第二話 突然

 今起きているこの現象はどう説明するべきだろうか。

 受け入れられない。まさか・・・


 自分が死んでしまったとは。


 さて、何故こうなってしまったのか。

 それは少し前まで遡る。










 雨が降っていた。バケツをひっくり返したような雨だった。

 スマホの天気予報を見てみると、全国どこもかしこも雨マークだった。五十年に一度の大雨、と明記されていた。

 が、雨が降るのは今夜から、と朝に言っていた。

「外れたか・・・」

 そう言いつつ傘をさす。一応持ってきたのは、不幸中の幸い、そう思っていた。

 現在の時刻は大体四時頃。住宅街をずんずんと進んでいくと、我が家がある。

 そして、我が家が見え始めた頃・・・


 すごい音がした。まるで空が怒っているようだった。

「これはやばい・・・」そう呟き、家に走って向かおうとすると・・・








 白い空間にいた。

「は?・・・何これ?・・・・え?」

 もう一度言う。白い空間にいた。辺り一面が白く、上下感覚さえもなくなりそうだった。

 ホワイトアウト、というのはこういうことを指すんだろうな、そんな場違いなことを思った。

 それだけ、気が動転していたのだ。

「もしかして、私・・・死んだの?」

 思わず声が出てしまう。

 すると声に反応したのか、ある声が聞こえてきた。


「ええ、その通りです・・・すみません・・・」

 鈴が鳴るような綺麗な声が。


「え???・・・は?」

「ああすみません。まだそちらの方に到着していませんでしたね。少々お待ちください。」

 その言葉が聞こえた途端、景色が変わった。


 世界遺産、マチュピチュを連想させるような景色が目に飛び込んできた。

「は?どうゆうこと?」

 その言葉に反応したかどうかはわからないが、目の前に椅子が二脚と、テーブルが一つ現れた。どちらも白く、木で出来ているようだ。その三つのアイテムは、ポンっ、という効果音を響かせながらいきなり現れた。

「ああ、ヒトというのはこのような現象に驚くのを忘れていました。」

 後ろからいきなり声が聞こえて、反射的に振り向く。と・・・


 ものすごい美人が立っていた。

 身長はおよそ百七十から百八十ぐらいだろうか。百六十しかない私にとっては見上げる形になる。

 肌は雪の精のように美しい、というのがぴったりと当てはまる。黒いウエディングドレスを着ているのも影響しているだろう。

 そして、黒いドレスに包まれている体は驚くほど細い。しかし、出るところは出ている。

 そんな中で、もっとも存在感を放つ、というか、気になる部分は、美しい、二十歳ほどの顔を彩る髪だった。

 白髪、というべきか。黒髪は一本もない。しかし、綺麗だとも思う。若い彼女に白髪は少しおかしい気もするが。

「あの・・・」

「ああ、そうですね。椅子に座らないと。」

 そう言い、彼女が椅子に座るのにならって私も座った。

「・・・まず、あなたのことについてお話しします。」

 そして、淡々と事実を言われた。


「あなたは残念ですが、落雷によってお亡くなりになられました。」と。


 この時、私はああやっぱり、と思った。

 むしろ、あの天気で死なずにこんな場所にいるのはおかしいからだ。

「それで、あなたは何者ですか?」

「私はワルキューレと言います。あなたたちにとっては神様のような存在です。」

 まあ、当たり前、というべきか。

 あまり悲しみが湧き上がってこないのが不思議だ。

 まだ受け入れられていないのか、

 そもそも涙がとっくに枯れているのか。

 私は後者だと思う。


「それでは、今後は一体どうなるのでしょうか?」

 一番気になることを質問する。

「そうですね・・・あなたには二つの選択肢があります。一つ目は、異世界転生。二つ目は、現実世界に逆行です。まあ、タイムリープという形ですね。無理強いはしません。あなたの好きな方を選んでください。」

 そして私は即答する。

「現実世界で。」と。

 その時、彼女が笑ったのは気のせいだろうか。

「では、それに伴って、あなたに、三つ願い事を叶える権利を与えます。」














 さて、どうするか、とワルキューレは思った。

「・・・では、最初の願いは、今持っている記憶をそのまま保持するというもので。」

 その時、彼女は焦った。

 まさか、こちらの考えに気づいたのか、と思った。

 もしも、記憶保持の願いがなければ、最初から優秀な殺し屋に教育することが可能になる。間違いなく、その方が確実に駒には仕立て上げられる。

 が、神様として、願いは聞かないといけない。

「ええ、分かりました。それでは、次の願いは?」

 そのあと彼女は、家族に関して、少しいじってくれ、ということと、一日一回何でも願いが叶う能力が欲しい。と言った。

 私は、全ての願いを叶えることにした。

 後々、この願いと、この願いを叶えた事実が有効に働くと思ったからだ。

「分かりました。願いは叶えます。・・・良い人生を。」

 殺しをさせる時点で、良い人生とは言えないだろうが。

 そんなことを思いながら、彼女を見送った。

 消えていく彼女を見ながら私は独り言を言う。

「これからは忙しくなりそうね。」











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