第21話 女子会?⑤
部屋から出ていこうとする僕に気が付いたのか、夢が滑る様に扉の前までやってきて行く手を塞ぐ。
「どこに行こうとしてるのかな~?」
「どこって部屋だけど」
「途中棄権は負け扱いになるけどそれでもいいの?」
「はぁ?バトルロイヤルで全員に勝ったんだから僕の優勝で終了だろうが」
反対に、は?と言わんばかりの顔で僕の事を見つめる夢。何も変な事は言っていないはずだが。そこで横から空乃と音筆が口を挟んできた。
「目依斗さん、夢ちゃんは一言もバトルロイヤルだなんて言ってませんよ?」
「そうね、確かに言っていなかったわ」
二人共ニコニコしている。
「でも実際そうなってるんだけど」
「目依斗、このゲームの参加者はもう君一人だ」
僕の両肩を前から掴み、話す夢。
「そうだな。一人で出来るゲームなんてないし、だから僕の勝ちという事で終わりだろ」
「ふっふっふ、それでは始めよう!ファイナルゲーム!」
「コイントス!」
「コイントス!?」
――コイントス。
単純にコインを親指で上空にはじき飛ばし、手の甲でキャッチする。そのコインが表か裏かを当てるゲームである。
「んじゃ、夢が投げるから目依斗が当ててね。一発勝負で外したら目依斗の負けだから」そう言って夢は自分の財布から百円玉を取り出した。
「お前ら、ただ僕を負かす事だけを考えていないか?」
バトルロイヤルだと思い込んでいたが、どうやらデスマッチに変わっていた様だ。
「そんな事あるね」
「あるわね」
「ありますね」
「全員素直だ!」
「ねぇ夢」
「なぁに?琴ちん」
「そのコイン投げる役、私にやらせてくれない?」
「あ、さっき負けたからリベンジマッチってやつだね?」
「そういう事。このままじゃ私も悔しいしね」
そう言って僕の方を見る音筆。
「じゃあ、いくわよ」
「しょうがねぇ……いいぞ」
その格好だと正直目のやり場に困るんだが。
「えいっ」
上空に投げられた百円玉は勢いがつきすぎて思いっきり天井に当たり、その反動でそのまま音筆の頭上へと落下した。
「あ痛っ!」
無表情で無言で頭を抱えて痛がっている音筆を見る。
空乃と夢も同じだ。
「今のはナシ!ナシだから!」
「……」
「何か言いなさいよ!」
「……もう一回だけだからな」
「分かってるっ……てのっ!」
もう一度力を加減して飛ばし、今度は見事に手の甲でキャッチした。
「やった!」
「おぉ~」
夢と空乃が拍手する。
感心するとこそこなのかよ。
「さぁ、表と裏どっち!」
その手の甲を僕に見せつけ言った。
「そうだなぁ……」
うーむ、どうしようか。
裏……いや表か。
「十、九、八、七」
カウントダウンし急かす音筆。
「あぁー、じゃあ表で!」
「表ね、本当にいいのね?」
「ああ、それでいい」
ちなみにと言い出し音筆が続ける。
「夢、コイツが負けたらどんな罰ゲームなの?」
「先に言っちゃっていいのかい?」
「いいよ、僕も気になってたから」
「ではでは先に罰ゲームを発表するよ~。もし裏だった場合、目依斗の罰ゲームはこれだ!」またバッグをゴソゴソしだしたと思ったら、とんでもない代物を取り出した。
「女子高生セット~!」
ブレザーやシャツ、スカート、リボンにカツラまでご丁寧に用意されていた。
