第十五話 帰省
「うわぁ・・・」
思わず声が出てしまった。
何に対して声を出したのか。それは、父の実家が大きすぎるからである。
ここは横浜のとある住宅街。
高級住宅街と言うのだろうか、大きくて高い家ばかりが立っている。まあ、私の家も大きいのだが。
そんな洋風の家が立ち並ぶ中で、その家はある意味異質だった。
何故なら、その家は和風建築だったからだ。
どんな感じかと言うと、サマーウォーズに出てくるあの大きい家の小さめバージョン、といったほうがいい。
池があったり桜の木があったりと手入れが大変そうだが、とても綺麗だ。
「ただいまー」
父がのんびりとした感じで言う。
「おかえりなさい。」
「おお!久しぶりだなぁ」
上品なおばあさんと強面なおじいさんが迎える。
誰か、というと父の母の一ノ瀬 佐知子と、父のそのまた父の一ノ瀬 洋一郎だ。
「久しぶりねーさあさあ上がって上がって。」
「酒もあるぞー」
私から見て祖父の一ノ瀬 洋一郎は酒豪だと父が言っていた。
元気とも言えるし、心配とも言える。
そして家の中に案内される。
当たり前だが、綺麗で、とても美しいと思った。
ちなみにだが、父の実家に行くのは記憶上、初めてだ。正確には赤ちゃんの時に来たらしい。父の祖父母の予定、父の予定の関係で何年か会えない状態が続いたみたいだが、父の会社がある程度、安定、余裕が出てきたので、今年の夏、帰省することとなった。
「そういえば、兄さんは?」
「仕事が忙しくて帰ってこれないみたいよ」
私の父の兄であり、旅客機のパイロットでもある一ノ瀬 悠人に、実は一回会ったことがある。
日焼けをしていて、陽気な雰囲気を纏っていたのを思い出した。
「さてと、せっかく来たんだから観光とか色々とあるけれど、まずはお昼よね。」
「あっ、じゃあ私お手伝いします。」
「私も、いいですか?」
この際、母に便乗して手伝うのもいいかもしれない。
「ご馳走様でした。美味しかったです。」
「あらあら、ご丁寧にどうも。何でも食べて偉いわね。」
前世で色々と嫌いなものを、やんわりと、しかし、厳しめに母親に克服させられたからだ。
にしても美味しかったな、と思う。
今度、料理にチャレンジしてみようかと思う。
料理が好きな、模範的で美しい大金持ちの家の一人娘。うん、いいな。料理は出来て損はないので今度、母に頼んでみよう。
その後、今日はゆっくりとして明日出かけよう、という風にまとまり、私は屋敷を探検することとした。
「にしても大きいなぁ」
キョロキョロと辺りを見回しながら呟く。
蝉の声がうるさくはないぐらいの音量で鳴り響き、どこからか風鈴の音が聞こえてくる。
まるで小説の世界のようだ。遠くの方に入道雲が見える以外は青空が広がっているし。
こういう景色っていいな、と思っていると、どこからかトタトタと音が聞こえてきた。
「?誰かいるのかな?」
祖父母たちは本館に居るはずだ。
今、私が居るのは別館。使用人だろうか。こんなに大きい家ならば、一人ぐらいはいそうだ。
そう考えていると、少し先の角に赤い着物の端が見え、消えた。
「・・・追いかけてみよう。」
今度が自分がトタトタ走り、追いかける。そして、角を曲がったところに・・・
いわゆる座敷わらしがいた。
黒髪でおかっぱ頭、可愛い顔に赤い着物。年は十歳に満たないだろう。
「は?」
その声に反応したのか、近くにあった部屋に入り込んでしまった。
慌てて中に入ると、座敷わらしと・・・祖母がいた。
「?どうしたの?走ったりして。」
「えっ?何でここに?・・・じゃなくて、見えないの?ここに座敷わらしがいるやん!」
あっ、やばい。興奮のあまり、関西弁が出てしまった。
「座敷わらし?・・・もしかして見えるの?」
「見えるの?って見えるけれど・・・」
「そうかい・・・雅人と同じだねぇ」
「えっ?」
同じ、ということは父もこの体験をしたということか。聞いたことがないが。
「小さい頃よくあの子は、河童がいるやら、幽霊が出てきたとやら、よく騒いでいたよ。でも、不思議と不幸なことは起こらなかったね。」
「はあ・・・」
座敷わらしは部屋から出てしまったが、対して気にならなかった。話に集中していたからだろう。
「あの子は不思議だよ。未来の事を当てたりしていたね。」
「未来の事を?」
「未来、といってもせいぜい一週間後のことだったけれどね。」
いよいよ父のことが分からなくなってきたが、とても気になるので、今度聞いてみようと思う。
「そんな不思議なあの子だけれど、無茶、無理は当たり前にしたりする時があるからね。
そういう時は、助けてあげるんだよ。」
「分かった。」
助ける、か。前世では想像しなかったことだ。
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