の女子が向かってきた。

 その女子はやつれていて、しかし、髪の毛だけはちゃんとしていた。

「おはようー」

 ちっ、と舌打ちをして無視して教室に向かう少女。あの優等生だ。

「うまく進んでいるみたい・・・」

 ほくそ笑む私。

 復讐として、彼女からは自由をなくした。

 前世では、家でも外でも優等生だったのは知っていた。そして、家でのストレスを解消する為に私をいじめていたことも。

 今回は、家でのストレスを大きくしたのだ。

 毎日が習い事と勉強、自由時間もなしという。

 もうすぐ死ぬかもしれない。

 しっかりと記憶しておこう、そう思いながら教室に入っていく。














 そういえば、名前を言うのを忘れていた。

 私の名前は「三森 千花」という。

 是非とも覚えていてほしい。

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