「アホか!なんでそんなもんまで持ってんだよ!」
「だってだって絶対目依斗なら似合うと思って~」
「似合う訳あるか!」
「確かに似合いそうね……」
僕の方をまじまじと見つめる音筆。
空乃はというと。
「はっずせ!はっずせ!」
もう酔っていてキャラが滅茶苦茶だし、目はキラキラさせてるし。
「外したらだからな!もう一回とか絶対にやんねーからな!」
「分かってんよ~。だから外してね。夢からのお願い」
「その願いだけは叶えられんわ!」
「で、表でいいわけね?」
「あぁ、いいよそれで」
頼む頼む。
そーっと左手の甲から右手を離す音筆。百円玉はというと、百が上を向いていた。やっちまった。
「うああー、まじかよおぉ!」
「なんでよー!!」
音筆と言葉が被る。
それと同時に夢と空乃の落胆する声も聞こえてきた。
「ん?」
「え?」
再度声が被り、音筆と目を合わせる。
「なんでアンタが悔しがってんのよ」
「なんでって、外したからに決まってんだろ」
「意味分かんないんだけど……」
そこで夢と空乃も割って入ってきた。
「表だから目依斗の勝ちじゃん」
「そうですね、非常に残念ですけど非常に」
「何言ってんのお前ら?」
まさかこいつら、百の方が裏だって事を知らないのか……?これは占めた。
「あ、あー、そうだった!そうだった!見間違えてたカナ」
このまま間違えていてくれれば僕の勝ちだ。
「くっそー、また負けるなんて~!」
悔しがる音筆と残念そうにする空乃。
一方、一人だけ疑念を抱いてる奴がいた。
そいつは一人、何やらスマホをいじりだした。
やめてくれやめて。
「ほっほ~う」
そう言ってニヤッとして僕に問いただす。
「目依斗さんや」
ギクッ。
「どうしたんだい夢さん」
「このまましらばっくれるつもりじゃあないでしょうな~」
ギクギクッ。
「何を言っているのか僕には全然意味が分からないカナ」
「何々、どういう事?」
「えー、コホン。ファイナルゲーム、勝者は~~琴ちん!」
「なんで!?」
「嫌ァーーー!」
そこで夢は改めて皆に実は裏だった事を説明した。
しらばっくれようとした事を責められるだろうと覚悟していたが、僕に勝って嬉しい気持ちの方が上回ったらしい。
「やった!水崎に勝ったわー!」
嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる音筆。
たゆんたゆん揺れていますよ、音筆さん。
「負けた……」
「じゃあこれ、制服ね」
夢がセット一式を僕に手渡す。
「そんな軽く渡されていい様なもんじゃないんだけど!?」
「まぁまぁ」
「それになんかこの制服、結構着古した感があるような」
「そりゃそうだよ。だってそれ、今年まで夢が着ていた制服だからね」
なん……だと……?
「え、これ夢が実際に着て高校に通ってたやつ!?」
「そうだけど?って、何匂い嗅いでんのさ!」
「良い香りがします」
僕はギュッと制服を抱きしめた。
「目依斗のアホっ!」
「じゃあこれは有り難く頂戴していきますね」
「誰もあげるなんて言ってないんだけど!?」
いよっしゃあああ!
現役女子高生だった夢の制服をゲットしたぞ!
負けて良かったああ!
イーヤッフゥ!
