第十四話 母親(視点変わります)

「で、今回については?」

 ここは自宅。現在の時刻は午後十時。娘はもう寝てしまっている。

「参加はしなくていい、だって。」

「そう・・・・」

 思わず安堵のため息をつく。はっとしてすぐに平常心を保とうとするが、夫はすでに気づいていた。

「・・・嫌なら、記憶を消して元の生活に戻ることも出来ると思うよ。」

「いえ、やめるわけにはいかないわ・・・」

「そうか・・・」

 コーヒーがとても熱い気がした。















 普段、私は専業主婦として生活している。

 たまに買い物に行き、ダラダラしながらテレビを見たりする。

 が、私にはもう一つの顔がある。

 それは・・・

 人殺しだ。

 ちなみに警察には捕まらない。何故なら、その人自体が消えているからだ。そんなことが出来るのは・・・神様ぐらいしかいない。

「あの人・・・ワルキューレさんはどうしてこんなことが出来るのかしら・・・」

「・・・自分が手を下さない、又は精神が正常ではない、のどちらかだろうね。」

 ポケットから懐中時計を出しながら夫が言う。

 その懐中時計は、美しく、精巧だ。

「そういえば、私はまだ貰ってないわ・・・」

 ふと思い出す。

「まだ、始まってから日が浅いからじゃないか?この「魔法道具」は何年も協力したらあげる、とあの人も言っていたからね。」

「魔法道具」それは大きな仕事をした、又は何年も働いた人に下賜される道具だ。

 主に人殺しをしている人には、アクセサリーの形をしている、依頼を実行する時には武器になる魔法道具が与えられ、協力者には、懐中時計や、ストラップなど、普段、自分の近くにある物の形をしている魔法道具が与えられる。


 ちなみに魔法道具は何が出来るのか。

 色々なことが出来る。いざという時には盾になり、形を変えたり、人物の情報を記録したり、神から連絡を受けることが可能だ。

 蛇足だが、神から、魔法道具に連絡が来るのは逆行者以外の人だ。逆行者は頭に直接話しかけることが可能らしい。そう、らしいということで、詳しくは分からないのだ。


「・・・あの子がこの事実を知ったらどんな顔をするかしらね」

「さあ・・・怒るんじゃないかな」

「・・・そうよね。」

「もう寝ようか」

 そうしましょう、と言って、コーヒーを流し台に持っていくと、キッチンの片隅の方に何か光るものがあった。

「ヘアゴム?」

 特におかしいところはない、黒色のヘアゴムだ。美しい、少し小さめの白い花が一つ付いている。なぜか光っている点を除いて。

「・・・!これってもしかして・・・」

 試しに触ってみると、チカチカと光った。


「魔法道具、だろうね。」

「えっ・・・でも何で?」

「さっきの会話を聞いていたとしたら?」

 しん、と静寂が訪れる。


「だとすると、あの人は私たちのプライベートまで侵入しているって事に・・・」

「ああ、油断は出来ないね。下手な事を口走ったら・・・」


 消される、その言葉が二人とも思い浮かんだろうと思う。
















 裏切り者には罰を。

 この言葉は初めてあの人が話しかけてきた時に聞いた言葉だ。

「罰」

 それは「死」を意味するものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る