「こぉーらぁー!」
暴走していた僕にヘッドロックをかましてくる音筆。
もろに顔が胸へと当たる。
「いでででで!ギブギブ!」
音筆の脇腹を必死で叩いた。
「何するんだ……」
やっとの思いで解放された。
「それは夢の台詞でしょ!見てみなさい夢の顔を」
夢の方に目をやると、なんとも言えない顔をしていた。
「どう、反省した?」
「はい、反省します」
「分かればいいのよ」
そこで空乃に腕を掴まれた。
「じゃあ行きましょうか目依斗さん」
「空乃?僕もほら一応健全な男子だからさ、着替えを見られるのは恥ずかしいというか」
「大丈夫ですよ、着替えてる間は後ろを向いておきますから」
「それはそれで何か男女の立場が逆といいますか……」
「私の着替えが見たいんですか?」
「いいんですか!?」
「いい訳ないですよね?」
あ、ニコニコ空乃さん出現だ。
「はい、すみませんでした」
「でもでも、この中だったら目依斗は誰の着替えを覗いてみたい~?」意地悪く夢が聞いてきた。
「なんて事を聞いてくるんだお前は!」
でも誰が一番か……。
三人の着替えている下着姿を想像してみる。
空乃の場合は清楚な水色の下着だろうか。夢はスタンダードな白な気がするし、音筆は黒か……いや、ピンクの可能性も……。うーむ、ここはメディア化に期待するしかないな。
「何こっち見てんのよ……」
無意識に音筆の方を見ていた。
恥ずかしがり、胸を隠すような仕草をしている。
なんだかさっきから音筆が異様に可愛く思えていたりする。これがギャップの効果なのだろうか。
「目依斗さん?さっきは私に見ていいか聞いてきましたよね?」
またこれ怒ってるやつや。
――そうして僕はそのまま空乃に連行され、見事なまでに女装させられた。ここは僕の黒歴史になるだろう。三人には大量に写真を撮られ、音筆にはまたツーショットまで撮られた。この話は僕も進んで語りたくはないし、需要もないと思うので割愛させてもらう。いつか機会があれば話す事もあるかもしれないが。
時刻は間もなく0:00になろうとしている。ようやく僕は解放され、一人部屋にいた。アルコールを摂取した後の風呂は危ないから止める様、空乃達に忠告したのだが、そこは女性。シャワーだけにするからと言う事を聞かずに皆で入っていた。夢は関係ないけどな。
こういう時、漫画でよくあるような定番のお色気はなかった。当たり前だが。僕は結構酔っている自覚があるので、風呂は明日の朝に入る事にした。
さぁ寝ようと思っていたのだが、ここにきて遅番の生活のせいか寝付けずにいた。昨日までは丁度今頃帰って来て、明け方位まで起きていたからな。そこから少し寝て、空乃と朝ご飯を食べて、風呂に入ってもう一度寝るという生活。
山下さんは今日もバイトだな。
帰り道、大丈夫だったかな。
まだ一日しか経っていないのに、心配になる。
放置していたスマホを見ると、それを見透かしていたかのように山下さんからRineが入っていた。というよりもこの時間は最近毎日山下さんと連絡を取り合っていたので、連絡がくるだろうと自然にスマホを見るようになっていた。
『無事に一人で帰れたよ』
それを見てホッとするやら嬉しいやらで少しばかりにやける。
『丁度心配してたよ。それなら良かった』
僕も返事を返す、と同時にすぐに既読が付き、ありがとうと返ってきた。
そこからいつものようにRineで何度かやり取りを交わす。
もはや日課になっていた。
何だかんだで一番やり取りをしているのが山下さんなのだ。
『僕がいない仕事はどうだった?w』
僕らはwを多用する。
『んー、寂しかったよw』
これまたにやける。
『はいはいw』
『信じてないなーw』
『うんw』
『うわ、ひどw』
『そうだね(˙-˙)』
『出た、真顔ww』
『ww』
『水崎君は明日からまた早番でしょ?寝なくて大丈夫?』
『ああ、なんか寝付けなくてw』
『私が添い寝してあげようか?w』
『是非お願いしますw』
『とか言って誰かいるんじゃないの?w』
『そんな子いるわけないだろw』
『馬鹿にしてるなw』
『してないよww』
『嘘つけww』
『いそうだなって思っただけww』
そんな子いないのが現実だ。
仮に僕が女性だったとして、僕みたいな奴を好きになるかって言われたら答えはNOだ。自分で言うのも悲しいが、僕には良いと自信をもって言える部分が一つもない。
惨めすぎる。
コンコン
扉をたたくノックの音が聞こえた。
空乃かな?
「どうぞ」
「あ、まだ起きてたんだ」
そう言って部屋に入ってきたのは音筆だった。
Tシャツにパーカーを羽織り、下はジャージというラフな姿だった。
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